脱炭素社会への移行期に注目されるトランジションファイナンスPart2 ~電力分野のトランジション・ロードマップとは

2022年08月24日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

脱炭素社会への移行期に注目されるトランジションファイナンスPart2 ~電力分野のトランジション・ロードマップとはの写真

脱炭素へ一気に移行しづらい産業の取り組みを支援する目的で、動きが活発化している「トランジションファイナンス」。Part2では、電力分野での取り組みについて、トランジション・ロードマップとJERA社の事例についてご紹介します。

電力分野の脱炭素化における状況

日本国内のCO2排出量のうち、電力由来の間接排出は約4割を占めています。そのため電力分野におけるCO2排出量削減も喫緊の課題です。2021年10月22日に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、2030年度時点で火力発電を現行の76%程度から41%程度まで減少させることが明記されています。(以下図参照)

出典:経済産業省

しかし、四方を海に囲まれ、海外と電力を輸出入する国際連系線がないなどの状況にある日本において、火力電源は供給力や調整力、慣性力といった安定供給上重要な役割を担っています。そのため、経済産業省も「電力の安定供給の確保を大前提としつつ、電源の脱炭素化を加速的に進めることが重要という考え方が大前提」にあるとしています。

そのような背景の中で政府は、トランジションファイナンスの普及を促進するために業種分野別ロードマップの策定をしています。トランジション・ロードマップとは、「企業が該当分野において実施しようとしているトランジション戦略又はファイナンスの資金使途がトランジションファインナンスの対象として適格かどうかを判断する際の一助とするためのもの」です。

電力分野のトランジション・ロードマップとは

では、電力分野のトランジション・ロードマップはどのような内容なのでしょうか。トランジション・ロードマップの資料では以下のような3つの要素を考慮しつつ電源の脱炭素化を進めていくべきであるとされています。

1.変動性の高い再エネや調整電源としての火力、蓄電池や原子力などが相互に補完しあいながら、系統全体で安定供給を確保していく必要がある

2.さらに、発電や送配電、さらには需要側を一体的に捉え、高い柔軟性を備えた電力システムの統合を図っていくことも求められる

3.このような電力システムの構築のためには、最先端の技術の実装が不可欠であり、これに向けた技術の開発や、その技術の導入コストの低減に資する研究開発も併せて進めていく必要がある

その上で、発電分野と送配電及び需要分野にわけて、以下のような取り組みが必要としています。

<発電分野>
  1. 火力電源の脱炭素化としてアンモニア・水素・バイオマスの混焼及び専焼、CCUSの活用
  2. 既存の火力発電所の休廃止、火力電源の最低出力引下げ等による火力発電割合の着実な引下げ
  3. 火力電源の稼働率の低減や高効率化
<送配電及び需要分野>
  1. 再エネの導入拡大に向けた送配電網の増強
  2. 蓄電池や揚水の導入といった系統の高度化に向けた取組
  3. 熱需要の電化の推進やディマンドリスポンス(DR)
  4. 水電気分解により製造した水素を用いた熱の利用(間接的な電化)

送配電及び需要分野に関する記載は「直接的に脱炭素化に貢献するものではないが、電源構成の脱炭素化を目指す上で不可欠なものであり、間接的に脱炭素化を推し進めるという意味において、トランジションの取り組みである」と位置づけられています。

ロードマップ全体のイメージは以下のような図に示されています。

電力分野のトランジション・ロードマップ 出典:経済産業省

以上のことから、発電分野では再生可能エネルギー発電や原子力発電の普及に関する記述などが具体的でないことから火力発電の移行ということが大きなテーマになっており、その上でアンモニア・水素・バイオマスの混焼からはじまり、将来的な専焼に関する技術開発が必要という内容がメインだと読み取れます。

では次に、モデル事例として選出されたJERA社の事例をみていきます。

JERA ゼロエミッション2050 日本版ロードマップご紹介

(株)JERAは、東京電力、中部電力の火力発電を継承する、世界最大級の火力発電会社として2015 年4 月30 日に設立されに設立されました。国内火力発電量の半分を占める発電能力を有しています。その他、燃料上流・調達から発電、電力/ガスの卸販売に至る一連のバリューチェーンを確立しています。

令和3年度クライメート・トランジション・ファイナンスモデル事業にて、JERAが調達を予定しているトランジション・ボンドについて、モデル事例として選定されました。2022年5月18日に5年債・発行額120億円および期間10年・発行額80億円のトランジション・ボンドの発行を決定しました。トランジション・ボンドの資金使途として、火力発電における化石燃料とアンモニア・水素の混焼実証、既存非効率火力発電の廃止に関する支出を上げています。

同月に国内事業におけるCO2 ゼロエミッションの道筋を示した「JERA ゼロエミッション2050 日本版ロードマップ」を更新しています。(以下図参照)

出典:JERA

モデル事例の資料においては、2050年までのゼロエミッションを長期目標とした上で、以下が具体的に明記されている点が特徴です。

  1. 2030年度までに非効率石炭火力発電の全台停廃止とし、五井火力発電所(LNG) における既存発電設備の撤去、知多火力発電所(LNG)における既存発電設備の撤去を行う
  2. アンモニア混焼に関しては、2024 年度に燃料の20% (熱量比)をアンモニアに転換するための技術開発・実証をし、2024 年度までに50%以上のアンモニア混焼可能な高効率バーナーを新規開発。2028 年度までに、実機で50%以上のアンモニア混焼を開始する

一方で水素混焼に関してはまだ技術的なハードルやサプライチェーン構築に関するハードルがあるためか、アンモニアに比べると具多的な記述はありませんでした。

また、同月に九州電力でも、総額400億円程度のトランジションポンドを発行しています。今回の発行により調達する資金は、高効率LNG火力発電所の開発及び既存火力発電所の休廃止に活用されるということです。

まとめ

以上の事例から現時点では、トランジションファイナンスは電力業界において、火力発電設備を持っている企業が活用するイメージが強く、多くの企業にとって活用しやすいものではない印象を受けます。逆にいうと、その点が環境債(グリーンポンド)とのすみ分けということになるのかもしれません。

Part1でも記載しましたが、改めて移行債が導入された経緯を確認するとその点が理解できます。

これまで脱炭素マネーは、CO2排出ゼロの事業で「グリーン」と呼ばれる領域を重視してきました。一方、排出量はゼロではないが、現在より排出量削減が見込まれる技術や設備の導入といった部分に光があたることは少なくマネーが集まりにくい状況でした。

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