EV充電器2030年までに15万基を目指す、その背景と現在の普及状況は?最新動向①

2023年04月27日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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「2035年までに乗用車新車販売の電動化率100%」という目標を掲げる政府は、急速充電器の普及に乗り出す方針を固めました。これまでEV化への壁となっていたインフラ設備・充電器の課題は解消されるのでしょうか。EV充電器の最新動向をご紹介します。

日本のEVスタンド普及状況は?政府が本腰を入れる背景とは

現在、電気自動車(EV)向け充電スタンドは全国に19,768拠点あります。その内、急速充電器は8,361 拠点、普通充電器(100V/200V) は13,677拠点になっています。

急速充電器は150 kW超で、通常のEVだと30分程度で満充電になりますが、普通充電(3~6kW)の場合は満充電までに最大24時間程度かかります。このような充電時間の課題に加えて、現状、200kw超の充電器は「変電設備」扱いとなり、設置には厳しい規制があります。そのため、規制を所管する消防庁が、2023年中の関係省令の改正を目指すとしています。改正後は200kw超の充電器も、50kw超~200kwまでのものと同等の扱いになる予定です。

ちなみに、いわゆる「ガソリンスタンド」は全国に28,475ヵ所あり、給油時間は4分以内となっていることが多いので、それと比較すると、現状がEVを日常的に利用するのにまだ不便と言わざる得ない状況です。

これまで日本は、充電インフラの遅れがEV普及の壁になっていると指摘されてきました。日本経済新聞によると2022年11月の新車販売に占めるEV比率は、中国25%、ドイツ20%、韓国9%に対し、日本は2%止まりとなっています。このような状況を鑑みて政府は、EV購入の補助金などを実施に加え、本格的な普及に欠かせないインフラ整備を支援する補助金を大幅に拡大してくとしています。

2022年度の補正予算では、EV充電器の設置費用を補助する「クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金」に200億円を計上しました。これは前年度の3倍にあたります。2023度は同補助金に100億円を確保しています。こうした政策を通じて、経済産業省としては、EVが普及した際に円滑な充電体制を維持できるよう、90kW以上の高出力充電器や、1基6口タイプの充電器を増やしてく方針です。

海外ではどのような状況なのか

脱炭素に積極的なヨーロッパの中でも、ドイツでは、「2030年までに公共充電ポイントを100万基設置」との目標を掲げています。新車販売台数全体に占める割合は、ドイツで販売された新車のおよそ4台に1台が次世代自動車であるとのことで、EV化が進んでいることがわかります。

アメリカではバイデン政権下になって以降、EVへの取り組みを加速させてきました。3月14日には、EVの充電ネットワークの整備に向けて、新たに5年間で25億ドル(約3360億円)の助成金を用意したと発表しています。全米に50万カ所の新たな充電ステーションを開設するための一環として、新たに「充電・給油インフラ助成プログラム(Charging and Fueling Infrastructure grant program)」と呼ばれる助成金制度を超党派のインフラ法により立ち上げました。この資金は、特に低所得層が暮らす地域や過疎地域における充電ネットワークの整備に向けてのものになるということです。

石油大手のシェルでは、2021年12月、イギリス・ロンドンにあるガソリンスタンドを電気自動車専用のEV充電ステーションに改造し、話題となりました。9つのEV充電器を置き、充電中もドライバーが快適に過ごせるよう、コンビニとコーヒーショップが併設され、無料Wi-Fiも備えられています。(以下の画像は、動画より一部抜粋したものです。ご参考: https://youtu.be/mRt0suB0U-c

出典:Shell Recharge Fulham Road

どこで、どのように充電できるのか

では、EV充電器はどこでどのように利用できるのでしょうか。具体的な事例を見ていきましょう。

1.高速道路向けの急速充電器

まずは、高速道路に設置されている急速充電器です。長距離移動の途中で行う短時間の充電が利用イメージです。3月にNEXCO3社とe-Mobility Powerは2025年度までに高速道路のサービスエリア・パーキングエリアにおけるEV向け急速充電器を約1,100口に増設することを発表しました。

出典:NEXCO東日本

2.宿泊施設向けの普通充電器

次に、旅行先などを想定して、宿泊施設にも設置されている充電器です。そこでは普通充電器が設備されているケースが多いです。直近の動きでは4月にENECHANGE株式会社は、ルートインジャパン株式会社が運営する「ルートインホテルズ」全国214店舗の宿泊者向け駐車場のEV普通充電器を、6kWの普通充電器「EV充電エネチェンジ」にアップグレードすることを発表しました。6㎾の普通充電器であれば、一晩でほぼ満充電にすることができるとして期待されています。

出典:ENECHANGE

3.家庭向けの普通充電器

外出先はもちろんですが、家庭でも充電できるというのがEVならではのメリットです。今後は先述した補助金などによって、EVスタンドだけでなく、設置が遅れているマンションなど家庭用のEV充電設備の普及も進む見通しです。6kwタイプが増えれば、EV購入の動機になる可能性が高くなるでしょう。

また、普通充電は3kWまでしか対応していないEVでも、急速充電の仕組みを使った「V2H」の充電では6kWで充電できます。V2H とは、Vehicle to Homeの略称で、に蓄えられた電力を家庭用に有効活用する考え方のことです。この仕組みを活用し、災害時のレジリエンスや家庭の電気代の節約といったメリットを同時に実現していけるとなると、普及の後押しとなりそうです。

家庭向けの普通充電器

まとめ

政府は2030年までに「公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラを15万基設置」という目標を掲げています。補助金などの後押しを契機に民間企業と一体となり、需要を喚起できるかがカギとなります。次回は、ワイヤレス化など進化を遂げるEV充電器や、国内外のビジネス事例についてご紹介します。

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