世界初、再エネ由来の水素を用いて合成した「アンモニア」による発電に成功

2018年10月22日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

世界初、再エネ由来の水素を用いて合成した「アンモニア」による発電に成功の写真

10月、日揮および産業技術総合研究所で構成されるグループは、共同で研究を進めていた「再エネによる水の電気分解で製造した水素を原料とするアンモニアの合成、および合成したアンモニアを燃料としたガスタービンによる発電」に世界で初めて成功したと発表しました。

内閣府SIPにより進められる水素エネルギーの開発

水素キャリア製造技術は、各地に偏在し変動する再エネを大量に導入するための重要技術です。触媒等を使って化学変換することで、再エネを利用して水素を製造します。水素は燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しないこともあり、環境問題に資する技術として期待が高まっており、世界各地で研究が進められています。

日本においては、内閣府が2014年度から「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」において、2030年までに日本が革新的で低炭素な水素エネルギー社会を実現し、水素関連産業で世界市場をリードすることを目指した「エネルギーキャリア」の研究を開始しています。

こうした中、内閣府SIPのもと、日揮および産業技術総合研究所で構成されるグループ(以下、研究グループ)は、共同で研究を進めていた「再エネによる水の電気分解で製造した水素を原料とするアンモニアの合成、および合成したアンモニアを燃料としたガスタービンによる発電」に世界で初めて成功したと発表しました(図1)。

アンモニア合成実証試験装置

図1 アンモニア合成実証試験装置 出典:日揮

ルテニウム触媒により低温・低圧下でアンモニア生成

水素エネルギーを本格的に活用していくためには、水素をアンモニアやメタン、液化水素、そして有機ハイドライド等のエネルギーキャリアに転換する必要があります。なかでも成分中に水素を多く含むアンモニアは、液化が容易で、アンモニアのまま直接燃焼させることが可能です。

加えて、燃焼時にCO2を排出しない特徴を持つだけでなく、肥料原料などにも広く利用されています。既にサプライチェーンが確立されていることから、アンモニアは水素のエネルギーキャリアとして優位性があると言えます。

現在、アンモニアの合成は、天然ガスを原料に、水蒸気と空気を用いて改質して得られる水素と窒素を高温・高圧の触媒反応でアンモニアに転換する「ハーバー・ボッシュ法」によって行われています。しかし、この方法では、天然ガスを改質して水素を製造する過程で大量のCO2を排出するため課題となっています。

この解決方法として、CO2排出の少ない再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を製造する方法の開発が期待されています。しかし、この方法で製造される水素は低圧であるため、高温・高圧下でアンモニアを合成する「ハーバー・ボッシュ法」で使用するには、高圧化に伴うエネルギーが必要であることから、エネルギー効率が低下します。

これまで、「ハーバー・ボッシュ法」で使用されていた鉄系触媒では、約400~500℃かつ14~30MPa と、高温・高圧下での反応が求められていました。しかし、新たに開発されたルテニウム触媒は、約400℃かつ5MPaの低温・低圧下でのアンモニアの合成が可能です。また、ルテニウム触媒は、希土類酸化物を担体に用いることが特徴であり、すでに工業化されている炭素系担体を用いたルテニウム触媒にくらべて安定性に優れています。

この新たなルテニウム触媒は、2018年5月に日揮、産業技術総合研究所、沼津工業高等専門学校、および日揮触媒化成との共同で開発に成功しました。研究グループはこの触媒を用いて、福島県の産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所の敷地内で、実証試験(アンモニアの生産能力日量20kg)を開始しました。

本実証試験を通じて、新たに開発した触媒が低温・低圧で高い活性を有することが確認され、再エネ使用時に課題となる急な運転条件の変更によるアンモニア製造量の変動に対応できることが検証されました(図2)。

今回、研究グループは実証試験時に使用した高純度水素ガスボンベの代わりに、太陽光発電による水の電気分解を通じて製造した水素を用いたアンモニアの合成試験を行いました。そして、合成したアンモニアを燃料に、ガスタービンによる発電試験(発電量47kW)を実施しました。

研究チームによると、今回の再エネを活用した水素ならびにアンモニアの製造と、これを燃料とした発電は世界で初めての事例としています。製造から発電に至るまで、CO2を排出しないアンモニアを活用したエネルギーチェーンの確立に向け前進したとしています。

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