SBT

SBT(Science Based Targets)とは

SBTとはScience Based Targetsの頭文字をとったものであり、産業革命時期比の気温上昇を「2℃未満」にするために、企業が気候科学(IPCC)に基づく削減シナリオと整合した削減目標を設定する取り組みのことをいいます。

SBTにおいて、企業は2050年までの温室効果ガスの排出量を49~72%削減することを目標としています。これにより、地球温暖化の防止、気候変動関連リスクに対する意識付け、エネルギー生産性の向上が期待できます。

SBTが削減対象とする排出量をサプライチェーン排出量といいます。これは事業者自らの排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計したものをいい、Scope1,2,3の3種類に分けることができます。

  1. Scope1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
  2. Scope2 : 他者から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出
  3. Scope3 : Scope1,2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

SBTの運営機関

SBTは以下の4つの機関が共同で運営しています。

国連グローバルコンパクト

参加企業、団体に「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」の4分野で本質的な価値観を容認、指示、実行することを求めている組織

CDP

企業の気候変動、水、森林に関する世界最大の情報開示プログラムを運営する組織(国際NGO)

世界資源研究所(WRI)

気候、エネルギー、食料、森林、水等の自然資源の持続可能性について調査、研究を行う組織

世界自然保護基金(WWF)

生物多様性の保全、再生可能な資源利用、環境汚染と浪費的な消費の削減を使命とし、世界約100か国以上で活動する環境保全団体

SBTに取り組むメリット

①対投資家へのメリット

年金基金等の機関投資家は、中長期的な利益を得るために企業の持続可能性を評価します。SBTに取り組むことは持続可能性をアピールすることができ、CDP(気候変動など環境分野に取り組む国際NGO)の採点等において評価されるため、投資家からのESG投資(環境・社会・行政を考慮した投資)の呼び込みに役立ちます。

②対顧客へのメリット

調達元へのリスク意識が高い顧客は、サプライヤーの大きな目標や取り組みを求めます。SBTに取り組むことはリスク意識の高い顧客の声に答えることとなり、自社のビジネス展開においてリスクの低減や機械の獲得に繋げることができます。

③対サプライヤーへのメリット

サプライヤーが環境対策に取り組まないと、自社の評判の低下や排出規制によるコストの増加等のサプライチェーンリスクの原因となります。SBTで削減目標を設定しサプライヤーに対して示すことで、サプライチェーンの調達リスクの低減やイノベーションの促進へと繋げることができます。

④対社内、従業員へのメリット

企業が省エネや再エネ、環境貢献製品の開発に取り組むことはコストの削減や評判向上等の企業価値向上に繋がります。SBTは目標設定水準であり、SBTを設定することによって社内で画期的なイノベーションを起こそうとする機運を高めます。

SBT加盟の手続き

SBT加盟の一連の流れは以下のようになります。

①(任意)Commitment Letterを事務局に提出

②目標を設定し、SBT認定を申請

③SBT事務局による目標の妥当性確認・回答(有料)

④認定された場合は、SBT等のウェブサイトにて公表

⑤排出量と対策の進捗状況を、年一回報告し、開示

⑥定期的に目標の妥当性の確認

SBTの設定方法

SBTの設定方法として、原則「総量削減」と「SDA」の2手法が推奨されています。

総量削減

全企業が排出総量を同じ割合で削減する手法です。基準年から毎年同量を削減していく想定で、現在から5~15年後の目標を設定します。

SDA(部門別脱炭素化アプローチ)

IEA(国際エネルギー機関)が定めたセクター別の原単位の改善経路に沿って削減する方法です。SDAを利用できるセクターとして、発電、鉄鋼、アルミニウム、セメント、紙・パルプ、サービス・商業ビル、旅客・貨物輸送が挙げられます。

SBT加盟後の先進企業の取り組み(国内事例)

キリンホールディングス株式会社

コージェネレーションの導入など製造工程におけるエネルギー利用効率の向上を図るとともに、CO₂排出量の少ない貨物鉄道輸送へのモーダルシフトや同業他社との共同配送の推進、省エネ型の自動販売機の導入、容器の軽量化などバリューチェーン全体でのGHG排出量削減に取り組んでいます。

また、ビール工場の排水処理から得られるバイオガスを利用してバイオガスボイラーやコージェネレーションシステムに活用することで、燃料燃焼に伴CO₂の排出抑制に役立てています。更に、証書の活用によりキリンビール神戸工場の石油燃料由来の熱消費量に相当する「グリーン熱証書」、シャトー・メルシャンの全電力使用量に相当する「グリーン電力証書」を購入し、約8000トン規模のCO₂排出量の削減に繋げています。

ソニーグループ

事業所からの排出量は少ないにも関わらずScope3の排出量が多いため、Scope1とScope2の対象となる自社のオペレーションにおける環境負荷低減には引き続き取り組みつつ、現在はScope3の対象に比重を置いた取り組みを始めています。

同社の製造するゲーム機については機能を向上させつつ、小型化・軽量化を図り省資源化に繋げています。また、ソニー・ピクチャーズエンターテインメント(SPE)では、映画キャラクターを通じた環境啓発活動を行っており、国連などと共同でSDGsについて学ぶ「スマーフ」によるキャンペーンを実施しています。

更に同社では再生可能エネルギーの導入を進めており、欧州の事業所では再エネ調達100%を達成しています。SPE本社では屋上に太陽光発電設備を設置して約219MWhの電力を賄っています。しかし、国内での再エネ調達は供給量が少なく高コストなため、電力会社や自治体に再生可能エネルギーによる発電量を働きかけつつ、グリーンエネルギー証書などの制度も活用しています。

SBT参加企業

2019年9月現在、世界で46か国から613社が参加しており(コミット含む)、国別認定企業数では日本が50社で世界トップとなっています。認定取得済みの企業は世界的には食料品が、日本では電子機器、建設業が多くなっています。

国内企業事例
企業名 Scope 基準年 目標年 単位 概要
イオン 1+2 2010年 2030年 総量 排出量を35%削減
3 - 2021年 - 購入した製品・サービスからの排出量80%に相当するサプライヤーにSBT目標を設定
花王 1+2+3 2017年 2030年 総量 排出量を22%削減、スコープ3の目標は、購入した製品・サービス、上流輸送、廃棄をカバー
住友林業 1+2 2017年 2030年 総量 排出量を21%削減
3 2017年 2030年 総量 購入した製品・サービスと販売した製品の仕様からの排出量を16%削減
積水ハウス 1+2 2013年 2030年 総量 排出量を35%削減
3 2013年 2030年 総量 販売した製品の使用による排出量を45%削減
ソニー 1+2 2000年 2020年 総量 事業活動の排出量を42%削減
1+2+3 2008年 2050年 総量 2050年環境フットプリントゼロに向け、90%削減
第一三共 1+2 2015年 2030年 総量 事業活動の排出量を27%削減
3 - 2020年 - 主要サプライヤーの90%に削減目標を設置
大成建設 1+2 2013年 2030年 総量 排出量を26%削減
3 2013年 2030年 総量 販売した製品の使用による排出量を25%削減
大日本印刷 1+2 2015年 2030年 総量 排出量を25%削減
3 - 2025年 - 購入金額の90%に相当する主要サプライヤーにSBT目標を設定
電通 1+2 2014年 2030年 総量 排出量を24%削減
3 2015年 2050年 原単位 1人あたりの出張に係る排出量を25%削減
日本電気 1+2 2017年 2030年 総量 排出量を33%削減
3 2017年 2030年 総量 販売した製品の使用による排出量を34%削減
日本郵船 1 2015年 2030年 原単位 トンキロあたりの排出量を30%削減
1 2015年 2050年 原単位 トンキロあたりの排出量を50%削減
パナソニック 1+2 2013年 2030年 総量 排出量を30%削減
1+2 - 2050年 総量 排出量をゼロ
3 2013年 2030年 総量 販売した製品の使用による排出量を30%削減
富士通 1+2 2013年 2030年 総量 排出量を33%削減
1+2 2013年 2050年 総量 排出量を80%削減
3 2013年 2030年 総量 排出量を30%削減
三菱地所 1+2+3 2017年 2030年 総量 排出量を35%削減
1+2+3 2017年 2050年 総量 排出量を87%削減
ヤマハ 1+2 2017年 2030年 総量 排出量を32%削減
3 2017年 2030年 総量 排出量を30%削減
LIXILグループ 1+2 2015年 2030年 総量 排出量を30%削減
3 2015年 2030年 総量 販売した製品の使用による排出量を15%削減
リコー 1+2 2015年 2030年 総量 排出量を30%削減
1+2 - 2050年 総量 ネット排出量をゼロ
3 2015年 2030年 総量 販売した製品の使用による排出量を18%削減

SBTとRE100

SBTに似たイニシアティブとしたRE100があります。RE100とは事業にかかる電力を100%再生エネルギーで賄うことを目標とする企業連合であり、2014年に結成されました。RE100に取り組むことは、化石燃料によるリスク回避や気候変動の防止、コスト削減などに繋がり、SBTはGHGの観点から、RE100は主に電力の観点からアプローチするイニシアティブとなります。

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