東京都の2030年カーボンハーフに向けた取組、新築住宅への太陽光パネル設置義務化へ

2023年01月12日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

東京都の2030年カーボンハーフに向けた取組、新築住宅への太陽光パネル設置義務化への写真

昨年末に東京都で、全国で初めて新築戸建て住宅などに太陽光パネルの設置を義務づける条例が成立。これは、2030年までのカーボンハーフに向けた取組みの一部であり、都では2050年を見据えた大きな全体像を描いています。今回は、東京都の2030年カーボンハーフに向けた取組を紹介し、太陽パネルの循環について考えていきます。

東京都が打ち出した2030年「カーボンハーフ」

今回の条例可決は、東京都が掲げる2030年までの「カーボンハーフ」の取り組みの一環です。「カーボンハーフ」とは、2030年までに温室効果ガス(CO2)排出量を2000年比で半減させることです。

まずは東京都の現状を確認しましょう。現在、東京都のCO2排出量は5,990万t-CO2(2020年度)です。温室効果ガス排出量全体では 2000 年度比 3.7%減少、前年度比 3.4%の減少となっています。

エネルギー起源CO2は2000 年度比11.7%減少、前年度比 3.8%の減少であり、内訳は、以下のとおりです。エネルギー起源CO2とは、石炭や石油などの化石燃料を燃焼して作られたエネルギーを、産業や家庭が利用・消費することによって生じる二酸化炭素のことです。

  1. 産業・業務部門 2000 年度比 7.4%減少 (前年度比 8.5%減少)
  2. 家庭部門 2000 年度比 32.9%増加(前年度比 5.9%増加)
  3. 運輸部門 2000 年度比 50.7%減少(前年度比 6.5%減少)

上記データから家庭部門の排出量が増加していることがわかります。要因として、世帯数が増えていることがあります。(以下図、参照)加えて、都では「様々な電気機器の世帯当り保有率の増加もエネルギー消費を押し上げる要因となっている」と指摘しています。

東京都の一般世帯数及び1世帯当たり人員の推移 出典:東京都

家庭部門のCO2排出量は全体の3割を占めています。また、都内のCO2排出のうち7割が建物関係にあることからも住宅への対応が急がれていたと考えられます。家庭部門で2000年時点に1283万トンあるCO2排出量を2030年に約45%削減して、728万トンにする目標です。

太陽光発電設備の設置率はパネル設置可能な都内の建物の内、4%ほどにとどまっています。新築物件は年間約4万6000棟あり、その半数が条例の対象となることから、今回の条例の影響は大きいでしょう。

世帯数は2025年~2030年にピークアウトすると予測されていますが、再生可能エネルギーの導入だけでなく、エアコンや暖房器具の機器効率の向上と住宅の高断熱化も同時に必要になります。そのあたりの全体像が「2030年カーボンハーフに向けた取組の加速 -Fast forward to “Carbon Half”-」に示されています。(ご参考: https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/dbook/202202/carbonhalf/2022-02_tokyo_carbonhalf/#page=1

全国初、「太陽光パネル設置義務化」条例が成立

2022年12月15日、東京都議会で賛成多数で可決・成立した新築戸建て住宅などに太陽光パネルの設置を義務づける環境確保条例の改正案(「住宅等の一定の中小新築建物に係る環境性能の確保を求める制度」)。全国初となるこの条例は、約2年間の周知期間を経て、2025年4月に施行される予定です。

設置を義務付けられるのは、都民など住宅を注文する施主ではなく、住宅メーカーです。都民は、パネルを設置しない住宅を選ぶこともできるという点が特徴的です。義務付けの対象となる企業は、都内での供給実績が年間で延べ床面積2万平方メートル以上となる大手住宅メーカー、50社程度になるようです。各メーカーが、供給棟数、地域ごとの日照条件などに応じて、割り当てられた発電総量の達成に取り組みます。

今回は、2万平方メートル未満の建物への施策となっているところも確認しておきましょう。(以下、図参照)

「2030年カーボンハーフに向けた取組の加速 -Fast forward to “Carbon Half”-」 出典:東京都

都は4キロワットのパネルには約40万円の補助金を出しています。さらに余った電気は電力会社が固定価格で買い取るFIT制度を活用できます。住宅を建設する個人にとっては、補助金などによって10年間で初期費用を回収でき、その後は大幅な電気代削減が可能になります。また蓄電池との併設によって電気を溜めることができるため、防災にも役立つなどメリットが大きいでしょう。

20年後の廃棄物に対する対応も加速

同時に取り組まれているのが、住宅用太陽光パネルのリサイクルの促進です。

現在、設置済の太陽光パネルは約608千kW(2019年度)あり、2030年 代半ば以降に大量廃棄を迎えるといわれています。何も対応をしなければ、破砕後、埋立処分へ流れていくことが危惧され、最終処分場のひっ迫も懸念されています。一方で、太陽光パネル設置義務化に伴い、都民のパネル廃棄への不安が新たに浮上してきました。

出典:東京都環境局 「令和元年度 太陽光発電設備3R推進に係る基礎調査の概要」

そうした背景から、1月に「東京都太陽光発電設備高度循環利用推進協議会」が設置されました。住宅メーカー、メンテナンス業者、解体業者、収集運搬業者、リサイクル業者等で構成されています。

都は協議会を通じて、30年代から大量廃棄が見込まれる使用済みパネルについて、性能診断から収集運搬、再利用・リサイクルまでのルート確立に取り組むといこうことです。今後は、収集運搬やリサイクル処理にかかる費用の補助制度などの具体的な制度設計に入っていくと思われます。

また、2022年12月には、東京都は、太陽光発電の普及を目的として、東京都が一般社団法人太陽光発電協会(JPEA)と連携協定が締結されました。連携内容としては以下となります。

  1. 太陽光発電に係る基礎的な知識の普及啓発に関すること
  2. 太陽光発電に係る最新技術の情報収集及び開発促進に関すること
  3. 太陽光発電の持続的なサプライチェーンの構築や人権尊重などSDGsに配慮した事業活動に関すること
  4. 太陽光発電に係る施工技術の向上や維持管理、廃棄・リサイクルに関すること

このように、導入を加速することは将来の大量廃棄も見据えておく必要があります。都はリサイクルルートの確立に向けた取組を推進しすることや、処分時にリサイクルへ誘導するため、太陽光パネルのリサイクルにかかる負担を軽減するために検討を重ねるとしています。

最後に

2020年からのカーボンハーフはキリも良くて覚えやすいことや、掲げるだけでなく具体的な動きが早い点も東京都の動きは参考になりそうです。

今回は太陽光パネルの設置義務の話から、家庭部門のことのみに触れましたが、「2030年カーボンハーフに向けた取組」としては、その他にも産業部門で再生可能エネルギーの導入拡大や、輸送部門でのEV導入や、水素社会への取り組みについても触れられていました。

都内の2020年度における電力消費量(約767億kWh)の内、再生可能エネルギーにより発電された電力の利用量はおよそ2割(約148億kWh)ということで、まだまだ導入のポテンシャルがあるということがわかります。

東京都自体も2030年までに都の保有する施設で、設置可能な場所には太陽光パネルを100%設置するということですので、今後、東京を眺める景色もだいぶ変化がありそうですね。

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