ワイヤレス化など進化するEV充電器、国内外のビジネス事例は?最新動向②

2023年05月12日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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急速充電器の普及に乗り出すことでEV普及拡大を目指す政府。民間企業もEV充電器の普及や充電管理システムの開発に積極的です。その他、ワイヤレス充電など国内外の事例や最新動向についてご紹介します。

企業事例① パワーエックス、EV急速充電設備を2030年までに全国7000カ所へ

パワーエックスは、2021年に設立されたスタートアップ企業です。世界初となる電気輸送船の開発で注目されています。2022年10月にバッテリー型超急速EV充電器「Hypercharger」を受注及び、EVチャージステーション事業の開始を発表しました。設置場所は、成田国際空港、オフィスビルや商業施設、アウディ系列のディーラーなど。現在10ヵ所に設置予定のチャージステーションを、2030年には全国で7000ヵ所にするという計画です。

同製品は、「変電機・パワコン・充電器を兼ね備えたオールインワン蓄電池」というコンセプトが最大の特徴です。これまでは急速充電器を設置しようと思うと、高圧変電設備が必要でした。導入にあたり契約プランや、設置工事費用といった部分でもハードルがありました。併設する蓄電池から電気を供給することができることで、事業者側の導入ハードルを圧倒的に下げれるのではないかと期待があります。(以下図参照)

出典:パワーエックスHP

ユーザー側からしても、太陽光などの自然エネルギーの発電量が多い昼間に蓄電池に充電し、そこからEVに充電することで、再生可能エネルギーを最大限活用できます。また、超急速(最高240kW)でEVの充電が可能なため、短時間でEVをフル充電する事が可能です。スマホからいつでもどこでも予約、利用ができるアプリがあるため利便性も高そうです。

企業事例② アークエルテクノロジーズ、EV充電と管理の一括サービスを企業・自治体へ正式にリリース

福岡発のスタートアップ企業、アークエルテクノロジーズは、3月にEVスマート充電と運行管理を一括自動化、遠隔制御するサービス「AAKEL eFleet」を提供開始しました。

同サービスは、独自テクノロジーによるEVのスマート充電と複雑な運行管理(ガソリン車も含む)をすべて一括管理・自動化するサービスです。スマート充電とは、バッテリーの寿命を効果的に延長することが期待できます。企業・自治体のお客様を対象にした国内初のサービスとなっています。

企業・自治体では脱炭素社会に向けてEVの導入が徐々に始まっています。しかし、配電系統の制約から充電器設置にも制約が発生する事や、充電する時間帯によって電気料金や太陽光発電の活用度合いが変わる等、ガソリン車とは全く異なる導入後の運用課題があります。そこで、同社では普及拡大に向けて実証実験を重ねてきました。契約の電力メニューを参照し、安い時間帯で優先的に充電するなど、電気代の削減にもつながるよう設計されています。

出典:プレスリリース(アークエルテクノロジーズ)

ワイヤレス充電は、充電器と車体をケーブルで接続する必要がないため、充電作業の負荷軽減と利便性の向上が期待されています。充電ケーブルに起因するトラブルやメンテナンス費用、充電スペースの削減等も見込まれます。国内外の企業事例をご紹介します。

企業事例③ MIT発のベンチャー企業「WiTricity」が家庭での充電をワイヤレスに

2007年に設立したマサチューセッツ工科大学(MIT)発のベンチャー企業であるWiTricityは、駐車するだけですぐに充電が完了するシステムを開発しました。

地上に設置された充電パッドは、EVの下側に取り付けられた受信コイルに電力を送ります。可動部品や物理的なコネクターはありません。独自の磁気共鳴技術は、2つの共鳴器による磁界共鳴方式により高効率な電力転送を可能にします。充電パッドの上に車両を乗せると、磁界によって充電パッドと車両のコイルの間でエネルギーが伝達されます。充電器と受信機の間の磁気共鳴を利用し、さまざまな車高の車両での高い電力転送効率を実現します。

ドライバーは自宅のガレージなどに駐車するだけで簡単に充電ができるため、快適かつ安心してEVライフを送ることが出来ます。同社はトヨタ自動車、TDK、IHIなど日本企業とも非接触電力伝送技術に関する提携やライセンス契約を締結しています。

出典:IHI(原寸大モックアップの製作)

企業事例④ 国内初、ワイヤレス充電機能搭載の商用EVが公道実証へ

2023年3月、大日本印刷(DNP)・双日・ダイヘンの3社は、 ワイヤレス充電機能を搭載した商用EVで国内初の登録認可を取得し、公道実証を開始しました。

ダイヘンはワイヤレス充電システムを、DNPはイルを使用した車両側の受電コイルと地上側の送電コイルを開発。双日が提供する商用EVにて試作車両の開発を行い、2022年11月にワイヤレス充電機能を搭載した実証実験用の商用EVが完成していました。実験を重ね、ナンバープレートを取得し、ワイヤレス充電機能搭載の商用EVとして国内で初めて公道を走行したということです。

出典:プレスリリース(大日本印刷)

企業事例⑤ エレクトロン・ワイヤレスは米デロイトで2023年までに走行中ワイヤレス給電の実用化へ

走行中のワイヤレス給電システムも各国で研究・開発が積極的です。フランスのベルサイユで時速120km/hの走行中給電ができる施設で9百万ユーロ規模の実証実験を行っています。韓国、米国中国でも同様のプロジェクトがあります。日本では東京大学やTOYOTA自動車が実証実験を行っています。

2013年創業のイスラエルのエレクトロン・ワイヤレス(Electreon Wireless)は、フォード、DTEエナジーと協力し、2023年に米デトロイトでワイヤレス充電技術を導入する予定です。ミシガン州は、このプロジェクトに190万ドル(約2億2000万円)を拠出する予定で、ミシガン・セントラル駅の近くに設置され、充電区間は約1マイルとなっています。

道路上では、走行中であっても停止中であっても、誘導充電と呼ばれるプロセスでEVに充電が可能です。磁気を利用して、道路の下に埋められたコイルから電気自動車の下側にある特別な受信機に電力を伝達するということです。

最後に、ワイヤレス充電とは異なりますが、スペースフリーなEV用ロボット充電器についてもご紹介します。

企業事例④ 国内初、ワイヤレス充電機能搭載の商用EVが公道実証へ

米カリフォルニアのEVセーフチャージ(本社:カリフォルニア州ロサンゼルス)は2022年6月、EV用ロボット充電器の「ジギー(ZiGGY)」を発表しました。

同製品は、車両を充電するために、設置された場所(ホームベース)から自動で駐車スペースまで移動することから、充電器を設置するために特定の駐車スペースを確保する必要がありません。すべての駐車スペースで充電サービスを提供可能にするとして、サンフランシスコのホテルや商業ビルに導入される予定となっています。

出典:ジギー(ZiGGY)

まとめ

2回にわたってEV充電器の最新動向を通じて見えてきたのが、導入・運用・メンテナンスとそれぞれに課題があるということでした。しかし現在は、国内でもそれらを解決するための技術やサービスが実証段階を終え、本格的にリリースしている段階と言えるでしょう。このような技術革新と、政府からの補助金なども後押しとなり、日本での商用車・一般車ともに本格的な伝道者の普及・拡大が始まっていきそうです。

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