エネルギーデジタル化の最前線 第22回

2023年08月21日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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積水化学工業(大阪市北区)は年間約10,000棟の戸建てを供給する大手ハウスメーカーだ。住宅そのものの性能向上に加えて、省エネ設備、太陽光発電を搭載し、光熱費収支ゼロ、エネルギー収支ゼロを目指した高性能住宅を展開している。さらに、蓄電池やV2Hといった蓄電技術を強化し、災害のレジリエンスを高め、昼も夜も電気を自給自足できる住宅を目指す。今回は積水化学工業の取り組みを紹介する。

執筆者:一般社団法人エネルギー情報センター
理事 江田健二

富山県砺波市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社・大手化学メーカ等のプロジェクトに参画。その後、RAUL株式会社を起業。主に環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動支援を実施。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人CSRコミュニケーション協会理事、環境省 地域再省蓄エネサービスイノベーション委員会委員等を歴任。

記事出典:書籍『IoT・AI・データを活用した先進事例8社のビジネスモデルを公開 エネルギーデジタル化の最前線2020』(2019年)

太陽光発電、蓄電池、V2Hシステムを次々と展開

積水化学工業での太陽光発電への取組は1997年に始まった。2003年には、光熱費ゼロコンセプトを提唱。エコロジーとエコノミーの両立を目指して、太陽光発電に高気密、高断熱、エコキュートを組み合わせた住宅の販売を開始した。同社は、年間約10,000棟の戸建て住宅を供給しており、戸建て住宅販売戸数において常に上位に入る企業。同社の取り組みが、日本の住宅事情、ひいてはエネルギー事情に与える影響は大きい。

「当社の取り組みを推進していくにあたり、2009年からの住宅用太陽光発電の余剰買い取り制度(FIT)と、2010年の国によるエネルギー基本計画での2030年ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)標準化目標が与えた影響は大きい」と住宅カンパニー 広報・渉外部 技術渉外グループ 塩グループ長は強調する。

同社では、光熱費ゼロの住宅普及を目標としていたが、そこからワンランク上げ、光熱費ゼロ、エネルギー収支ゼロ、電力不安ゼロの「3つのゼロ」を目指した。その後HEMS太陽光発電の導入、蓄電池の導入、V2H(Vehicle to Home)システム、エネルギー自給率100%住宅の導入と、新製品を年々展開している。

創エネ・省エネ・蓄エネに関する取り組みの実績として、2006年には自社で販売する住宅において、次世代省エネ断熱の採用率100%を達成。エコキュートは2010年に採用率86%、太陽光発電は2009年に77%を達成した。HEMSは導入当初から標準化を目標として70%台を維持している。家庭用蓄電池は、補助金の後押しもあって2013年に30%を達成。同社はこれを5割まで押し上げる計画だ。

実際のデータから見えた、エネルギーゼロの達成状況案

同社は、太陽光発電とHEMSを搭載した住宅を対象として、年間の消費電力量・発電電力量を毎年調査している。最新の調査(2017年3月公表)では、購買傾向としては、将来の買い取り価格や出力抑制を見越して、それでも大容量を選択する家庭と、10kW未満に抑える家庭と傾向が二極化していることがわかる。

地域別のエネルギーゼロ比率を見ると、達成比率の高い地域トップ3は、熊本県、和歌山県、宮崎県となっている。これらの地域は日射量が多く暖房負荷が低い。一方では、日本海側では日射量が低いことと、暖房の消費電力量が多いためエネルギーゼロ比率は低くなっている。なお東京都はエネルギーゼロ比率が低いほうに位置するが、これは、地価に応じる形で屋根の面積が他県に比べて小さくならざるを得ず、したがってエネルギーゼロ比率も相対的に小さくなっている。

ZEHの将来課題

エネルギーゼロ住宅の実績を着実に積み上げている積水化学工業だが、「我々にとってエネルギーゼロというのはゴールではなくて通過点と捉えている。いずれは、売電に頼らない、100%自家消費型を目指すことが、真のエネルギーゼロなのではないか。」と塩氏は展望を語る。

具体的に塩氏は、ゼロエネルギー達成住宅の発電余剰が生じる点を課題と捉えている。ZEHの普及により晴れの日には余剰電力が出る住宅が増えることで、電力系統への悪影響が懸念され、太陽光発電の出力制御問題が発生する。加えて、売電単価についても、26円/kWhの場合には、うち約11円/kWhを電力会社が負担、約15円/kWhが再エネ賦課金であるが、FIT終了後の売電単価は、10円/kWh前後になると予測されている。したがって、お客様目線・電力系統の目線で考えた場合には、先行きに不安のある売電に頼るよりも自家消費型を目標とすることが解決、と考えられる。

蓄電池を搭載した住宅における実績調査

そこで、積水化学工業は、同社のHEMS・蓄電池・太陽光発電を搭載した住宅を対象に蓄電池の放電電力量などの調査を実施。その結果、深夜電力を使う「経済モード運転」は、蓄電池がどれだけ稼働していたのを示す数字として、365日フル稼働した場合と比較すると、蓄電池容量が4~6kWhでは71%、6~8kWhが64%、12kWh以上では58%が実稼働分であることがわかった。100%との差分は使われなかったということになるが、非常時のバックアップ電源としての蓄電と位置付けられる。

太陽光発電から蓄電池に充電して夜間に使用する「グリーンモード運転」については自給率を試算しているが、その結果を見ると消費電力量のうち22%を太陽光発電で賄うことができる(平均容量)。さらに12kWh以上の場合は消費電力量のうち約60%が太陽光発電で賄える結果となった。

蓄電池付きの住宅を選ぶお客様は、「災害時への備え」がもっとも有力な購買理由である。「災害時の建物の強さ、そして災害後も蓄電池という備えがあることによって、自宅で生活が可能となるところが強みである。」と分析している(住宅カンパニー 住宅営業統括部 住宅商品企画部 環境・快適グループ 相良課長)。

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