ブロックチェーンが変革する社会の在り方、エネルギーや環境問題へのインパクト(1)
政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
2018年09月27日
一般社団法人エネルギー情報センター

WEFは9月、ブロックチェーンが環境問題に与える影響をまとめたレポートを発表しました。レポートでは、現在のシステムやアプローチを根本的に覆す8つの「ゲームチェンジャー」を特定しています。
第四次産業革命の重要要素となるブロックチェーン
第三次産業革命の根幹となる技術の1つとしてインターネットが挙げられますが、これから始まる第四次産業革命はブロックチェーの活用が肝になるとされています。ブロックチェーンの特徴としては、 変更困難な元帳と高度な暗号化を使用して、さまざまな資産を、サードパーティの仲介者なしで安全かつ安価に共有できるというものです(図1)。
ブロックチェーンは、金銭であるか商品であるかに関わらず、安全かつ事実上不変なレコードを作成します。p2P取引を容易にすることが可能であり、財、活動、または証明などのセグメントで、スマートコントラクトを介して価値を移転することができます。
今日のインターネットのプロバイダー企業とは異なり、ネットワークの参加者が、ノードをホストすることによって、ネットワークの一部を構成します。 ブロックチェーンは単なるデジタル通貨を有効にするツールではなく、既存の多くのプロセスを変える可能性のあるインフラストラクチャであり、分散型でグローバルなビジネスを実現する可能性を秘めています。
現在、ブロックチェーンアプリケーションとプラットフォームが広く知られ始めています。 暗号資産を開拓したBitcoinに続いて、Ethereumの開発が進められ、これらによりブロックチェーンは全く新しい「トークン経済」を生み出しました。そのほか、デジタル証明、資金調達、健康など、様々な分野でブロックチェーンの活用可能性が模索されています。
今後、環境・エネルギーといった分野にもブロックチェーンの技術は組み込まれていき、新しい価値を生み出していく可能性があります。こうした中、世界経済フォーラム(WEF)は、ブロックチェーンに関するレポートを発行しました。このレポートは、環境問題を解決するためのブロックチェーン事例を紹介しています。また、現在のシステムやアプローチを根本的に覆す8つの「ゲームチェンジャー」を特定しています。

図1 ブロックチェーン技術について 出典:WEF
8つのゲームチェンジャーと活用例
ブロックチェーンが革新を起こすと考えられる8つのゲームチェンジャーと、各ゲームチェンジャーにおける事例を紹介致します。
①シースルーサプライチェーン
透明性のあるサプライチェーンをブロックチェーンは作成可能であり、 ブロックチェーン上で取引データを記録することで、サプライチェーンの一連の流れを否定できないものにします。このような透明性は、需給管理、復元力の構築、そして持続可能な生産・物流・消費を可能にします。
グローバル企業は、100%再エネ利用や、森林破壊のない開発、紛争のない資源開発、100%リサイクル材利用などの公約を掲げています。しかし、グローバルサプライチェーンは非常に複雑であり、不透明で、環境に優しい企業活動をしているとの証明は困難を極めます。
サプライチェーンにおけるデータの出所、トレーサビリティといった部分の透明性を確保することができれば、 企業リスク管理の改善や、株主等に対する情報開示と報告を可能にすることができます。ブロックチェーンは、それらの透明性を確保することが可能とされています。
正当かつ改ざん不可能な透明性の確保というのは、あらゆるセグメントに革命を起こすもので、例えば正当な企業活動に対する確かな信頼を築きます。加えて、違法かつ非倫理的な市場取引を表面化させ、品質や安全性の問題を解決し、管理コストの削減や、信頼を担保とした金融へのアクセスを拡大することに発展します。監視を改善し、検証と報告が行われることで、潜在的に存在する控訴リスクを回避することもできます。
つまり、ブロックチェーンにより、費用効率の高い方法で、企業は倫理的な業務を行うことができます。また、信頼性のある企業データにより、投資家と資産家は責任ある投資を実施することができます。
農業分野では既にブロックチェーンが使用されており、実証可能な記録を提供するため、所有と取引、管理と認証、持続可能な事業実現のための資源伐採を可能としています。こうした中、「Instituto BVRio」は、オンライン取引プラットフォームを開発しました。「責任ある木材取引所」と称して、効率性、透明性を向上させ、詐欺などのない倫理的な木材取引を可能としています。
そのほか、英国に本拠を置くベンチャー企業「Provenance」は、2016年に、インドネシアから英国の消費者までの、ブロックチェーンのマグロ追跡システムのテストを「International Pole and Line Association(IPLA)」と協力して実施しました。
同様にフランスのCarrefour社のスーパーマーケットでは、顧客が製品の生産過程などの情報を受け取ることができます そのほか、ベンチャーのFishCoinは、釣った魚の情報を提供した人にインセンティブを与えるモバイル向けの取引可能なシステムを開発中です。 このようなデータは、世界の魚資源をより良く管理しようとする政府にとっても非常に貴重なものです。
②分散かつ持続可能な資源管理
ブロックチェーンは、分散型ユーティリティへの移行を支えることができます。例えば、スマートメーターで取得したエネルギーデータを使用して、分散取引を可能とます。これには、ピアツーピア取引、動的価格設定、需給バランスの最適化調整が必要です。これらは、ブロックチェーンが実現可能なものとされています。
この種のソリューションを使用するサービスは、大部分が現在試用段階にありますが、例えば、LO3 EnergyとSiemens Digital Gridは、エネルギー分野向けのオープンソースとして、カリブレーション可能なブロックチェーンプラットフォームの初期例といえる「Brooklyn Microgrid」プロジェクトを立ち上げました。太陽光発電を所有するプロシューマーは、ニューヨークの地元のブルックリン市場の顧客(隣人)と、ほぼリアルタイムで自律的に取引可能です。
分散型グリッドは、局所的エネルギー弾力性が強く、例えば、自然災害に対応した電力網などの実現が可能です。この点「Brooklyn Microgrid」は、マイクログリッドコントロールを構築し、災害時などには病院へ電気をリダイレクトすることを可能にします。
分散型のさらに先を見据え、ストレージと需給バランス調整のミックスといった移行が進められる可能性があります。ドイツのエネルギー大手のRWEは、蓄電機能も保有するEVのスマートフォン用のアプリを開発しています。電気自動車のオーナーは、ブロックチェーンのネットワークにより、あらゆる充電ステーションで受電が可能であり、消費されたエネルギーに対して課金が行われます。支払いプロセスは自動で行われます。こうしたソリューションは、地域エネルギー分散化の枠組みを包括的に構築し、エネルギー管理と最適化を実現します。
③新しい持続可能なファイナンス、ブロックチェーン対応の金融プラットフォーム
ブロックチェーンは、資本へのアクセスに革命をもたらし、環境問題に関して、潜在的に存在する新しい投資家の可能性を表面化します。少額の環境インフラへの投資を、通常行われるファイナンス活動や慈善活動に組み込むことができます。
従来の金融会計を拡大することで、新たな社会資本や環境資本を獲得することもできます。これらの変更は、数兆ドルにも及ぶとされる、低炭素社会に移行するための資金調達に必要です。
国連は、SDGsを達成するためには、年間5〜7兆ドルの追加投資が必要であり、途上国では約2.5兆ドルが不足するとしています。この点、ブロックチェーンは、投資を活性化させるポテンシャルを秘めています。
分散型のフレームワークにより、効率を大幅に向上させることで、大規模な資本を持つ少数の投資家ではなく、多様な投資家の参入を可能とします。金融投資の「トークン化」は、これを開くものです。
初期のアプリケーションが登場してきており、「Sun Exchange」は、太陽光発電のためのブロックチェーンベースのプラットフォームを発表しています。これは、太陽光発電に投資したい人の資産を、太陽光発電のプロジェクトに繋ぐものです。この分散プラットフォームにより、為替手数料を避けることで、国境を越えた投資と返済を容易にします。
他の初期プロジェクトでは、例えばNPOのPoseidonが、カーボンクレジットをトークン化する手法を考案しています。認証されたクレジットの生産者と、その資産の消費者を結ぶマーケット構築を目指しています。
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報

一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
---|---|
所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
電話番号 | 03-6411-0859 |
会社HP | http://eic-jp.org/ |
サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年04月30日
【第2回】電気主任技術者の人材不足とは? 〜人材育成の最前線、業界と行政が進める具体策〜
電気主任技術者をめぐる人材不足の問題は、再生可能エネルギーやEVインフラの急拡大と相まって、ますます深刻さを増しています。 こうした状況に対し、国や業界団体は「人材育成・確保」と「制度改革」の両面から対策を進めており、現場ではすでに具体的な動きが始まっています。 第2回となる今回は、人材不足に対し、業界や行政がどのような対策を講じているのか、具体的な施策を、実例を交えながら、詳しくお伝えします。
一般社団法人エネルギー情報センター
2025年04月25日
蓄電池、給湯器などを活用したDRready対応の新たなビジネス創出、2029年度にはDR対応のヒートポンプ給湯器が導入見込み
日本においては再エネの急速な導入拡大に伴い、発電量過多によって電力の無駄が発生する時間帯が頻発することが課題となっています。そのための対策の一つとしてデマンドレスポンス(DR)が挙げられ、本記事では低圧分野における給湯器・蓄電池を活用した今後のDRの市場や可能性について見ていきます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2024年11月16日
蓄電池×新テクノロジーについて第4回に渡ってお伝えしています。前回はドローンに使われている蓄電池についてお伝えしました。今回はIoTと電力・エネルギービジネスの密接な関係についてお伝えします。
一般社団法人エネルギー情報センター
2024年10月09日
蓄電池×新テクノロジーについて第4回に渡ってお伝えしています。前回はAI、IoTとエネルギー産業についてお伝えしました。今回はドローンに使われている蓄電池についてお伝えします。