世界初、政府の補助金なしでCO2の回収から重曹の生成までする石炭火力発電所
政策/動向 | 再エネ | IT | モビリティ | 技術/サービス | 金融 |
2017年01月26日
一般社団法人エネルギー情報センター
2017年1月、インドのCarbon Clean Solutions社は、世界初となる政府による補助金を活用しないCO2回収技術を用いた石炭火力発電の計画を発表しました。これまで高コストであったCO2回収技術を半分以下に抑えることで、補助金なしのビジネス展開を可能としています。
石炭火力発電のCO2回収、政府による補助がない事例としては世界初
CO2の排出量が多い石炭火力発電所において、CO2の回収技術は非常に重要です。このCO2回収技術について、インドのCarbon Clean Solutions社は政府の補助金なしでビジネス運用できる画期的な技術の計画を発表しました。
この技術・システムは、インド南部のTuticorin市に建設された化学プラントに設置されました(図1)。発電所は10メガワットの規模であり、計画通りに進めば、年間で約6万トンにも及ぶCO2が回収されます。それら回収したCO2は、Tuticorin Alkali Chemicals & Fertilizers社によって、生活用品・医薬品・先端技術の分野まで幅広く利用される重曹の生産に利用されます。
回収したCO2は重曹生産に利用
今回の新しい方式によるCO2回収の要は、特殊な新しい溶媒の利用にあります。現在CO2回収貯蔵に使われているアミン系溶媒に比べ、効率ではわずかに上回る程度ですが、稼働に必要なエネルギーが少なく、腐食性などでも優るため、初期費用・維持費用ともに大きく抑えられるとのことです。その結果、二酸化炭素1トン当り$60~90と考えられているコストから、$30へ削減できると考えられています。
CO2回収については、回収貯蔵(CCS=Carbon Capture and Storage)に関するものもありますが、今回の技術は再利用(CCU=Carbon Capture and Utilisation)する方式です。CCSは、排出されるCO2を地中に押し込めますが、CCUでは回収したCO2を早期に再利用します。Tuticorin市のプラントは、CO2を重曹生産に利用しており、世界初の補助金を活用しないCCU活用の発電所といえます。
Carbon Clean Solutions社では、世界中で石炭から排出されるCO2のうち、回収・再利用が可能な割合は5~10%と想定しています。この割合であると、再生可能エネルギー等と比較すると温暖化への影響は限定的であるといえます。ただ、産業用の蒸気ボイラーを現実的に0にすることは難しく、さらに再利用可能エネルギーでボイラーを動かすのも難しいため、今回の技術が温暖化の緩和に貢献することが期待されます。
図1 石炭火力発電所の外観 出典:Carbon Clean Solutions
石炭火力発電の世界における流れ
石炭火力発電はCO2排出量等が問題となり、日本など一部の例外はありますが、特に先進国においては縮小の方向に向かっています。例えば、イギリスは2025年までに石炭火力の利用を終えると発表し、フランスはパリ協定の国際的なリーダーとして、輸出信用への厳しい制限および国内の石炭火力発電所の閉鎖などを実施しています。
G7伊勢志摩サミットの直前の2016年5月20日に、英国シンクタンク「Third Generation Environmentalism」が発表した先進7か国(G7)の石炭に関するスコアカードを見てみます。そのスコアカードによると、日本は最も石炭火力発電の新規計画が多いとされています。また、閉鎖される発電所の数も非常に少ないです(図2)。「Third Generation Environmentalism」によると、日本には約50基の建設計画があり、その設備容量は22.5ギガワット、CO2排出量は年間1億3500万トンに達します。そうしたこともあり、G7における石炭スコアカードにおいて、最下位のランキングとなりました。
この続きを読むには会員登録(無料)が必要です。
無料会員になると閲覧することができる情報はこちらです
執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
EICは、①エネルギーに関する正しい情報を客観的にわかりやすく広くつたえること②ICTとエネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること、に関わる活動を通じて、安定したエネルギーの供給の一助になることを目的として設立された新電力ネットの運営団体。
企業・団体名 | 一般社団法人エネルギー情報センター |
---|---|
所在地 | 東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F |
電話番号 | 03-6411-0859 |
会社HP | http://eic-jp.org/ |
サービス・メディア等 | https://www.facebook.com/eicjp
https://twitter.com/EICNET |
関連する記事はこちら
一般社団法人エネルギー情報センター
2022年08月05日
脱炭素社会への移行期に注目されるトランジションファイナンスPart1~政府が約20兆円規模の移行債を発行へ
日本郵政が国内初、200億円の移行債を発行してから、各業界企業で動きが進んでいる「トランジションファイナンス」。脱炭素へ一気に移行しづらい産業の取り組みを支援するものです。2回にわたってご紹介します。Part1では、その概要や企業事例についてご紹介します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2022年03月09日
自然災害増加の中、保険業界が支援する持続可能な再生可能エネルギー事業
ここ数か月、保険業界から自然災害による太陽光発電設備の被害による廃棄や近隣への賠償に関する保険商品が発売されています。今回は、脱炭素社会に向けて、保険業界が再生可能エネルギーの持続的な普及をサポートする取り組みを紹介します。
一般社団法人エネルギー情報センター
2021年12月10日
エネルギー業界で拡大する環境債の発行、洋上風力など再エネ投資に利用
世界のグリーンマネーは3,000兆円を超えているとも言われ、金融市場にも脱炭素の流れが押し寄せています。その中でも環境債の発行実績の伸びは著しい状況です。そのような中、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、再エネ設備投資等のために電力会社による環境債(グリーンボンド)発行が相次いでいます。今回はそれら状況について整理していきます。
一般社団法人エネルギー情報センター
2020年05月05日
国内メガバンク、3社とも新設石炭火力発電への投融資を停止、気候変動対策への対応強化
昨年の三菱UFJフィナンシャルグループの発表に続き、みずほフィナンシャルグループおよび三井住友フィナンシャルグループが新設の石炭火力へのファイナンスを原則停止する方針を公開しました。これにより、3大メガバンクが石炭火力への対応につき概ね足並みを揃えることとなりました。
一般社団法人エネルギー情報センター
2020年03月13日
債権やローンを活用した再エネ・省エネ事業に要する資金調達、環境省ガイドライン改訂
日本においては環境省が、国際資本市場協会のグリーンボンド原則との整合性に配慮しつつ、グリーンボンドガイドラインを2017年3月に策定しました。策定後約3年が経過し、その間にグリーンボンド原則の改訂や、グリーンボンド発行事例の増加に伴う実務の進展等の状況変化が生じている中、2020年3月、グリーンボンドガイドラインの改訂版が新たに策定されました。