ビジネス活用が広がる分散型エネルギーリソース。蓄電池を活用したDERの可能性とは
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2022年05月20日
一般社団法人エネルギー情報センター

現在、分散型エネルギーリソース(DER)は、電力需給ひっ迫対応や新たな需給調整市場などにおいて活用が進んでいます。そこで今回は、「蓄電池等の分散型エネリソースを活用した次世代技術構築実証事業」の事例から、今後の蓄電池を活用したDERの可能性についてみていきます。
蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業とは?
分散型エネルギーリソース=DER(Distributed Energy Resources)とは、需要家の受電点以下に接続されているエネルギーリソース(発電設備、蓄電設備、需要設備)、および系統に直接接続される発電設備、蓄電設備を総称するものをいいます。
近年は、以下の二つの背景から、DERの更なる活用機会の拡大が期待されています。
- 再生可能エネルギー導入拡大及び主力電源化のため
- 再生可能エネルギーの電力市場へ統合と電力安定供給の実現のため
そのため、経済産業省は「蓄電池等の分散型エネリソースを活用した次世代技術構築実証事業」(以下、当事業)を通じて、DERを活用した新たなビジネスモデル構築を行うことを目指しています。事業期間は令和3~5年度の3年間で、令和4年度の概算要求額は57億円となっています。
令和4年度の当事業はさらに以下の3つの事業項目にわかれています。
- 1.再エネ発電等のアグリゲーション技術実証・・・今後開設予定の電力市場要件等に即したアグリゲーション技術の構築や新規アグリゲーターの育成
- 2.ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証・・・EVを用いた充電シフト実証の規模拡大など
- 3.DERを活用したローカルフレキシビリティ技術開発・・・ローカルフレキシビリティの実現に必要な技術開発
今回は、特に蓄電池と関連のある1と3の実証事業について事例を交えながら詳しくみていきます。
エナリス社による再エネ発電等のアグリゲーション技術実証
株式会社エナリスは、「再エネの不安定性を発電サイドでできるだけ吸収し、市場取引での収益を最大化するために必要な技術開発、仕組みを構築すること」を目的に実証を実施しました。(2022年4月公表「令和3年度の蓄電池等の分散型エネリソースを活用した次世代技術構築実証事業」の成果報告による
当実証では、多くの成果を得ていますが、蓄電池関係の成果を2つご紹介します。
蓄電池制御によるインバランス回避
FIP制度では、再エネ発電事業者は発電する再エネ電気の見込みである計画値をつくり、実績値と一致させることが求められます。これをバランシングといいます。バランシングにあたり、計画値と実績値の差(インバランス)が出た場合には、発電事業者は、その差を埋めるための費用をはらわなければなりません。そこで、蓄電池制御によるインバランス回避が期待されています。
今回の実証では、不足インバランス発生時間帯は放電し、余剰インバランス発生時間帯は充電を行いました。すると、あるパターンでは、蓄電池なしケースと比較してインバランス量の総量を90%削減することができたということです。(以下の資料参照)

出典:エナリス
ここでは、蓄電池容量が有限であることを前提として、インバランス単価(≒スポット価格)を予測した上で、インバランス料金が高くなると見込まれるタイミングに蓄電池を有効活用する蓄電池充放電計画を立てているとのことです。
エナリスは、今後、蓄電池の能力を最大限に活かせるような発電設備(太陽光発電容量)と蓄電池容量の組合せを検討する必要があるとしています。その上でパラメータの設定を変更することで更なるインバランス量の低減が期待できるとしています。
市場取引での収益拡大に向けた検証
FIP制度では再エネ発電事業者は、電力の需要と供給のバランスに応じて変動する市場価格を意識しながら発電し、蓄電池の活用などにより市場価格が高いときに売電する工夫をすることで、より収益を拡大できるというメリットがあります。そこで同社にて、前述した「蓄電池制御によるインバランス回避」の技術を活用して市場取引での収益拡大に向けた検証が行われました。
まず仮想発電バランシンググループを作成します。次に再エネ発電量予測およびスポット価格予測情報を基に、蓄電池の充放電計画を加味した翌日のスポット取引計画を作成し、これに基づき実需給断面においてリソース制御を行い、収益性を評価しました。

出典:エナリス
結果は、市場価格予測に基づく蓄電池の充放電ができ、蓄電池制御により1.3円/kWhの収益性向上を確認できたといいます。こちらの検証でも今後は、制御ロジックの改善やPV出力と蓄電池出力・容量の最適な組み合わせ等を検討し、更なる収益向上を目指すとしています。
DERを活用したローカルフレキシビリティ技術開発について
こちらは令和4年度からの新規テーマとなっています。電力系統の混雑等の情報とDERによる需要創出を組み合わせ、送配電設備の容量制約等を回避し、再エネの最大限の有効活用を促進する仕組みを検証するものです。
当事業の前段となるものとして、「再生可能エネルギーの大量導入に向けた次世代電力ネットワーク安定化技術開発/電力系統の混雑緩和のための分散型エネルギーリソース(DER)制御技術開発に向けたフィージビリティスタディ」がありました。2021年7月~2022年3月に三菱総合研究所、関西電力、関西電力送配電、京セラ、東京電力パワーグリッド、早稲田大学の6者によって実施されました。

DERの活用イメージ 出典:東京電力パワーグリッド
これを受けてスタートされる当事業の事業期間は2022年度~2026年度の5 年間で、2022 年度の概算要求額は 400百万円です。
当事業の最終的な目標には、以下のような点があげられています。
- ローカルフレキシビリティシステムを介し、アグリゲーターが送配電系統の混雑状況とそれに紐付くDER の稼働状況を把握できること
- 混雑する送配電系統の DER 制御により需要をシフトし、再エネ発電の出力制御が回避可能となることを実証すること
- 標準的な業務フローを確立すること
DERを活用するするための産業用蓄電システムとは
最後に、こうした本格的な普及の兆しが見えてきたにDERを活用するするための、産業用蓄電システムを紹介します。
パワーコンディショナーのパイオニアであるSMA社は、G-Tech社との協業により、需給調整市場を見据えた「蓄電池発電所」のための系統用蓄電システム「4MWh Container BESS」を開発しました。同システムは東京ビッグサイトで開催された「スマートエネルギーWeek 2022 春展」(3月16日~18日)で、パネル展示されました。経済産業省の補助事業「再生可能エネルギー導入加速化に向けた系統用蓄電池等導入支援事業」にも適合しているということです。

4MWh Container BESS構成イメージ 出典:G-Tech
特徴としては、以下の2点があります。
- 電力系統に直接接続することが可能であること
- 電力系統内に余剰電力の発生が見込まれる際は充電し、不足する際は放電、あるいは電力系統への調整力を供給すること
これらにより、各種電力市場での取引を通じ、再エネの有効活用や電力需給バランスの改善に寄与するということです。
長期的には 2050 年のカーボンニュートラル達成に向けて、短期的には2022年4月からのFIP制度の導入等を受けて分散型のエネルギーマネジメントシステムが注目を集めています。蓄電池を活用したDERについては、実証事業により多くの有効なケースが出てきていることがわかりました。収益性のあるビジネス活用も現実的になってきているといえるのではないでしょうか。今後、さらなる活用が期待されます。
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