グローバル規模で進む温暖化対策、注目される技術やこれからの新規事業
政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
2018年07月24日
一般社団法人エネルギー情報センター
経済産業省は7月、「平成29年度新エネルギー等の導入促進のための基礎調査」を公表しました。パリ協定によりグローバル規模で温暖化対策が求められていますが、注目技術や新規事業について見ていきます。
温暖化対策における新規事業の可能性
COP21では、温室効果ガス排出の大幅な削減を目指し、新たな国際枠組みであるパリ協定が採択されました。パリ協定では、産業革命以前の水準と比べて世界全体の平均気温の上昇を2℃より十分低く保つこと等が世界共通の長期目標として示されました。
パリ協定における目標達成のためには、排出量の抜本的な削減を実現するようなイノベーションを創出することが不可欠と言えます。下記にて、温暖化対策が強化される中で求められる新規事業について見ていきます。
発電所から排出されるCO2を回収する「CCSU」
発電所から排出されるCO2を回収し、貯留する技術をCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)といいます。一方、回収したCO2を有効活用する技術をCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)といいます。双方ともCO2を回収する技術であり、これらCCSUは火力発電からのCO2排出量をゼロに近づける可能性を持ちます。
「THE GLOBAL STATUS OF CCS 2017」によると、開発中のプロジェクトも含めると、世界の大規模CCSは37件となっています。37件の内、操業中の大規模CCSプロジェクトは17件あり、これらのCO2回収ポテンシャルは年間約3000万トン以上です。
CCSの各要素技術のほとんどは、石油・ガス生産(精製) や肥料製造分野で既に実用化されている技術です。ただし、地球温暖化防止対策に特化したCCSについては、市場原理だけではなかなか進展しないため、コスト低減や貯留層の安全管理技術など、更なる技術開発が必要不可欠です。
なお、IEAの2℃シナリオでは2040年に年間約40億トン、2050年には約60億トンのCCSによるCO2削減が必要とされています。これは、2050年までの累積CO2削減の12%と試算されています。
CCUについては、CCSと比較した場合、現時点ではCO2の大規模処理が困難です。しかしながら、CO2を有価物(燃料やコンクリートなど)製造に活用する点でコスト性に優れるという特徴を持ちます。そのため、今後の技術革新によりCO2の処理能力、有価物の製造効率が向上すれば、将来の利用拡大が期待されます。
日本において、温暖化対策としてのCCSU は、技術的には実証または研究段階にあり、経済性の面でも不確定な要素が大きいです。そのため、まずは高効率石炭あるいはLNG火力と組み合わせて適用することが妥当と考えられています(図1)。
水と太陽光で燃料を作る「人工光合成」
人工光合成とは、太陽光を用いて、水などを原料に炭水化物、水素、その他の高エネルギー物質を生成することです。人工光合成研究は日本が世界をリードしているといわれ、特に2010年代に日本の優れた研究結果が数多く報告されています(図2)。
人工光合成は、電気エネルギーより貯蔵・輸送がしやすい化学エネルギーへの転換が可能なことが利点です。人工光合成技術の一般家庭向け実証としては、飯田グループホールディングスと大阪市立大学が、沖縄県宮古島で実証実験を開始しています。
この実証において用いられる人工光合成技術を活用した戸建住宅では、太陽光エネルギーを活用して二酸化炭素からギ酸を生成・貯蔵します。このギ酸から水素を生成し、発電および給湯が行われます。そうすることで、家庭の消費電力のすべてを賄うことができ、極めて環境性能の高い住宅となります。グループは、2020年までにこれらの技術を確立し、人工光合成技術による二酸化炭素消費型住居の完成を目指すとしています。
森林資源などから作られるセルロースナノファイバー
CNF(セルロースナノファイバー)とは、森林資源、農業廃棄物を原料とする高機能材料です。鋼鉄の5分の1の軽さであるにも関わらず、5倍以上の強度を誇ります。
植物由来のカーボンニュートラルな材料であることが大きな特徴であり、2000年代半ばから先進国を中心に研究開発や標準化(ISO)の議論が進められてきました。
近年、素材として実用段階に入り、用途開発の取り組みが進められています(図3)。具体的には、自動車や発電機などの軽量化により、これら製品の効率が改善し、地球温暖化対策に貢献することが期待されています。
半導体はシリコンからGaN:SiCへ
家電などを動かす際は、搭載されている半導体が、電気の電圧調整や、交流と直流との変換などを行っています。しかしながら、この電気の変換の際には、エネルギーの損失が伴うことが避けられません。
半導体の材料には、現在はシリコン(Si)等が主に使われています。ただし、素材の特性上、更なる性能向上が困難です。そこで、新たな材料である GaN(ガリウム・ナイトライド;窒化ガリウム)や SiC(シリコン・カーバイド;炭化珪素)といった化合物が注目されています。
これら新素材を使うことで、従来のシリコン製パワー半導体素子で実現が困難であった、大幅な効率向上や小型化を見込むことができます。このため各メーカーは、省エネの切り札としてGaNやSiCに大きな期待を寄せています。
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
---|---|
所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
電話番号 | 03-6411-0859 |
会社HP | http://eic-jp.org/ |
サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2024年03月06日
EVと並んで蓄電池と大きな関わりのある「エネルギーマネジメント」にテーマを絞って、蓄電池の今と未来を全6回に渡ってご紹介していきます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2023年09月27日
ワイヤレス化など、進化するEV充電器。国内外のビジネス事例は?最新動向②
これまで遅れをとっていると指摘されてきたEV充電インフラですが、2030年までの充電インフラ15万基設置目標を政府が掲げ、民間での動きが活発になっています。国内外のビジネス事例の最新動向をご紹介します。