横浜市がブルーカーボンをCO2クレジットとして初認証、温暖化対策に海洋資源を活用
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2019年09月19日
一般社団法人エネルギー情報センター
横浜市は9月17日、海の公園の公園管理区域内に生息するアマモによるブルーカーボン(12.3t-CO2)をクレジットとして認証したと発表しました。ブルーカーボンのクレジット認証は初めての取組であり、昨今、ブルーカーボンをクレジットとして認証する環境が整ってきたことから実現しました。
高いCO2削減ポテンシャルを持つブルーカーボン
2009年10月に国連環境計画(UNEP)の報告書において、海洋生態系によって隔離・貯留された炭素が「ブルーカーボン」と定義されました。これにより、陸上の森林などに蓄積される炭素「グリーンカーボン」と異なる吸収源対策の新しい選択肢が提示されました。
四方を海に囲まれた日本にとっては、沿岸域の吸収源としてのポテンシャルは大きく、また生態系ベースのため副作用がほぼ無く、生態系サービスとの相乗効果が期待できます。
日本のブルーカーボンによる吸収量については、「ブルーカーボン研究会」が試算を行っています。その試算によると、都市緑地の効果が124万トン-CO2であるのに対し、ブルーカーボンは204~910万トン-CO2と1.6~7.3倍程度のポテンシャルを秘める結果が出ています(図1)。
多くの国がパリ協定の「自国が決定する貢献(NDC)」において、気候変動の緩和・適応の面から,ブルーカーボンの活用に言及しています。例えば、オーストラリア、米国、UAEはIPCC湿地ガイドラインによりブルーカーボンの算定を開始していますが、現状で日本は地球温暖化対策として定めていません。
日本においては、国土交通省が主催する「地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会」が2019年6月11日に立ち上げられ、ブルーカーボンを温暖化対策の施策とするための検討が進められています。
こうした中、横浜市は、海の公園の公園管理区域内に生息するアマモによるブルーカーボン(12.3t-CO2)をクレジットとして認証したと発表しました。ブルーカーボンのクレジット認証は初めての取組であり、昨今、ブルーカーボンをクレジットとして認証する環境が整ってきたことから実現しました。
市独自のプロジェクト「横浜ブルーカーボン」
カーボン・オフセットとは、自らのCO2等の温室効果ガス排出量のうち、削減困難な排出量の全部又は一部を、他の場所での排出削減、吸収活動に投資することにより相殺することをいいます。
横浜市では、平成23年度から海洋資源を活用した温暖化対策の検討を進めてきましたが、平成26年度より、横浜市独自のカーボンオフセットを中心とした新たな脱温暖化プロジェクト「横浜ブルーカーボン」をスタートしました。
「横浜ブルーカーボン」は、市民・企業・団体との協働により、ブルーカーボンとブルーリソースによる臨海部の資源を活かした地球温暖化対策に取り組み、環境保全や環境啓発などを付加することで、地球温暖化対策と市民にとって親しみやすい海づくりを同時に推進することを目的とする事業です。
これまでの横浜ブルーカーボン・オフセット制度では、わかめの地産地消、海水ヒートポンプ導入、LNG 燃料タグボート導入、ハイブリッドタグボート導入によりクレジットが創出されてきました(図2)。また、オフセットは、トライアスロン大会等のスポーツ・イベントや、温暖化対策の実施に強い熱意を持つ事業者の事業活動に対して実施されており、平成30年度には 164.4 t-CO2のカーボン・オフセットが実現しています。
今回、クレジット化されたブルーカーボンは、海草の一種であるアマモによるものです。横浜市では2015年度より、アマモ場が持つCO2を吸収し固定する効果、水質を改善する効果、生物多様性の増進に貢献する効果に着目し、アマモ場の調査・啓発活動を行ってきました。 その中で、海の公園の公園管理区域内に生息するアマモによるブルーカーボン(12.3 t-CO2)がクレジットとして認証されました。
海の公園は、1988年に、金沢地先埋立事業の一環として整備された、横浜で唯一の海水浴場をもつ公園です。千葉県から運んだ砂を使用しており、横浜市により人工的に造成されました。現在は、アマモのほかカニやアサリなど多くの生き物が生息しています。2019年6月時点の公園管理区域内に生息するアマモ密生域の面積は、77,804m2で、東京ドーム約1.7個分に相当します。
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一般社団法人エネルギー情報センター
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