蓄電池の世界市場が2兆円超に拡大、リユース蓄電池の活用も広がる

2022年11月04日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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カーボンニュートラル社会を目指す中で、蓄電池は再生可能エネルギーの導入拡大に必要な調整力として、需要が一層拡大していくことが見込まれています。今回は蓄電池の最新動向として、EV普及を背景に広がる「リユース蓄電池」の活用に注目します。

ESS・定置用蓄電システム向け2次電池の世界市場は2兆を超える

富士経済によると電力貯蔵システム(Energy Storage System、ESS)ESS・定置用蓄電システム向け2次電池の世界市場は、2022年は昨対比141.5%の2兆26億円、出荷容量ベースでは同128.0%の69.9GWhとなる見通しです。住宅分野、産業分野などでも伸びていますが、特に「系統用・再エネ併設分野」で伸びており、今後も市場拡大が継続すると予測しています。

出典:富士経済

そこにリユース蓄電池を活用する動きが活発化しています。背景には、電気自動車(EV)の普及があります。EV普及にあたって使用済みバッテリーを活用することで、蓄電池のさらなる低コスト化が期待されています。

また、蓄電池のLCA(ライフサイクルアセスメント)への関心が高まっています。新品バッテリー製造時のCO2排出による環境負荷や、コバルトやリチウム、レアメタル等の原材料の調達困難・価格高騰や、将来的に資源の埋蔵量に限りがあることなどが課題です。

通常、車載用蓄電池は70%程度で寿命前に交換されることが多いということもあり、使用済のバッテリーを回収し、中古蓄電池として有効に活用するなど、環境に配慮したリユースモデルの構築が求められています。

蓄電池のリユース・リサイクルの実態と課題

経済産業省でも2022年に入ってからこれまで3回にわたって「蓄電池のサステナビリティに関する研究会」が開催されてきました。第2回では特にリユース・リサイクルについての検討が重点的にされました。(ご参考: https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/chikudenchi_sustainability/pdf/002_03_00.pdf

その中で、今後の議論として以下の3点が課題にあげられています。

1.使用済電池の回収力の強化

一つ目は使用済電池の回収力の強化です。これまで実態がよくわかっていなかったのですが、今回の経済産業省の調査において、解体後のバッテリーの流通経路として、約半数がリユースされ、約半数が処理されていることなどが明らかとなりました。なかでも一定量の蓄電池が海外に輸出されいることがわかり、いかに国内での回収力を高めていくかが課題です。

2.リユース市場の活性化

次に、リユース市場の活性化についてです。中古蓄電池の性能評価、取引において活用可能な精度の確保、速さを実現する劣化診断技術等が確立されていく必要があります。同時に、リユースしやすい蓄電池の要件を検討していくことが求められます。また、車載用蓄電池を定置用等の他用途にリユースしていく際の課題の整理なども実証実験等の結果から分析していく必要があります。

3.リサイクル基盤の構築

3つ目は、リサイクル基盤の構築です。技術開発やリサイクル施設の拠点整備を通じたリサイクル技術の開発及び、低コスト化が必要です。

リサイクル関連技術開発については、グリーンイノベーション基金事業において、リチウムイオン電池から、競争力のあるコストで、蓄電池材料として再利用可能な品質で希少金属を回収する技術の確立を支援(国費負担額:上限1,510億円)しています。リサイクル拠点の支援については、令和3年度補正予算において、「蓄電池の国内生産基盤確保のための先端生産技術導入・開発促進事業」として1,000億円が措置されています。今後も将来を見据え、リサイクルしやすい蓄電池の検討や、基盤整備等を進めていく必要があります。

企業の取り組み事例紹介①

まずは、電力事業を行う大手2社が系統用の蓄電池システムに取り組んでいる事例です。蓄電池を電力系統に接続すると、系統の電力が余った時には蓄電し、不足した時には放電できるため、電力系統の安定化が可能となります。最近では電力の新市場や関連制度の整備が進んできたことから、系統用蓄電池が注目されています。

JERAとTOYOTAがリユースEV用バッテリーで大容量スイープ蓄電システムを構築

10月27日、JERAとTOYOTAはリユースEV用バッテリーを活用した大容量スイープ蓄電システムを構築し、電力系統への接続を含めた運転を開始したと発表しました。

同システムは、性能および容量の差が大きい使用済みの車載電池を扱うことが可能となるスイープ機能を搭載し、電池の劣化状態を問わず、かつ異種電池が混合した状態でも容量を使い切ることを可能にしています。※スイープ機能とは、直列に繋いだ各電池の通電と非通電をマイクロ秒で切り替えることで、充放電量を任意に制御するデバイスのこと。

車載用インバーターをリユースすることで、パワーコンディショナー(PCS)を省略し、コストダウンに寄与。また、PCSによる交流から直流に変換する際の電力損失を抑えることでエネルギーの利用効率向上を図っているということです。今後、JERA四日市火力発電所において系統用蓄電池としての充放電運転を行っていく予定です。

出典:JERA プレスリリース

大阪ガス、NExT-e Solutionsとリユース蓄電池を活用した系統用蓄電池の事業化を目指し資本業務提携

大阪ガスは、と資本業務提携を結び、モビリティ由来のリユース蓄電池を活用した系統用蓄電池の事業化を目指します。その第一歩として、9月にはEVリユース蓄電池等で構築した蓄電池システムによる実証試験を開始したことを発表しました。

NExT-e Solutionsは、劣化状態が異なることに起因する利用可能量の低下などの技術的課題を解決する蓄電池の制御技術を保有しているため、リユース蓄電池を最大限活用することが可能です。

本実証では、大阪ガスの敷地内にて、EVとフォークリフトから回収したリユース蓄電池と新品の蓄電池を用いて、蓄電池システムを構築。NExT-e Solutionsの制御技術に加え、大阪ガス子会社の劣化診断技術も駆使し、劣化状況が異なる蓄電池を組み合わせて運転した際のリユース蓄電池の有効性を検証するということです。

出典:大阪ガス プレスリリース

企業の取り組み事例紹介②

このように、蓄電システムは、系統側では需給調整市場や卸電力市場での活用を見越した調整用電源としての設置、太陽光発電および風力発電システムの出力平滑化のための設置が進んでいます。一方、需要家側では、太陽光発電システムなどの自家消費やピークカット用途、レジリエンス性の向上を目的に非常用電源としての設置が進んでいるとすみ分けることができます。

また、どちらも兼ね備えている動きもあり、以下のような導入事例があります。

富士電機など3社で、VPP対応のEVリユース蓄電池システムを導入

2017年、日本ベネックスと住友商事が共同で、物流コンテナへの高積載技術を駆使して新型のリユース蓄電池システムを開発。住友商事が過去運用してきたものと比較して2倍のリユース蓄電池を格納し、経済性をさらに高めました。さらに本システムは2018年1月に稼働開始し、VPP(バーチャルパワープラント)対応の新型リユース蓄電池システムとして富士電機株式会社によって商品化され、販売しています。

導入している日本ベネックスの本社工場では、普段は電力需要ピーク時の補助電源として使用しています。2021年4月より開設された需給調整市場にて、VPP事業としても活用しています。マルチユースで設備利用率を上げれば、追加収入を見込めるようになるでしょう。また太陽光発電を併設している場合、電力使用量が少ない非操業日にせっかくの太陽光発電を余らせてしまうケースもありますが、蓄電池の活用により再エネの有効利用が可能となります。

出典:日本ベネックス プレスリリース

今後もこのように再エネを有効利用する自家消費、BCP、VPP・DR(デマンドレスポンス)など、マルチユースが広がることで導入が加速していくとみられています。

企業の取り組み事例紹介③

蓄電池のマーケットでは国内外で導入の容易さ、迅速さ、コスト削減などを目的に周辺部品の設置や据付工事を含むパッケージ導入が増えています。最後は、スマート・エネルギー・マネジメント事業に取り組むダイヘンの事例です。

ダイヘン、自家消費型太陽光発電向け「リユースバッテリーパッケージ」を販売

2022年9月からダイヘンはEV使用済みバッテリーを再利用した産業用蓄電池と、蓄電池用PCSを一体化した自家消費型太陽光発電向け「リユースバッテリーパッケージ」の販売を開始しました。新製品は、EVの使用済みバッテリーを再利用することで、現行品である新品バッテリーを使用した産業用蓄電池と比較して、導入コストを約30%低減することができたということです。

使用済みバッテリーはフォーアールエナジー社が提供する日産自動車製 EVを使用。販売するパッケージは、工場や施設などにおける太陽光発電と組み合わせた自家消費向けで、バッテリー容量はユーザーの用途や希望に応じてカスタム可能となっています。

まとめ

国内では、各種電力市場での活用を目的とした蓄電システムの設置が多数計画されており、2022年は総額130億円の系統用蓄電システムの補助金の公募が行われました。蓄電池の普及に伴って新品価格は推し下がっていくことも予想されますが、太陽光パネル同様にLCAを考えたシステム構築が必要なことは間違いありません。このような日本の技術や取り組みが今後世界のモデルとなることが期待されます。

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