エネルギーデジタル化の最前線 第11回

2022年09月13日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

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エネルギーデータを活用した先進的な取り組みをしている企業の2社目はネコリコだ。「家と話すように暮らす」をコンセプトに事業者向けプラットフォームを提供。インターフェースにLINEを採用し、他社にない使いやすさを実現している。

執筆者:一般社団法人エネルギー情報センター
理事 江田健二

富山県砺波市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社・大手化学メーカ等のプロジェクトに参画。その後、RAUL株式会社を起業。主に環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動支援を実施。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人CSRコミュニケーション協会理事、環境省 地域再省蓄エネサービスイノベーション委員会委員等を歴任。

記事出典:書籍『IoT・AI・データを活用した先進事例8社のビジネスモデルを公開 エネルギーデジタル化の最前線2020』(2019年)

家と会話しながら快適な環境を

ネコリコ(東京都千代田区)は2018年に設立。中部電力とインターネットイニシアティブ(IIJ)が共同出資して設立した合同会社だ。同社は「家と話すように暮らす」をコンセプトに掲げ、2018年9月からBtoBtoCの事業形態で事業を開始した。

同社が提供する「necolico HOME+」の特徴は、温度や湿度など生活環境に関するデータをもとに最適な生活環境を考察して、利用者へのLINEメッセージにより暮らしをより良くする点にある。インターフェースにLINEを用いることで、家と会話しながら快適な環境を享受できる。

今後は蓄電池制御を含めたエネルギーマネジメントも視野に入れる。同社はBtoBtoCの事業形態が基本であるため、パートナー事業者との連携強化を重視しており、パートナー事業者の付加価値向上に資するニーズを積極的に吸収する方針だ。

中部電力とインターネットイニシアティブ(IIJ)が共同出資

ネコリコは、中部電力とインターネットイニシアティブ(IIJ)が共同出資して設立した合同会社だ。中部電力は、2018年3月に公表した経営ビジョンにおいて、「変わらぬ使命の完遂」として、本業である電気事業をより強固にすると共に社会構造の変化を踏まえた「新たな価値の創造」を念頭に、IoT事業など従来にない事業領域への拡大を進める方針を示していた。

IoTに必要な要素技術を有するIIJは、IoT関連の事業領域を業務から家庭用途へ拡大する方針を検討していた。これまで両社ではIoT実証事業などで協力関係があったこともあり、2018年4月にネコリコの設立に至った。

「家と話すにように暮らす」がコンセプト

インターフェースにはLINEを採用。ネコリコは、「家と話すように暮らす」をコンセプトに掲げ、2018年9月からBtoBtoCの事業形態で事業を開始した。

具体的には、室内に設置したセンサーが、温度や湿度など生活環境に関するデータから最適な生活環境を考察して利用者にリコメンドする、つまり「家が話しかけてくる」サービスを展開している。類似のサービスは他社にも見られるが、最大の違いはインターフェースにLINE(ライン)を採用していることだ。スマートフォンのLINEアプリを使って、さながら家と会話をしながら、家電の制御や家の状況を把握することができる。

たとえば、外部のデータとも連携しており、インフルエンザ警報の出ている地域で室内の空気が乾燥している場合には、LINEを通じて「リビングがインフルエンザにかかりやすい環境になっています。加湿器をONにしましょうか」というメッセージを送ってきてくれる。
これに対してトーク画面上で利用者が「オーケーありがとう、加湿器をONにして」などと回答すると赤外線リモコンで動作する加湿器であれば、スイッチが入る。専用アプリと比べると実現に制約が生じる機能もあるが、利用者は外出先からでもLINEを使って宅内データの確認や家電の操作が可能だ。

こうしたインターフェースについて、通常では、まず利用者が専用のアプリを立ち上げ、利用者が主体となって操作をする。ネコリコのコンセプトはその反対。家(necolico HOME+)がリコメンドを出し、利用者が応える。LINEを介することで「家と会話する」というシーンを日常に溶けこまる世界観を作ることができる。

見守りなど、生活に関する基本サービスもラインナップ

「necolico HOME+」での対応機器は、2018年12月時点で、IoTゲートウェイ、室内環境センサー(USB型、据置型)、赤外線暗視対応USBカメラ、ドアや窓の動きを感知するモーションセンサー、家電を制御する赤外線リモコンの6点だ。

IoTゲートウェイと赤外線リモコンの接続はクラウド経由となっているが、LINEからエアコンをONに操作した場合には、一旦ネコリコのクラウドを経由し、赤外線リモコンから電源をONにする仕組みだ。これは今後多くの家電がインターネットに接続することを想定し、クラウド経由で柔軟に連携できるためだ。

赤外線リモコンはAmazon EchoやGoogle HomeなどAIスピーカーとも接続し、AIスピーカーから直接操作することができる。「necolico HOME+」が提供するモーションセンサーを活用するとドアの動きを検知できるため、例えばトイレのドアが朝から開閉していないといった、室内の異常検知に用いることができる。

あるいは、室内環境センサーを使って、室温30度以上が続いている状況を検知することも可能だ。またスマートメーターからも情報を取得することができるため、データを組み合わせることで、より確実に状況を把握することができる。

また、季節に応じたエアコンの仕様など、おおむね定常的な利用者のアクションが想定されるものは、「今後自動化しますか?」といったLINEメッセージを介して、利用者に自動化を選択してもらう機能を検討中だ。

事業モデルはBtoBtoC。幅広いパートナリングを通じてニーズを開拓

「necolico HOME+」の事業モデルは、BtoBtoCだ。ネコリコは、中間のBに該当するパートナー事業者に対してデバイスの種類や機能の選定やブランディングを支援し、パートナー事業者が利用者にサービスを提供するモデルだ。パートナー事業者は、ネコリコを自社オリジナルのサービスとしてカスタマイズすることができる。もちろん、サービス内容のカスタマイズと並行して、販売やメンテナンス体制の構築をサポートする。着手からサービス開始までに最短2か月半というフットワークの良さも強みだ。

ネコリコが描く世界の実現に向けてこのパートナー事業者との連携強化は不可欠である。エネルギー事業者以外の領域についてネコリコ職務執行者の佐々木氏は、「ホームIoTはまだまだ黎明期で赤外線リモコンがようやく音声操作などが可能となり一般の認知が向上してきている段階。デバイスも限られているため差別化は難しい。このためパートナー事業者の既存のサービスと組み合わせお客さまの利便性向上に寄与することが必要」と言う。

また、不動産業界ではホームIoTを組み込むことで物件価値を上げる動きも出てきている。佐々木氏は、「BtoBtoCの事業形態であるため、我々のお客さまは最終の利用者だけではなく、パートナーとなる事業者もお客さまである。パートナー事業者の価値向上に貢献する視点も重要」と語る。

ネコリコのサービス提供エリアは中部電力の電力供給エリアと関係がない。パートナー事業者が全国を対象にサービスを展開するならば、全国で利用することが可能ということになる。パートナリングの展望について、佐々木氏は、「現在の我々のラインナップはベーシックなホームIoTだが、利用者や事業者のニーズは、別のところにあるかもしれない。今は様々なパートナーと連携し、ニーズを吸収しサービスを増やしていくフェーズだ。」と述べる。

蓄電池制御を含めたエネルギーマネジメント機能も強化

2019年以降にFIT契約が終了する住宅は50万世帯以上と見込まれている。太陽光発電からの余剰分の受け入れ先として、また、今後さらに分散化が進む系統の調整用として、蓄電池は間違いなく用途が見込まれる。もちろんネコリコもこうした状況を見据えている。

「我々のIoTゲートウェイはスマートメーターBルートにアクセスする機能がある、FIT切れを見据え、蓄電池やエコキュートなどにもアクセス・制御できるよう対応する」佐々木氏)と目線を定め、さらにその先の蓄電池の用途も構想する。

「現在は複数社に売買することは法的に難しいが、将来的には、時間帯や事業者毎の買取価格に応じて、どの事業者に売れば最も経済的なのか、あるいは蓄電するほうが良いのかを自動的に判断できるようにしたい。これにはお客さまの家電の使い方も重要な要素となるので、エネルギーマネジメント+ホームIoTで、快適で経済的な暮らしをサポートしていきたい。」と展望する。

今後の展望

普及までの課題の1つは、センサー類や蓄電池といったハードウェアの価格だ。たとえば見守りサービスについては、「本当に必要とする利用者であれば出費できる範囲だが、一人暮らしのご高齢者の家庭を全て対象として自治体などが設置する場合を考えるとまだまだ高額の印象がある。」と佐々木氏は語る。

こうした課題があるとはいえ、「この業界が黎明期であることを追い風に、先入観を捨て、多様なパートナーを増やしていくことが大切だと考える。パートナーからホームIoT以外の視点をもらいつつ、市場全体を盛り上げていきたい。」と語る。

LINEを使ったインターフェースも、あくまでも通過点だという。「究極的な姿をいえば、ユーザーインタフェースはない方が理想。利用者が何もしなくても家が様々な情報をもとに考え、快適で経済的な環境を提供してくれるシステムが理想。その一歩手前がLINEを使ったサービス。」と位置づけ、より顧客視点での使いやすい形を模索している。

佐々木氏がイメージする世界観が具体化するのは、10年後か、15年後かと尋ねたところ、「もっと早いのではないか。」という答えが返ってきた。法的な課題はあるが、技術的にはほぼ実現できる目途は立っているという。「蓄電池は価格がまだ高いが、値段が下がってくれば、遠くない将来に実現すると考えている。ホームIoTの視点で行くと、今後あらゆる家電がネットにつながる時代が来る。我々がまったく想定していない使い方が出てくると思うので、そうした用途を見落とさないようにしたい。」と、たのもしい展望を示した。

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