電力自由化で広がる異業種からの参入、新しいビジネスとしての可能性

2016年11月23日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

電力自由化で広がる異業種からの参入、新しいビジネスとしての可能性の写真

電力小売りの全面自由化から半年が経過し、異業種からの参入も活発になってきています。今回のコラムでは、そうした異業種から参入した企業の電力小売ビジネスについて、どういったメリットがあるのか、基本と全体像を見ていきたいと思います。

2016年4月に始まった電力小売りの全面自由化により、家庭部門の市場が開放され、新電力企業は誰にでも電気を売ることができるようになりました。こうしたことに伴い、さまざまな業種・業態の企業が電力市場に参入しました。それぞれの企業が独自に持つサービスや顧客基盤を、電力販売と連携させることにより、より幅広い形でビジネスを展開する動きが活発になってきています。

ただ、電力の自由化は2016年4月が初めてではなく、段階的に進められてきました。まず、2000年に特別高圧で受電する施設(大規模工場やオフィスビル、デパートなど)を対象として自由化が導入され、その後も対象範囲が徐々に広がっていきました(図1)。

しかし、こうした法人部門における自由化においては、電力とは異なる業種の企業、すなわち異業種からの参入は活発ではありませんでした。その大きな理由として、大規模設備による電力の販売においては、まずは価格の安さが最優先であり、セット販売などの魅力を訴求することが難しかったからです。

電力自由化の歴史

図1 電力自由化の歴史 出典:経済産業省

ところが、家庭部門においては法人部門と異なり、ポイントサービスやセット販売といった工夫が、顧客確保に繋げやすい環境となっています。そのため、電力とは全く関係のない異業種の企業としても、これまで長年培ってきた自社のサービスを電力小売と結び付けるような、そういった事業戦略の可能性が広がりました(図2)。

電力自由化によってひろがる多様なサービス

図2 電力自由化によってひろがる多様なサービス

セット販売においては、たとえ電力単体の価格が高くても、セット全体を加味した総合的な部分でお得感を引き出すことができれば、市場で勝ち抜くことができます。これは、異業種企業が持つ既存のビジネスの魅力を利用し、電気の販売先を増やしていく手法です。

一方で、電力販売による利益は求めず、既存のビジネスを主軸と捉えてセット商品の内容を決定することも有効です。例えば、電力販売の利益がほとんど出ない水準まで電気料金の価格を引き下げたとしても、セット販売全体として利益が発生する料金構成とすれば、それはセット商品として成り立ちます。こうすることにより、魅力的な価格の電気料金を活用する形で、既存のサービスや商品の販売力を底上げすることができます。

こうしたセット販売型ビジネスにおける価値は、電力や既存サービスの顧客を増やすといったメリットのほかに、顧客流出を防ぐといった面も挙げられます。例えば、魅力的な電力とのセット商品を顧客に提示できれば、付随的に自社の商品やサービスも継続して利用してもらえることになります。

長年培ってきた自社サービスと電気のセット販売では、他社が容易に模倣することができない部分も強みと言えます。電力単体の販売であれば、価格競争の波に飲み込まれやすいので、各社は電源の調達先や自社内の運営改善などで低価格を目指します。ただしそれにも限界があるので、そこで他社にまね出来ない魅力的なオプションを付け加えることにより、唯一のブランドを確立することができます。似たようなセット販売の商品がない場合は、そのセグメントにおいては独占的に顧客を確保できると期待できます。

用意したオプションが、電力販売と親和性が高いかも重要な要素です。仮に、他社が真似できないようなセット内容であっても、そこに電力販売とセットとしての魅力がなければ、結局は顧客獲得における機会損失に繋がるからです。

電力商品の開発において、「お得感」や「魅力」を、自社の持つリソースでいかに最大限引き出せるかは重要な検討事項です。複数の製品やサービスを組み合わせて、個別に購入するよりも安く価格を設定する「価格バンドリング」などの直接的な部分に加え、これまでの自社のビジネス基盤や歴史をふまえ、顧客の満足する商品を生み出す必要があります。

このように、異業種参入における電力ビジネスは、自社サービスとの特性を相互に補完し、魅力を引き出していくことが求められます。しかし、異業種参入の企業にとって、電力事業はあくまで副次的な場合が多いです。電力市場が開放されたのは2016年4月からなので、ほとんどの企業において、電力小売りの事業年数は半年程度です。そのため、これまで長年継続してきた既存の事業が主要であることは当然といえます。そうしたこともあり、異業種参入の新電力企業がビジネスを展開する上では、その企業が本来持っている既存ビジネスを尊重することは非常に重要であると考えられます。

この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。

無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
電力の補助金

補助金情報

再エネや省エネ、蓄電池に関する補助金情報を一覧できます

電力料金プラン

料金プラン(Excel含)

全国各地の料金プラン情報をExcelにてダウンロードできます

電力入札

入札情報

官公庁などが調達・売却する電力の入札情報を一覧できます

電力コラム

電力コラム

電力に関するコラムをすべて閲覧することができます

電力プレスリリース

プレスリリース掲載

電力・エネルギーに関するプレスリリースを掲載できます

電力資格

資格取得の支援

電験3種などの資格取得に関する経済支援制度を設けています

次の記事:異業種からの参入事例、三菱商事とローソンが立ち上げた新電力「MCリテルエナジー」

12
はてなブックマーク

執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センターの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。

企業・団体名 一般社団法人エネルギー情報センター
所在地 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F
電話番号 03-6411-0859
会社HP http://eic-jp.org/
サービス・メディア等 https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET

関連する記事はこちら

物流業界の脱炭素化と中堅・中小企業のGX事例の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年12月29日

新電力ネット運営事務局

物流業界の脱炭素化と中堅・中小企業のGX事例

持続可能な未来に向けて物流業界の脱炭素化は急務です。その中でも大手物流企業のGX事例は注目すべきアプローチを提供しています。今回は、脱炭素化の必要性と大手物流企業が果敢に進めるGX事例に焦点を当て、カーボンニュートラル実現へのヒントを紹介します。今回は中堅・中小企業のGX事例です。

スコープ3の開示義務化が決定、脱炭素企業がとるべき対応とはの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年11月02日

新電力ネット運営事務局

スコープ3の開示義務化が決定、脱炭素企業がとるべき対応とは

2023年6月にISSBはスコープ3の開示義務化を確定。これを受けて、日本や海外ではどのような対応を取っていくのか注目されています。最新の動向についてまとめました。

電力業界の最新動向について/新電力の撤退等はピークアウト、3割が値上げへの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年09月12日

新電力ネット運営事務局

電力業界の最新動向について/新電力の撤退等はピークアウト、3割が値上げへ

厳しい状況が続いた電力業界ですが、2023年に入り、託送料金引き上げと規制料金改定により、大手電力7社が値上げを実施。政府は電気・ガス価格の急激な上昇を軽減するための措置を実施しています。値上げを実施する新電力企業も3割ほどあり、契約停止、撤退・倒産等もピークアウトしています。

“脱炭素先行地域”に62地域が選定。地域のエネルギーマネジメント推進や課題解決のキーワードになるかの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年08月31日

新電力ネット運営事務局

“脱炭素先行地域”に62地域が選定。地域のエネルギーマネジメント推進や課題解決のキーワードになるか

2030年度目標のCO2排出量2013年度比46%減を実現するために、地方から脱炭素化の動きを加速させています。今回は、事例を交えて脱炭素先行地域の取り組みについて紹介をします。

水素エネルギーの可能性に目を向け、各国が巨額投資!?海外の最新動向についての写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年07月11日

新電力ネット運営事務局

水素エネルギーの可能性に目を向け、各国が巨額投資!?海外の最新動向について

6年ぶりの改訂が注目を集めた「水素基本戦略」。同資料の中でも、各国の水素エネルギーに関する動向がまとめられていました。世界で開発競争が激化してきた水素エネルギーについて最新の海外動向をご紹介します。

 5日間でわかる 系統用蓄電池ビジネス ビジネス屋と技術屋が一緒に考える脱炭素