エネルギーデジタル化の最前線 第12回

2022年10月15日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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「ガスの見守り」から「家全体の見守り」へ。生活周りのプラットフォーム 事業を積極的に展開する東京ガスの取り組みを前編、後編の2回にわたって紹介する。

執筆者:一般社団法人エネルギー情報センター
理事 江田健二

富山県砺波市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社・大手化学メーカ等のプロジェクトに参画。その後、RAUL株式会社を起業。主に環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動支援を実施。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人CSRコミュニケーション協会理事、環境省 地域再省蓄エネサービスイノベーション委員会委員等を歴任。

記事出典:書籍『IoT・AI・データを活用した先進事例8社のビジネスモデルを公開 エネルギーデジタル化の最前線2020』(2019年)

東京ガスの事例概要

東京ガス(東京都港区)は2016年4月に家庭向け電力小売事業に参入した。電力自由化後の家庭などの契約件数は250万件を超えている。

電気、ガスに続く3本目の柱としてサービス事業を位置づける。ずっとも安心サービスの名称の元、生活まわり駆けつけサービスやガス会社ならではのサービスであるガス機器スペシャルサポート等を軸にサービスの拡充を進めている。

その中で「くらし見守りサービス」は、ガスの消し忘れ防止や遠隔遮断機能を備え、34万件の登録がる。2019年からは「家の見守り」や「家族の見守り」へと範囲を拡大し、IoTセンサーを活用した鍵の閉め忘れ防止や家族の帰宅確認など、生活における3つの心配事を解消する。東京ガスの強みはガス機器の設置や保守などで培われた顧客との対面を通じたつながりだ。

今後は家庭に届ける新しい価値として居住者が元気になるサービスに注目し展開していく。

3本の柱での経営計画

1100万件を超える顧客を持つ日本最大の都市ガス事業者である東京ガスは、2016年4月の電力小売り全面自由化のタイミングで家庭への電力販売事業に参入した。133年にわたる都市ガス事業を通じたノウハウを活かし、顧客の使用実態に即したガスと電気を組み合わせた最適な提案は広く支持され、既に約165万件(2019年1月時点)の電気契約を獲得している。

電力とガスと、2大エネルギーが主力事業となった同社は、2017年10月に2018年~2020年度の経営計画として「GPS2020」を発表した。GはGas(ガス)、PはPower(電力)、SはService(サービス)を指しており、これにGlobal(世界)も加えた計画となっている。サービス事業については、ガス、電気に続く第3の柱と位置づけ、エネルギーに加え、お客さまの暮らしのニーズに合ったサービスを組み合わせ提供する方針だという。

「サービス事業をハード向けとソフト向けの2つに分け、ハード向けでは、ガス機器・電気機器・住宅設備などの工事・メンテナンスの最適な提案を進めている。ソフト向けは、2016年頃からお客さまにとっての東京ガスに対するイメージである「安心・安全」をコンセプトに拡充してきた。」と東京ガス株式会社 暮らしサービス事業推進部サービス事業企画グループマネージャーの岩田哲哉氏は語る。

安心・安全を提供

ソフト向けサービスとして、暮らしに寄り添い見守り続けることをコンセプトに、2017年4月から「くらし見守りサービス」を開始した。これはガスのスマートメーターが持つ通信機能を活用し、東京ガスの監視センターが24時間365日、契約者のガス利用状況を監視するというもの。

サービス契約者は、①外出中のガスの消し忘れ確認と遠隔遮断、②消し忘れ時の監視センターからの連絡、③ガス使用量から確認する、離れて暮らす家族の見守り、という3つの「見守り」が受けられる。初期費用はなく、月額500円(税込)で気軽に始められる点が大きなメリットだ。

「ガスの見守りサービスは、保険的な位置づけで安心・安全を提供する。以前から提供していたサービスと統合することで、約34万件のお客さまに利用いただいている。現在もご高齢者を中心に訪問し、対面でご案内することで契約件数は年間約3万件ずつ順調に増加している。」と同社ステーション24所長の藤原純氏は語る。

「ガスの見守り」から「家全体の見守り」へ

2019年2月から「くらし見守りサービス」は、ガスの見守りに加え、家全体および家族の安心・安全を見守るサービスへと拡張する。具体的には、生活の中での3つの心配事の解消を提案している。

1つ目は「カギしめ確認」。外出後、カギをしめ忘れていると自動的にスマートフォンにお知らせしてくれる。2つ目は「開け閉め確認」。外出時や就寝時の玄関や窓の戸締りをスマートフォンで確認できる。警戒モードをセットすれば、センサーを取り付けた玄関や窓の開閉があった場合にも知らせてくれる。3つ目は「おかえり確認」で、あらかじめセンサーを持った家族が帰宅するとスマートフォンに通知が届く。どこからでも子供や親の帰宅などが確認できる安心感を提供する。

各種センサーとIoT技術を活用したプラットフォームを構築し、見守る範囲をガスから契約者の自宅全体やその家族に拡充している。

ストック型のビジネスモデルを展開

この新しい「くらし見守りサービス」は、契約開始時に各種センサーを購入する必要はあるが、初期の契約事務手数料が3,000円(税込)、月額料金は980円(税込)で利用できる。

例えば、玄関のカギしめや開け閉めを確認できるプランでは、カギしめ確認センサー1台、開け閉め確認センサー1台、契約事務手数料で、18,000円(税込)となる。IoTサービスは専用機器を販売した時点で顧客との接点が解消してしまうことが多く、一般的に収益化が難しいとされる中、同社の場合は月額料金収入により安定した収益が見込めるストックビジネスと考えている。

「IoTを活用した家の見守りサービスはまだ市場が確立されているわけではなく、市場を掘り起こすことから始める必要がある。日常に潜む潜在的な心配事をお客さまに気づいていただき、当社が提供するサービスに共感していただくことが必要となる。売り方は試行錯誤が必要だが、当面はこれまでどおりお客さまとの対面による販売をメインにし、ニーズを掘り起こしながらサービス内容を充実させたい。」と岩田氏は語る。

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