九州エリアで発生した太陽光・風力発電の出力制御、今後の出力制御率や他電力の動き
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2018年11月18日
一般社団法人エネルギー情報センター
「優先給電ルール」に則り、九州電力は、2018年10月21日に、九州エリア(本土)において再エネの出力抑制を実施しました。離島を除き、九州本土において初めての出力制御となり、11月5日までに合計で6回実施されています。
九州本土において初めての出力制御
2018年7月に閣議決定された第5次エネルギー基本計画では、「再生可能エネルギーを主力電源化していく」ことが打ち出されたこともあり、再エネ普及に向けた取り組みが期待されています。
日本においては、日照条件に恵まれている九州地方が再エネ主力電源可の流れを強力に後押ししています。2018年7月末時点で、九州地方では合計約800万kWの太陽光発電が導入されており、高い太陽光発電の導入比率(全国の約2割)を実現しています。
また、ゴールデンウィーク中の2018年5月3日の13時には、全需要の約93%(太陽光は81%)もの量が再エネで賄われており、瞬間的には大部分を再エネで運用してきた実績が九州地方にはあります。
国際エネルギー機関(IEA)は、天気等により発電量が変動する再エネの導入比率がどれくらい進んでいるかによって、世界の国や地域を4つのグループに分けています。その中で九州地方は、日本で唯一、再エネ導入が進む欧州各国(ドイツ、スペイン、英国など)と同じ「フェーズ3」に位置づけられています(図1)。
再エネは環境負荷が少ないだけではなく、近年はコスト面においても優位性が高まってきておりますが、しかし発電量の制御が難しいという欠点を持ちます。
例えば、日照条件が良い時間帯に太陽光発電量が極端に増えると、発電量が需要量を上回ってしまう可能性があります。そうした場合、広域で停電が起こることを回避するためにも、発電量を調整していくことが必要になります。
この時、発電量と需要量を一致させるルールを定めたものが「優先給電ルール」です。太陽光や風力発電の制御が、このルールに基づいておこなわれます。
制御の順番は電源の特性に合わせて決められており、①火力の制御、揚水の活用→②他地域への送電→③バイオマスの制御→④太陽光・風力の制御→⑤水力・原子力・地熱の制御となっています(図2)。
つまり、ルール上において、気象の影響を受けやすい太陽光や風力発電については、火力抑制・揚水活用等の回避措置を講じてなお余剰電力が発生する場合、出力制御が行われることとなっています。
この「優先給電ルール」に則り、九州電力は、2018年10月21日に、九州エリア(本土)において再エネの出力抑制を実施しました。離島を除き、九州本土において初めての出力制御となり、11月5日までに合計で6回実施されています。
電力広域的運営推進機関、出力制御が適切であったか検証
電力広域的運営推進機関は、今回の九州電力による出力制御について、法令および指針に照らして適切であったか否かを確認および検証しています。
まず「優先給電ルール」に基づく抑制等について、九州電力は今回、電源Ⅰ・Ⅱの火力発電所についてLFC調整力2%を確保したうえで、最低出力運転又は停止としています。
出力制御の際、石油火力は全台停止し、石炭火力は夜間に向けて供給力確保のため、1台運転する状況となっていました。LNG火力は、負荷追従性に優れているため、LFC調整力(2%)を確保したうえで、BOG消費や補助蒸気確保に最低限必要な発電機のみを最低出力運転とし、残りは停止されました。
揚水発電機は、当日の出力抑制時間帯において揚水動力により上池にくみ上げることで、余剰電力を最大限吸収しています。
電源Ⅲ(バイオマス混焼電源を含む)の火力発電所とバイオマス専焼電源は、九州電力と各発電契約者との間で運用に関する覚書または申合書を締結した最低出力まで抑制されました。なお、地域資源バイオマスは、周辺環境に悪影響を及ぼす等の懸念があることから、出力抑制の対象外となっています。
他エリアへの送電については、中国九州間連系線の未利用領域を最大限活用して、再エネ電力を中国以東のエリアへ送電しています。
また、需要予測や太陽光・風力の出力想定も適切であったことから、電力広域的運営推進機関は、今回の九州電力による出力抑制の指令は、適切であると判断しています。
93万kW程度の出力制御を実行
九州電力は、エリア供給力がエリア需要等を上回ると判断し、2018年10月21日に再エネ出力制御約118万kWを実施しています。前日計画に基づき、前日16時頃に旧ルール事業者に対し出力制御を指示しました。(出力抑制は、再エネ特別措置法施行規則第14条第1項第8号イより、原則として抑制を行う前日までに指示を行うこととなっています)
なお、計画における再エネ出力制御量は約118万kWでしたが、実需給では太陽光出力が低めに推移(▲37万kW)したことなどから、指定ルール事業者24万kW程度の出力制御が解除されています。そのため、旧ルール事業者は前日指示に基づき、93万kW程度の出力制御を実行しています。
電源の構成を見ると、原子力発電によるものが400万kWあり、今回の出力制御に大きな影響を与えていることが分かります(図3)。このように、原子力が柔軟性を提供できない点は、系統運用上の問題の一つではありますが、しかし停止可能な火力発電でカバーする場合は、国民負担の増加や、CO2排出に繋がります。
資源エネルギー庁によると、100万kWの原子力発電所を止めて、太陽光と火力で同じ量の電気を供給した場合、概算すると1日当たり1.3億円の国民負担が増加すると試算しています。
今後の出力制御率、再エネ接続が増えるにつれ増加する見込み
平成30年9月末時点における、九州本土(離島除く)の再エネの接続・申込状況については、太陽光発電については接続済みが812万kW、風力は50万kWとなっています。
「接続契約申込み」等の案件も含めると、太陽光発電は1,794万kW、風力発電は1,346万kWとなり、30日等出力制御枠(太陽光817万kW、風力180万kW)を大きく上回ります。
太陽光 | 風力 | バイオマス | 水力 (揚水除く) |
地熱 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
接続検討申込み | 265 | 1,102 | 260 | 7 | 26 | 1,661 |
接続契約申込み | 300 | 111 | 2 | 1 | 1 | 414 |
承諾済 | 417 | 83 | 114 | 12 | 1 | 626 |
接続済 | 812 | 50 | 95 | 185 | 23 | 1,165 |
合計 | 1,794 | 1,346 | 471 | 205 | 51 | 3,867 |
九州本土(離島除く)の再生可能エネルギーの接続・申込状況(平成30年9月末時点) 出展:九州電力資料より作成
各電力会社は、太陽光発電と風力発電の出力制御の見通しを算定しており、例えば九州電力の場合、昨年度に13万kWとしていた地域間連系線の想定を、0%(0万kW)、50%(67.5万kW)、100%(135万kW)の3パターンで試算しました。なお、後述のとおり、転送遮断システムによる電源制限量の確保などにより、今年度末までには135万kW(100%パターン)の連携線を確保できる見通しです。
太陽光発電の場合、今後も九州エリアにおいて導入されていくことが見込まれますが、例えば30日等出力制御枠(817万kW)から400万kWを追加で接続し、1217万kWとなった場合、連系線100%想定(135万kW)では22%の出力制御率となります。700万kWの追加接続では1517万kWとなり、34%もの出力制御率となります(図4)。
現状、九州エリアでは太陽光発電の接続済みが、30日等出力制御枠とほぼ同じ約800万kWのため、出力制御の発生も少ないです。しかし今後、「接続契約申込み」等の案件が接続済みなるに伴い、徐々に出力制御率が高くなっていく見込みです。
風力発電については、太陽光発電よりも出力制御率が高くならない可能性が高いです。現状、九州エリアの風力は50万kWが接続済みですが、30日等出力制御枠は180万kWのため、まだ余裕があります。
加えて、30日等出力制御枠から仮に200万kWが追加で接続され、380万kWとなっても出力制御率は4%に留まります(図5)。しかしながら、「接続契約申込み」等の案件が風力発電は1,346万kWあるので、そうした案件が急速に接続済みとなることで出力制御率が急激に高くなる可能性もあります。
出力制御量を削減するための対策
出力制御率が高くなると、再エネ発電所の事業採算性の確保や予見が難しくなることもあり、今後の再エネ普及を停滞させてしまう恐れがあります。この点、経済産業省は11月12日、新エネルギー小委員会・系統ワーキンググループを開催し、出力制御量を削減するための4つの対策を公表しました。
- (1)連系線のさらなる活用
- (2)オンライン制御の拡大
- (3)火力等の最低出力の引き下げ
- (4)出力制御における経済的調整
(1)連系線のさらなる活用
関門連系線(中国九州間)に流せる再エネの量は、これまで45万kWでしたが、関門連系線事故の制御対策等を行うことにより、送電可能量を拡大することが可能です。
現在、国の補正予算事業によって、転送遮断システムによる電源制限量の確保が進められています(図6)。この結果、今年度末までに、関門連系線の再エネ送電可能量は当初の45万kWから135万kW程度に拡大する見込みです。
(2)オンライン制御の拡大
オンライン制御の発電所では、当日2時間前に制御量を確定し、必要時間帯で自動制御することができます。そのため、オフライン制御(前日16時に制御量を確定し、発電事業者自らが当日9~16時に発電を停止)の発電所よりも、需給予測に応じた柔軟な調整が可能です(図7)。
加えて、オンライン制御は再エネ全体の制御量低減に加えて、発電事業者の機会損失の低減や人件費の削減にも繋がります。
(3)火力等の最低出力の引き下げ
今回、電源Ⅲ(火力等)の出力制御について、九州電力は対象事業者(18社)に対して出力制御指令への確実な対応を要請しています。
このうち12社については、出力制御時に定格出力の30%以下への引き下げが可能でした。一方、その他の6社(火力1社、混焼バイオ2社、専焼バイオ3社)は、発電機の技術的制約により、現状の最低出力は55~80%にとどまっています。
これらの事業者(最低出力55~80%)は、3年かけて最低出力引き下げによる発電機への影響等を分析し、最終的に50%万への引き下げを目指しています。そうすることで、70万kWの抑制が可能とされています(図8)。そのため、系統ワーキンググループでは、可及的速やかに、少なくとも最低出力50%への引き下げを図るべきではないか、としています。
(4)出力制御における経済的調整
九州では、足下では毎月4万kWのペースで太陽光発電の導入が進み、太陽光発電の導入量は812万kWです(2018年9月時点)。
このうち、現時点で出力制御の対象となっている太陽光は、導入量の約5割に相当する約441万kWです。内訳としては、オフライン制御305万kW、オンライン制御136万kWとなり、柔軟な需給調整が難しいオフラインの割合が高いです(図9)。
この点、系統ワーキンググループでは、オンライン制御への切替の促進と並行して、経済的調整の実務的手法の検討を進めるべきではないか、とされています。
他の電力管内でも出力制御の動き
九州電力のほか、四国電力管内も出力制御の可能性が高まっています。実際、四国電力は2016年12月には、再エネ出力制御の可能性を喚起しています。また、2018年5月には一時的に太陽光の出力が需要の8割を超えたと発表しています。
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執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
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