建設業界の脱炭素とデジタル活用事例③

2023年02月28日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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2050年までのカーボンニュートラル社会の実現に向けて、建設業でも脱炭素の取り組みが注目されています。今回は、3回にわたって大手ゼネコンから中小企業まで幅広く脱炭素とデジタル活用について、最新の事例をご紹介します。3回目は中堅企業・中小企業の事例です。

中堅企業の取り組み

中堅企業では独自の取り組みが増えてきています。これまで培ったの技術の応用や研究・開発を活かして脱炭素に貢献しようとしている事例を3つご紹介します。

飛島建設、カーボンストック技術で地中に森をつくる

飛島建設は、創業明治16年(1883年)と歴史のある建設会社です。同社のカーボンストック技術は同社が培った丸太を使った木材を大量かつ長期間使用する地盤改良(LP-SoC、LP-LiC)工法で、 建設事業を行いながら地中に森をつくり大気中の二酸化炭素(CO2)を減少させることに貢献しています。

前回の住友林業の取り組みでも紹介した通り、木は大気中のCO2を光合成により吸収し、酸素を排出し、炭素を樹木として固定します。飛島建設でもこの自然の原理を建設技術に活用し、軟弱地盤対策や液状化対策といった建設事業を推進しながら温室効果ガスを減少させ、気候変動緩和に貢献しようとしています。

木材利用によるCCS(樹木の生長により二酸化炭素を回収固定し、建設工事で炭素貯蔵)出典:飛島建設

同社では、これまで減少してきた木材利用を見直しています。セメントや鉄、人口化学材料をなるべく使用せず、木材に材料代替することで、炭素貯蔵によるCO2削減効果の他、省エネルギー効果も期待されます。木材利用の推進は新たなエネルギーやコストをかける必要はなく、CCS(Carbon Dioxide Capture and Storage)と同様の効果を得られるという点で特徴的です。

高砂熱学工業、BIM活用で最適な設備を計画・施工する

高砂熱学工業は、1923年の創業で空調設備工事を軸とした事業を行っています。設計・施行からメンテナンス・運転管理そしてリニューアルまでのワンストップサービスを提供している点が特徴です。

BIMとはBuilding Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略で、コンピューター上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加した建築物のデータベースを、建築の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うためのソリューションであり、現在主流になりつつあるワークフローです。無駄なコストを減らせるだけでなく、業務効率の大幅な改善にもつながります。加えて、持続可能な建築設計が前倒しでできるため、省エネ・脱炭素の施設運用にも役立ちます。

出典:高砂熱学工業

同社では、設備業界に先駆け、社会的環境・要求の変化を鑑み独自のDX戦略を策定。設備BIMからのアプローチで、建物のライフサイクル全般にわたる業務を最適化し、その先には建物に新たな付加価値を創造できる体制を整えています。

他にも空調技術を応用したエネルギー・システムの研究開発にも取り組んでいます。具体的には、水から水素を生成する水電解装置を開発し、その水素をどのように活用できるかという研究です。元々は空調設備のエネルギーコストをどう抑えるのかという研究からスタートしたということですが、水素という次世代のエネルギー・システムの研究開発からも脱炭素に貢献しようとしています。

関電工、独自の地域マイクログリッド技術を構築

関電工は、電気工事、情報通信工事、空調工事、リニューアル工事等の総合設備企業です。東京を中心にオフィスビル・商業施設・病院・工場など、様々な建築物の電気設備の新設・保守・改修工事における施工管理などを手掛けています。また、電気を供給するための電力設備を構築し、保守・メンテナンスを行う電力設備事業も行っています。

令和4年4月に施行された電気事業法改正により、一般送配電事業者に代わり、地域において配電網を運営し、緊急時には地域の分散型電源を活用し独立したネットワークをして運営できる制度を導入。それにあたり、電力会社の独占にあった配電網が民間でも使用できるようになりました。

そうした背景から、関電工では、これまでの技術やノウハウを活用し、独自の地域マイクログリッド事業に乗り出しています。いすみ市で2023年2月から運用を開始。太陽光発電設備は自治体などに27ヵ所設置。年間の電気代を3~4割削減します。災害時の電力確保にも活用するだけでなく、地域の再生可能エネルギーの導入・脱炭素に貢献しています。

関電工独自の地域マイクログリッド技術 出典:関電工

中小企業の取り組み

中小企業では、自社の強みを研ぎ澄ましている企業や、大手・中堅に引けを取らず先進的に社内の脱炭素を進めている企業の事例をご紹介します。

ひら木、ZEHビルダー評価制度の活用

政府は第6次エネルギー基本計画において「2030年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す」、「2030年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指す」という目標を掲げています。そのため、ZEHの普及に向けた取り組みが行われています。

その一つが、「ZEHビルダー/プランナー」制度です。2021年度から、2020年度のZEHの供給実績に応じて、ZEH化率が50%を超えている場合は75%以上を、50%未満の場合は50%以上を2025年度の目標として宣言・公表したハウスメーカー、工務店、建築設計事務所、リフォーム業者、建売住宅販売者等を「ZEHビルダー/プランナー」として公募、登録し、屋号・目標値等の公表を開始しました。現在(令和4年3月時点)、全国のハウスメーカー、工務店を中心に4,722社が登録を行っています。

ひら木は、神奈川県海老名市の工務店です。戸建住宅の総建築数に対するZEH目標値100%を2016年から4年連続で達成しており、ZEHプランナー最高峰の6つ星の工務店として、エコルハウスを提供しています。神奈川県においては、6つ星評価を獲得したZEHビルダー/プランナーは33社(神奈川県所在の建築会社は7社)ということです。スーパーウォール工法を採用し、気密性を限りなく高めた構造の住宅にすることにより、空気の流れの経路や方向をコントロールしています。高い断熱性があるとともに計画的な換気が可能になり、結果、省エネルギー住宅を実現することができています。

出典:ひら木HP

八洲建設株式会社

八洲建設は、愛知県の建築・土木建設業の会社です。従業員数約50名の中小企業ですが、中小企業向けSBT・再エネ100%⽬標設定を行っており、中小企業の中でも先進的な事例といえます。

環境省の報告している資料によると、Scope1・2の排出量の状況やScope1・2の削減⽬標と削減に向けた取り組みについて示されています。2030年に2018年⽐で50%削減を目標にし、営業⾞両及び⼯事⾞両について電化や本社及び現場事務所で使⽤する電⼒の再エネ化を推進するとしています。また、2030年までに再エネ50%を達成、2040年までに再エネ100%を達成することを掲げています。

Scope3は、協⼒会社と協働して取り組みを推進するためのデータ収集が課題としながらも、協⼒会社との連携により、⼯事⾞両の電化の推進を図るとともに 原材料、消耗品の購⼊時にリサイクル製品等を優先的に選択などの取り組みをしているようです。

中小企業でもSBTのようなイニシアチブに参加することにより、現状の温室効果ガス排出量の算定、排出量削減目標値の設定と公表、削減状況の進捗報告などをすることになります。企業にとって脱炭素の取り組みにおいてやるべきことが明確になり、かつ、企業の姿勢に対する評価が高まり、投融資も受けやすくなるというメリットがあります。

まとめ

3回に渡り、建設業界の脱炭素における背景や企業事例についてご紹介してまいりました。建設業界では、CO2排出量を2030~40 年度の早い時期に2013年度比40%削減とし、2050年までに施工段階におけるCO2排出量を実質ゼロとすることを目標に掲げています。東京都を中心に新築住宅についての目標も高い物になってきています。今、取り組むことが10年先の結果に影響しやすい業界です。企業規模を問わず建設業界全体で刺激し合いながら、より一層脱炭素に取り組んでいくことが期待されます。

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