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「現象」にとらわれず、今後のエネルギー業界を大胆に考えてみる

一般社団法人エネルギー情報センター

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「社会は今後どうなっていくのか」ビジネスを進めていく上でとても重要な視点です。エネルギー業界や社会全体はどのような方向に進んでいくのでしょうか。今回は、今後の社会の在り方について大胆に考えていきたいと思います。

エネルギー業界の直近の動き

最初にこの数年を振り返ってみましょう。2020年のコロナ以降に限ってもエネルギー業界では様々な変化が起こりました。例えば、コロナ禍初期でのエネルギー需要の世界的減少。日本でも電力市場が記録的な低価格となります。その後の2021年、アメリカのパリ協定復帰。菅首相のカーボンニュートラル宣言。デジタル化、蓄電池や電気自動車への期待、再生可能エネルギーの主力電源化の動きが加速します。最近では2022年2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻。世界的な天然ガスの供給危機、日本では電力市場高騰が今も続いています。

上記のようなエネルギー業界で起こる様々な「現象」。各々の「現象」が世界規模であり、規模が大きいので、目も心も奪われてしまいます。「現象」の発生に反応して、なぜその「現象」が起こったのかについて多くのことが語り合われています。起こった「現象」から犯人捜しをする、何かしらの結論を出したいと試行錯誤する。それ自体は悪いことではありません。しかし、ある「現象」を分析している間にも新たな「現象」が起こり、消化不良のまま状況が刻々と変化していると感じています。

社会全体の構造が大きく変わろうとしているのではないかという仮説

このように、それぞれの「現象」同士が、日々ぶつかり合いながら動いている、互いに影響し合っている状態は、1つの大きなビリヤードの台の上を各ボールがコロコロと転がり、ぶつかりあっているように見えます。各ボールを見ていても未来は予見できません。1つ1つの「現象」の背景にあるビリヤードの台=「構造全体」までズームアウトする。俯瞰し、注意を払うことが大切だと思います。

ビリヤード台に目を向ける。そのような視点で観察すると「こんなにボールがコロコロと転がっているのは、ビリヤードの台自体の形や大きさ、向きが変わっているのではないか?」という仮説が頭に浮かんできます。つまり、エネルギー業界全体の構造が大きく変わろうとしているのではないか、更に言うと社会全体の構造が大きく変わろうとしているのではないかという仮説が立つのです。

それでは「現在は、社会全体の構造が大きく変わろうとしているのでないか?」という問いをスタート地点に3つのポイントを提起したいと思います。

1.中央集権からネットワーク型へ

まず中央集権からネットワーク型への移行です。これは社会のあらゆる場面で起こっています。エネルギー業界でも起こります。20世紀はエネルギー生産者である電力会社・ガス会社から多くの消費者へとエネルギーが一方向に供給される中央集権型の体制でした。

しかし、これからのエネルギー業界は、太陽光発電・電気自動車(EV)・蓄電池などが家庭の中に導入され、あらゆる場所で発電、蓄電が行われます。すると各家庭や事業者が生産者であり消費者である、「生産消費者」が増えていきます。「生産消費者」が21世紀のエネルギーの主役となります。「生産消費者」は、互いが繋がり合い、エネルギーがネットワーク型になっていくと予想します。

現在はその過渡期です。過渡期であるが故に様々な「現象」が起こっています。しかし、10年単位でみれば確実にその方向に向かっていくでしょう。(もう少し予見しておくと2050年以降は、ネットワーク型から再度集中型へとギアチェンジします。なぜなら人類の宇宙開発が本格化するからです。)

2.「領域と領域の間」に新たなビジネスチャンスが生まれる

2つ目は、これまでの「領域と領域の間」に新たなビジネスチャンスが生まれるという点です。これまではエネルギーが家庭や企業に届くまでの流れとして、以下のような大きく3つの領域がありました。

  1. 発電=創る
  2. 送配電=運ぶ
  3. 電力小売り=販売する、利用する

この3つの領域は各々大きな市場規模があります。そのため、ビジネス事業者も、各々の領域で自社のビジネスを最適化してきました。しかしこれからは、先述した通り、脱炭素化やデジタル化がきっかけとなり様々な変化が起きます。
例えば、発電では太陽光発電の普及や、洋上風力導入の動き、石炭火力への厳しい目、水素・アンモニア発電、メタネーションの実用化といった動き。送配電では、地域間連携線の増強、配電ライセンス制度、電力網のデジタル化。加えて、電力小売りでは、2016年の小売り全面自由化、エネルギーデータの見える化などです。

「領域」と「領域」の境界線にビジネスチャンスがあります。なぜなら、そこが今までの部分最適化の影響で一番非効率的だからです。発電、送配電、電力小売りの領域を超えたビジネスモデルが生まれようとしています。具体的には、PPA(第三者所有モデル)やマイクログリッド、エネルギーデータ産業、カーボンリサイクル、デマンドレスポンス・VPPなどです。今後は、各領域での最適化ではなく、領域を超え、領域を横串にしたサービスを創ることが飛躍のチャンスになります。

3.エネルギー産業は自動車産業、通信産業と一体に

最後にエネルギー産業は自動車産業、通信産業と一体になっていき、より大きな市場になっていくと予想されます。2022年現在は、エネルギー産業、自動車産業、通信産業の3つの異なる産業が存在しています。そして、この3つが融合していくと考えています。しかも3つを合わせた市場規模は今よりも大きく成長していく。 先ほどの横串されたサービスモデルの考え方を応用すると、エネルギー産業、自動車産業、通信産業を顧客視点で横串し、業界を超えてサービスを展開する会社が登場するでしょう。

これから5年、10年、15年かけて新会社「XYZカンパニー」が現れる。そういった企業の先駆けは、アメリカのテスラです。テスラは、エネルギー業界では蓄電池・太陽光・家電、自動車産業ではEV・EVトラック、通信業界では宇宙通信を手掛けています。テスラは、顧客視点で3つの業界を統合し、顧客が望むサービスを提供していく予感がします。

実はテスラ以外にもこのような動きはあります。欧州の電力販売の最大手の1つであるE.ON。以前は単純にエネルギーを販売していましたが、現在は、太陽光、蓄電池、EVとの連携もはじめています。その他にも自動車大手のフォルクスワーゲンが子会社に電力会社を設立し、電気自動車を中心に据えたエネルギービジネスの新たなモデルを模索しています。

このように顧客視点で業界を超えてサービスを展開する企業は今後も増えるでしょう。日本の場合、「XYZカンパニー」がベンチャー企業として登場するのか、既存の大手企業が変身するのかまでは、未だ分かりません。ただ、これまではこれ以上は超えられないと信じ込んでいた「領域」。その「領域」を超え、2つの「領域」を顧客視点で繋ぎ合わせていくところに多くのビジネスチャンスが眠っているのは間違いありません。

まとめ

毎日のように勃発する1つ1つの「現象」に右往左往せず、根っこにある構造の変化に着目してみてましょう。現在は、社会全体の構造転換の途中です。社会の在り方が変わる過程でエネルギーのあり方も同様に変わります。エネルギーシステムは中央集権からネットワーク型へ移行し、業界内の領域は崩れます。そして将来エネルギー業界は自動車業界、通信業界と融合するでしょう。「領域」を意識して設計し、ビジネスを構築していくことが大切です。

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