世界初、走行中の自動車にワイヤレス給電、EVの課題である航続距離の短さを解決
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2017年04月13日
一般社団法人エネルギー情報センター

4月5日、東京大学大学院、東洋電機製造、日本精工による研究グループは、ワイヤレス電力伝送を用いたインホイールモータを開発し、走行に成功したと発表しました。世界初となるこの技術により、ワイヤレス通信を用いることで車体と車輪間の完全なワイヤレス化を実現しました。
自動車へのワイヤレス給電で航続距離の課題を解決
次世代自動車の中でも電気自動車(EV)はCO2排出削減効果が高く、災害時に非常用電源として活躍するなど、これまでの自動車にはない新たな価値が期待できます。国としても、「日本再興戦略改訂2015」においては、「2030年までに新車販売に占める次世代自動車の割合を5から7割とすることを目指す」としています。このうち、EV・PHV については20~30%を目標とされており、これを遂行することは「エネルギー基本計画」や「パリ協定」における日本の「約束草案」達成においても重要な要素となります(図1)。
図1 新車(乗用車)販売台数に占める EV・PHV の割合目標 出典:経済産業省
一方で、近年は改善が進んでいるものの、EVには『航続距離』『コスト』『電池寿命』『充電インフラ整備』 などの課題があります。この中の『航続距離』を解決するための手段として、道路から走行中の電気自動車にワイヤレスで電力を送る “走行中給電” が世界的に注目されています。今回の東京大学大学院、東洋電機製造、日本精工による研究グループが開発した技術は、こうした課題の解決に資する内容となります。世界初のこの技術は、道路に設置したコイルから走行中の車のインホイールモータへワイヤレス給電するものです(図2)。
従来の走行中給電技術の多くは、道路のコイルから車体へワイヤレス給電するものですが、本技術では道路からインホイールモータに直接給電できるため効率が良くなります。これを実現するため、インホイールモータにリチウムイオンキャパシタを内蔵するとともに、高度なエネルギーマネジメント技術が開発されました。
図2 走行中給電を行う第2世代ワイヤレスインホイールモータ 出典:東京大学
インホイールモータとは
今回の技術で利用されるインホイールモータとは、ホイール内部に駆動源(モータ)を配置する技術です。エンジンなどのパワートレイン部品の削減による車体の軽量化、ホイール毎の駆動力制御、室内空間の拡大が可能となることから、環境性能、安全性能、快適性能を向上できると期待されています(図3)。
従来のインホイールモータは、モータを駆動する電力を送るため車体とインホイールモータをワイヤでつなぐ必要があり、このワイヤが断線するリスクがありました。そこで、2015年5月に今回の研究グループは、「ワイヤをなくす」の観点から第1世代ワイヤレスインホイールモータを開発、世界で初めて実車走行に成功しました。そのため、今回の発表による技術は「第2世代」という位置づけになり、第1世代と比較すると「走行中に充電出来る」といったことが可能となっています。
図3 インホイールモータのメリット 出典:日本精工
3つの技術的なキーポイント
今回の技術においてキーポイントとなるものは3つあり、①直接ワイヤレス給電、②蓄電デバイス内蔵、③モータ出力強化が挙げられます。それぞれの特徴について、下記にて見ていきたいと思います。
道路から走行中のクルマのインホイールモータへの直接ワイヤレス給電
これまで検討されてきた車体の受電コイルへの走行中給電では、路面の凹凸や乗車人数等よって受電コイルの位置が上下します。そのため、エアギャップ(コイルの間の距離)を広くする必要があり、効率の低下を招いていました。今回の研究では、インホイールモータに受電コイルを装着するので、車体に上下運動が生じたとしても、道路と受電コイルとの距離は一定に保たれます。そのため、エアギャップの余裕を大きくする必要がありません(図4)。
図4 走行中給電用受電コイルの位置変化 出典:東京大学
インホイールモータに蓄電デバイスを内蔵
EVの特徴として、回生ブレーキにより減速時のエネルギーの回収ができることが挙げられます。そこに今回の研究のように走行中給電が加わると、エネルギーの出し入れが頻繁に行われることとなります。そこで、インホイールモータに蓄電デバイスを内蔵することで安定的な動作と高効率化を可能としています。また、大電力を扱うことができ、充放電回数が多くても劣化しにくいリチウムイオンキャパシタが採用されました(図5)。
図5 ワイヤレスインホイールモータ2号機の構成図 出典:東洋電機製造
モータ出力を大幅に大出力化
2015年に、同研究グループが発表した第1世代ワイヤレスインホイールモータでは、1輪あたりの出力は最大3.3kWと市販のEVに比べて限られた性能でした。そこで今回開発した第2世代では、市販EVと同等の走行性能を得ることを目標に、1輪あたりの出力を12kWと大幅に大出力化されました。4輪すべてに装着すると48kWとなり、実験車両のベースである市販EVと同等の走行性能が得られます。
今後の展望、高速道路などでの活用
今回の技術は、EVの課題である航続距離の短さを解決できるものです。例えば、高速道路において走行中給電で得たエネルギーのみで走行したり、市街地の信号のある交差点付近で給電することができます(図6)。
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執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センター
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