増加を続けるプロジェクトファイナンス、電力が最も多く約36%、三菱UFJ銀行は6年連続で世界1位
政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
2018年09月25日
一般社団法人エネルギー情報センター
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は9月、プロジェクトファイナンスに関する考察をまとめた資料を発表しました。プロジェクトファイナンス市場は、1990年代以降、概ね右肩上がりに成長しており、近年は日本企業の存在感も増してきています。
プロジェクトファイナンスとコーポレートファイナンス
プロジェクトファイナンスとは、返済原資を当該プロジェクトのキャッシュフローに限定し、かつ、融資に係る担保の取得を当該プロジェクト資産に限定するファイナンス手法のことです。複数のスポンサーが出資する特別目的会社(Special Purpose Company:SPC)が設立され、このSPC向けに行われる融資が一般にプロジェクトファイナンスと呼ばれます。主に資源・電力・インフラ分野を対象とし、10~30年といった長期の経済耐用年数・償却期間を必要とする大型設備向けの融資が適しています。
新規ビジネスの依り代としてスポンサーによって設立されたSPCは、当該新規ビジネス以外の収入源がありません。したがって、融資を行う金融機関は、新規ビジネスの事業計画をさまざまな観点で分析し、長期の事業性を検討します。また、万一の場合に備え、SPCが保有するすべての資産・契約に対して担保を設定します。
そのためプロジェクトファイナンスでは、資産売却・追加借り入れ・担保設定を行う場合、貸出金融機関の承認なく行うことはできません。また、事業の状況についても、定期的に詳細な報告をすることが求められます。
一方で、一般のコーポレートファイナンスでは、借入金の返済原資は特定の事業に紐付いていません。例えば、A社が新規のビジネスを展開するために設備投資資金を調達する場合、融資を行う金融機関は必ずしも新規ビジネスのキャッシュフローに依拠する必要はありません。つまり、A社が既に展開している既存ビジネスからのキャッシュフローからの返済でも問題はありません。また、弁済の元手となる担保についても、新規ビジネスに紐付かない資産(例えば、A社が保有する不動産)を担保に設定することができます(図1)。
プロジェクトファイナンスの歴史は、1970年代の北海油田開発向けプロダクション・ペイメントにさかのぼります。その後、1980年代にはLNGや銅等の資源開発全般で主に途上国向けに拡大が進んだとされています。
1990年代に入ると、途上国での発電事業民営化(IPP)、米国IPP発電向けプロジェクトファイナンスの興隆、そして英国Private Finance Initiative(PFI)導入により、電力・インフラ開発へと発展しました。その後、2000年代に入ると、太陽光・風力等の再エネ案件向けの応用が進み、小型開発案件にも導入されるようになってきました。
プロジェクトファイナンスの市場、20年前の10倍以上に
プロジェクトファイナンス市場は、1990年代以降、概ね右肩上がりに成長しています。2016年の総組成額は2848億2700万ドルと、1995年の253億2600万ドルと比較すると、20年間で約11倍の規模に成長しています(図2)。
プロジェクトファイナンスの組成額(2010~2016年第3四半期)をセグメント別にみると、電力が最も多く35.9%を占め、時点でインフラの28.1%、資源の27.7%、その他の8.3%と続きます。
同様の条件で、組成額を地域別に見ると、欧州が最大の市場であり、次いでアジア、そして北米の順となっています(図3)。
日本は資源案件がない分、長らく国内プロファイ市場は低迷していました。しかし、2010年代に入ってからは、FIT導入に伴い増加した太陽光発電などの再エネ案件と、政府が民営化を推進するインフラ案件が増加してきています。
その一方で、米国では一部地域を除き、インフラの民営化や民間によるインフラ整備(PPP)が積極的には導入されていません。米国のインフラ整備は州政府・地方政府が行っており、インフラ案件のプロジェクトファイナンスは極めて限定的になっています。
三菱UFJ銀行が6年連続で組成額トップ
金融関連のデータ会社であるThomson Reuters社とDealogic社は、毎年、プロジェクトファイナンスの組成額での金融機関ランキングを発表しています。2017年のランキングでは、三菱UFJ銀行が6年連続で第1位となり、三井住友銀行とみずほ銀行も上位に名前を連ねています(図4)。
2000年代初頭には、米国のCitibankが首位を飾っていましたが、徐々に自らは融資を行わない投資銀行モデルへとシフトしていきました。その後、英国のRoyal Bank of Scotlandと仏銀が上位を占めるようになりました。
しかし、2008年に起きた世界金融危機と、その後に発生したユーロ危機により、欧州系の銀行の勢力も徐々に弱くなっていきました。2009年から2011年の3年間は、インドのState Bank of Indiaが首位を飾りました。
そして2012年からは、三菱UFJ銀行が一位となりました(図5)。こうした日本のメガバンクの成功の背景には、プロジェクトファイナンス市場でのプレゼンスを縮小した米国Citibankや英国RBSから、プロジェクトファイナンスチームとチームヘッドを受け入れたことが一つ挙げられます。
また、欧州系の銀行は2010年代前半のユーロ危機で海外での貸し出しを縮小しましたが、邦銀メガは比較的金融危機の影響が小さいこともあり、海外の優良会社との取引を拡大していきました。
邦銀メガが上位を占めること自体は、日本の金融界が世界で競争力のあるプロダクトを持つという点で、非常に大きな意義があります。しかし、日本の金融機関は通常円ベースの資金調達を行っているため、外貨調達の限界があります。
例えば、日本国内の金融機関が、外貨での資金運用を一斉に増やした際に、円投スワップでの外貨調達コストが上昇し、既存のプロジェクトファイナンス案件の一部で採算が悪化したとされています。このように、日本の場合、プロジェクトファイナンス組成に対しては外貨調達の問題があるといえます。
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
---|---|
所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
電話番号 | 03-6411-0859 |
会社HP | http://eic-jp.org/ |
サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2022年08月05日
脱炭素社会への移行期に注目されるトランジションファイナンスPart1~政府が約20兆円規模の移行債を発行へ
日本郵政が国内初、200億円の移行債を発行してから、各業界企業で動きが進んでいる「トランジションファイナンス」。脱炭素へ一気に移行しづらい産業の取り組みを支援するものです。2回にわたってご紹介します。Part1では、その概要や企業事例についてご紹介します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2022年03月09日
自然災害増加の中、保険業界が支援する持続可能な再生可能エネルギー事業
ここ数か月、保険業界から自然災害による太陽光発電設備の被害による廃棄や近隣への賠償に関する保険商品が発売されています。今回は、脱炭素社会に向けて、保険業界が再生可能エネルギーの持続的な普及をサポートする取り組みを紹介します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2021年12月10日
エネルギー業界で拡大する環境債の発行、洋上風力など再エネ投資に利用
世界のグリーンマネーは3,000兆円を超えているとも言われ、金融市場にも脱炭素の流れが押し寄せています。その中でも環境債の発行実績の伸びは著しい状況です。そのような中、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、再エネ設備投資等のために電力会社による環境債(グリーンボンド)発行が相次いでいます。今回はそれら状況について整理していきます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2020年05月05日
国内メガバンク、3社とも新設石炭火力発電への投融資を停止、気候変動対策への対応強化
昨年の三菱UFJフィナンシャルグループの発表に続き、みずほフィナンシャルグループおよび三井住友フィナンシャルグループが新設の石炭火力へのファイナンスを原則停止する方針を公開しました。これにより、3大メガバンクが石炭火力への対応につき概ね足並みを揃えることとなりました。
一般社団法人エネルギー情報センター
2020年03月13日
債権やローンを活用した再エネ・省エネ事業に要する資金調達、環境省ガイドライン改訂
日本においては環境省が、国際資本市場協会のグリーンボンド原則との整合性に配慮しつつ、グリーンボンドガイドラインを2017年3月に策定しました。策定後約3年が経過し、その間にグリーンボンド原則の改訂や、グリーンボンド発行事例の増加に伴う実務の進展等の状況変化が生じている中、2020年3月、グリーンボンドガイドラインの改訂版が新たに策定されました。