リチウムイオン電池負極の容量が10倍に、日本の技術ベンチャーが開発、320mAh/gから3600mAh/gへ
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日本の技術ベンチャーであるワイヤード社は7月、リチウムイオン電池の新素材の実用化技術を開発したと発表しました。革新的なレーザー孔加工技術により、理論容量10倍の負極材料の活用が可能になるとしています。
高容量化が望まれるリチウムイオン電池
近年、リチウムイオン電池(LIB)は電子デバイスや電気自動車などへの用途が拡大しており、高容量化が望まれています。現在、LIBの負極としては黒鉛材料が主に用いられていますが、その容量は320mAh/gと限られており、より高容量なシリコン材料(容量3600mAh/g)に注目が集まっています。
このように、次世代シリコン負極は、従来の黒鉛系負極と比較し10倍以上の高容量です。しかし、実際に使用できる電池容量(充放電効率)が約80%という欠点を持ちます。また、電極の変形や割れによるサイクル劣化が大きいといった問題もあります。これらの問題から、LIBへのシリコン負極利用は極めて難しいものとなっていました。
こうした中、日本発の技術ベンチャーであるワイヤード社は、EV用電池の開発を行っている山形大学の協力を得て、シリコンを負極としたLIBの実用化技術を開発しました。今回、同社が開発したのは「レーザーによるシリコン電極穿孔」と、「リチウムプリドーピング」、そして「ラミネート型NCM/Si電池」という3つの技術です。これらにより、従来は難しかったLIBへのシリコン材料適用を可能にしています。
技術①、レーザーによるシリコン電極穿孔技術
シリコン負極は高容量というメリットを持つ一方、充放電に伴う体積膨張が大きく、電極の変形や割れによるサイクル劣化が大きいというデメリットを持ちます。今回、ワイヤード社は、機械的強度の高いステンレス(SUS)箔とポリイミドバインダーを使用ことで、サイクル寿命の向上を実現しました。
しかしこの方法は、機械的強度の高いSUSを基材とするため、従来の機械的な穿孔は困難です。そこで、同社は専用の光学設計やレーザー条件の最適化により、SUS箔を用いたシリコン電極の連続穿孔技術を開発しました。
技術②、リチウムプリドーピング
シリコン負極は高容量であるものの、初回充放電時の反応により、その後の充放電に寄与しない容量(初期不可逆容量)が約20%あります。そのため、実際に使用できる電池容量(充放電効率)は約80%となってしまいます。
初期不可逆容量を低減させるために、リチウムプリドーピングが有効です。リチウムプリドーピングには、負極表面上へのリチウム金属箔の貼り付けや、負極/リチウム金属電池(ハーフセル)による電気化学的方法などがあります。
しかし、いずれの方法もハンドリングやコストの面から実用的ではありませんでした。そこで今回、ワイヤード社は正負極にレーザー穿孔を施し、正負極積層体両側にリチウム金属極配置した電池構造とする新しいリチウムプリドーピング方法を開発しました。これにより、負極の不可逆容を低減させ、従来は約80%であった充放電効率を93%と設計効率の最大値に到達させることができます(図1)。

図1 リチウムプリドーピング後の充放電曲線(充放電効率93%) 出典:ワイヤード
この技術により、リチウムイオンが電極垂直方向に移動できるようになります(図2)。なお、リチウムプリドーピングの進行度は、各負極とリチウム金属極との開回路電位の測定により可能です。
同社は、この技術により、電池セルを作製後にリチウムプリドーピングが簡便に行えることから、ドーピングプロセスが工業的に利用できるようになるとしています。

図2 (左)従来のLIB構造、(右)レーザー穿孔電極を用いたリチウムプリドーピングが可能なLIB構造 出典:ワイヤード
技術③、ラミネート型NCM/Si電池
ワイヤード社は、今回開発した三元系(NCM)正極とシリコン(Si)負極を用いて、ラミネート型NCM/Si電池(1Ah)を試作しました(図3)。正負極積層体両側に配置したリチウム金属極と負極間での外部短絡によるリチウムプリドーピングを行うことで、シリコン系LIBの高容量化を図っています。
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