電力業界の最新動向について、2022年は新電力の約2割が事業撤退等に

2023年03月14日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

電力業界の最新動向について、2022年は新電力の約2割が事業撤退等にの写真

電力調達価格の高騰で利益確保が困難になった新電力の撤退や倒産が、相次いでいます。2022年には新電力8社が倒産、新電力の約2割が事業からの撤退などに追い込まれました。今回は、ここ数年の社会背景と電力業界の動向についてご紹介します。

ここ数年の社会背景と電力業界の流れ

2020年末~2021年にかけてはコロナ禍からの経済再開によるエネルギー需給の逼迫、2022年からはウクライナ侵攻による原油や石炭、液化天然ガスなどの燃料価格高騰、年後半以降は急速な円安で電力調達コストが急騰など、ここ数年は電力業界にとって苦難の時期が続いています。(以下図、参照)

電力調達価格と販売価格の推移 出典:帝国データバンク

こうした状況の中で、特に自社で発電施設を持たず市場価格に左右をされやすい新電力は調達価格が販売価格を上回る状態に転じていきました。

日本卸電力取引所(JEPX)のデータをみると、例えば、2022年8月のシステムプライス平均は1キロワット時あたり26円でした。同年のピークであった3月(26円)に匹敵し、前年同月より2倍以上高い水準で推移しています。

2022年は新電力8社が倒産、約2割が事業からの撤退など

市場価格の高騰が続くなか、財務基盤のぜい弱な事業者だけでなく大手企業グループでも、電力小売事業から撤退を余儀なくされる事態が相次いでいます。詳しくデータで見ていきます。

帝国データバンクによると、2021年4月までに登録のあった新電力706社のうち、11月28日時点で21%を占める146社が倒産や廃業、または電力事業の契約停止や撤退などを行ったことが分かっています。

新電力会社の事業撤退動向 出典:帝国データバンク

2022年12月1日、東北電力と東京ガスが共同出資したシナジアパワーは東京地裁より破産手続きの開始決定を受けました。日本電灯電力販売も12月に同地裁より破産手続き開始決定を受けています。このように、2022年には新電力8社が倒産しました。

また、大手電力系でも事業が立ちゆかなくなっている状況で、大手電力 10 社の 2022 年度上半期(4~9 月期)決算は 9 社が最終赤字を計上しました。

利用者にも影響、「電力難民」企業も

この状況は、利用者にも大きな影響を及ぼしています。電力小売業者(新電力会社)の倒産や撤退などで契約の継続が難しくなり、無契約状態となったため大手電力会社等から供給を受ける「電力難民」企業が現れ、この 1 年で急増し2022年10月には4万5866件に達しました。

事業撤退した新電力と契約していた企業は一時、電力難民となり大手送配電の最終保障供給を受けざるを得なくなりました。そのため大手電力が中止していた標準メニューでの契約を再開しつつあり、新電力からの戻り契約が増える傾向にあるということです。

日刊工業新聞によると、中小工場やビル向けの高圧契約では、2022年10月の新電力の新規契約は約5年ぶりに20万口を下回りました。シェアはピーク時から9.2ポイント減の20%になりました。

2022年9月以降、規制料金のうち燃料費高騰を反映する部分(燃料費調整額)が上限に達し、新電力の自由料金の方が高くなる現象などが起きました。その後、エネルギー価格高騰対策として政府による激変緩和措置が開始。電気料金の費用負担を一部軽減することと(特別高圧等、一部例外あり)となっています。

今後の動きについて

今後も電力業界及び、利用者にとって厳しい状況は続きそうです。1月に東京電力ホールディングスなど大手7社は「規制料金」プランについて、約3割の値上げの申請を経済産業省に行ったと発表しました。今年6月からの値上げを目指すとしています。また、4月からは電力大手の送配電10社が、電力小売会社から受け取る送電網の利用料「託送料金」を引き上げます。特別高圧など一部、値下げのケースもありますが、今後も電力業界にとって、また電力を利用する企業や家庭にとって厳しい状況は続きそうです。

はてなブックマークGoogle+でシェア

執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センターの写真

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。

企業・団体名 一般社団法人エネルギー情報センター
所在地 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F
電話番号 03-6411-0859
会社HP http://eic-jp.org/
サービス・メディア等 https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET

関連する記事はこちら

建設業界の脱炭素とデジタル活用事例③の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年02月28日

新電力ネット運営事務局

建設業界の脱炭素とデジタル活用事例③

2050年までのカーボンニュートラル社会の実現に向けて、建設業でも脱炭素の取り組みが注目されています。今回は、3回にわたって大手ゼネコンから中小企業まで幅広く脱炭素とデジタル活用について、最新の事例をご紹介します。3回目は中堅企業・中小企業の事例です。

建設業界の脱炭素とデジタル活用事例②の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年02月09日

新電力ネット運営事務局

建設業界の脱炭素とデジタル活用事例②

2050年までのカーボンニュートラル社会の実現に向けて、建設業でも脱炭素の取り組みが注目されています。今回は、3回にわたって大手ゼネコンから中小企業まで幅広く脱炭素とデジタル活用について、最新の事例をご紹介します。2回目は大手ゼネコン企業の取り組み事例です。

建設業界の脱炭素とデジタル活用事例①の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年01月31日

新電力ネット運営事務局

建設業界の脱炭素とデジタル活用事例①

2050年までのカーボンニュートラル社会の実現に向けて、建設業でも脱炭素の取り組みが注目されています。今回は、3回にわたって大手ゼネコンから中小企業まで幅広く脱炭素とデジタル活用について、最新の事例をご紹介します。1回目は脱炭素を求められる背景と現状についてです。

東京都の2030年カーボンハーフに向けた取組、新築住宅への太陽光パネル設置義務化への写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2023年01月12日

新電力ネット運営事務局

東京都の2030年カーボンハーフに向けた取組、新築住宅への太陽光パネル設置義務化へ

昨年末に東京都で、全国で初めて新築戸建て住宅などに太陽光パネルの設置を義務づける条例が成立。これは、2030年までのカーボンハーフに向けた取組みの一部であり、都では2050年を見据えた大きな全体像を描いています。今回は、東京都の2030年カーボンハーフに向けた取組を紹介し、太陽パネルの循環について考えていきます。

中間選挙終えたアメリカ、気候変動対策やエネルギー政策の行方は?の写真

一般社団法人エネルギー情報センター

2022年11月29日

新電力ネット運営事務局

中間選挙終えたアメリカ、気候変動対策やエネルギー政策の行方は?

発足から約2年、バイデン政権が掲げた気候変動対策は今どうなっているのか。今回は、中間選挙を終えたアメリカのエネルギー政策の動向や、民間企業の動向をご紹介します。

エネルギー・環境関連セミナーのご紹介