建設業界の脱炭素とデジタル活用事例①

2023年01月31日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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2050年までのカーボンニュートラル社会の実現に向けて、建設業でも脱炭素の取り組みが注目されています。今回は、3回にわたって大手ゼネコンから中小企業まで幅広く脱炭素とデジタル活用について、最新の事例をご紹介します。1回目は脱炭素を求められる背景と現状についてです。

建設業界が脱炭素を求められる社会的背景

2020年10月、 菅前首相が「2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)」を宣言しました。その後2021年4月の気候変動サミットにおいて2030年に向けた温室効果ガスの排出削減目標を大幅に引き上げて、2013年度比で46%削減することを表明しました。

これを受けて建設業界では、長期目標として「施工段階におけるCO2排出量を2050年までに実質ゼロとなるための取組みを推進」することを掲げるとともに、「CO2排出量原単位(t-CO2/億円)を2030~40 年度の早い時期に2013年度比40%削減」とする中間目標を設定しました。(以下、国土交通省の資料参照)

国際社会に目を向けても、建設業界での脱炭素化の動きは欧州など中心に加速しています。2020年には、CO2ゼロの鋼材利用を促す団体「スチールゼロ」が発足しました。英国の非政府組織(NGO)ザ・クライメートグループ中心に、洋上風力発電世界最大手のオーステッド(デンマーク)ほか、オーストラリアの建設大手レンドリース・グループや英不動産大手グロブナー・グループの英・アイルランド法人など鋼材の需要家8社が参加しています。

コークス(石炭)を主原料に使う鉄鋼はCO2をゼロにする方法が確立していません。また、水素の利用やCO2の回収・貯蔵(CCS)などが検討されていますが、大規模な投資が必要です。そのためスチールゼロでは、CO2ゼロの鋼材の市場をつくることで、鉄鋼会社に技術の確立やコスト削減の加速を促すということです。

他にも、セメントやコンクリートも製造時にCO2を排出するため問題視されています。そこで、低炭素型のコンクリートや、セメントゼロの新コンクリートについても世界でも研究・開発が進んでいます。

建設業界のCO2排出量

現在の日本の建設業界のCO2排出量はどのようになっているのでしょうか。

22020年度、日本全体のCO₂排出量が10億4,400万トンでした。その内、建築業界の関わる業務その他部門と、家庭部門の排出量は全体の約3分の1を占めています。

2020年度温室効果ガス排出量(確報値)概要 出典:環境省

また、部門別の推移をみると、業務その他部門と家庭部門はここ数十年をみるとほぼ横ばい傾向になっていることがわかります。

部門別CO2排出量の推移(電気・熱配分後排出量) 出典:環境省

以下の図の円グラフ赤枠部分を見てもわかる通り、オフィスビル、マンション、戸建て住宅など一度建てた建物は、数十年にわたって使用するため、新築物件に対する脱炭素に関する取り組みを今から早急に取り組むことが重要になります。

第1回 脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会 出典:国土交通省

これらのデータから検討された結果、国内では法改正の動きも出ています。建築物省エネ法を改正し、省エネルギー基準適合義務の対象外である住宅及び小規模建築物の省エネルギー基準への適合を2025年までに義務化します。2030年度以降新築される住宅・建築物について、ZEH・ZEB基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指し、整合的な誘導基準・住宅トップランナー基準の引上げや、省エネルギー基準の段階的な水準の引上げを遅くとも2030年度までに実施するということです。

さらに2050年において設置が合理的な住宅・建築物には太陽光発電設備が設置されていることが一般的となることを目指し、これに至る2030年において新築⼾建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指しています。

建設業は、建設機械における排出量が産業部門中の1割程度を占めるといデータがあります。さらに建設工事現場で使用されるエネルギーの燃焼によってもCO2が多く排出されています。排出量を工程別にわけると、建設時が1~2割、建設後(使用時)が7~8割と言われていることも特徴的です。建設工事の施工段階だけではなく建設業界内の削減取組みの枠を超え、上・下流のサプライチェーン全体で削減に取り組む必要がありそうです。

ZEHとZEBとは

そこで注目されているのが、ZEHとZEBという考え方です。

ZEB(ゼブ)はNet Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)、ZEH(ゼッチ)は、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略称です。どちらも快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことです。建物の仕組みで大きく省エネを進めた上で、太陽光発電などの再生可能エネルギーを利用することでエネルギー消費量を正味でゼロにすることを目指しています。

断熱は省エネの要です。どんなに高効率のエアコンを入れても、断熱が不十分だと冬は熱が外に逃げ、逆に夏は外の暑さが入ってしまいます。断熱性能を高め、建物自体のエネルギー効率を高めます。例えば、夏の日差しを遮るためにひさしを大きくしたり、北側からの涼しい空気を取り入れたりといった日射や通風に留意することも効果的です。

次に、照明や空調、給湯といった建物の設備にはなるべく高効率のものを選び、エネルギー使用量を減らします。照明であればLED、空調や給湯機器はヒートポンプを利用したものにするなど、それぞれの機器を省エネルギー型に転換します。省エネに配慮した後、それでも必要なエネルギーは、再生可能エネルギーを活用します。例えば、屋根などに太陽光発電パネルを設置し、太陽熱を給湯や暖房に使うなど、発電した電力を効率的に使います。

ここ数年で住宅では、HEMS(ヘムス)と呼ばれる家庭で使うエネルギーを管理するシステムや、余った電気を貯めておく蓄電池などの利用もZEHを実現するために利用されるようになってきました。さらに、LCCM(Life Cycle Carbon Minus)住宅という使用段階のCO2排出量に加え資材製造や建設段階のCO2排出量の削減、長寿命化により、ライフサイクル全体(建設、居住 修繕・更新・解体の各段階)を通じたCO2排出量をマイナスにする住宅も注目されています。

もちろん、オフィスビルや工場などの建物でも、エネルギー消費量を可視化しつつ積極的な制御を行うことで、省エネやピークカットの効果を狙う仕組みは導入されていますし、木造建築が見直されるなどライフサイクルマネジメントを意識した設計・施工が行われています。

それでは次回からは具体的に各企業の取り組みを紹介します。

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