エネルギーデジタル化の最前線 第2回

2021年12月15日

一般社団法人エネルギー情報センター

新電力ネット運営事務局

エネルギーデジタル化の最前線 第2回の写真

あらゆるところに埋め込まれたセンサーによって情報のデジタル化がこれまで以上に進む社会は、もう1つの現実世界を創りだそうとしています。第2回目は、この変化を自社のビジネスに活かしていくために、情報が持つ3つの経済特性についてお伝えしていきます。

執筆者:一般社団法人エネルギー情報センター
理事 江田健二

富山県砺波市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社・大手化学メーカ等のプロジェクトに参画。その後、RAUL株式会社を起業。主に環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動支援を実施。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人CSRコミュニケーション協会理事、環境省 地域再省蓄エネサービスイノベーション委員会委員等を歴任。

記事出典:書籍『IoT・AI・データを活用した先進事例8社のビジネスモデルを公開 エネルギーデジタル化の最前線2020』(2019年)

デジタルツイン ― 予測の時代へ

最近のビジネスキーワードのひとつ「デジタルツイン」。「ツイン」とは「双子」の意味だ。その為、「デジタルな双子」と訳されることが多い。「デジタルツイン」とは、センサーやIoT機器、カメラなどで現実世界の情報を大量に収集し、現実世界と同じ状況をインターネット空間に再現することを指す造語だ。

再現されたインターネット空間で様々なシミュレーションを行うことができる。そこから得られた結果を参考に現実世界のビジネスや生活に
役立てていく。例えば、ある新製品を設計する場合、将来起こりうる故障は気がかりだ。「デジタルツイン」の環境で、使い続けて数年後に起こりやすい故障を予測し、事前に設計に反映することができる。別の例では、街の交通情報や天候情報から週末の渋滞エリアを予測し、3パターンの対応方法の中でどれが一番有効であるかをパソコン画面で事前に検討できる。

これまでであれば、「起こってからしかわからなかった事」が事前に予測でき、対策がとれる。

ハリウッドの大スターであるトム・クルーズが主演し、2002年に放映され大ヒットした映画「マイノリティレポート」。何度かテレビで再放送されているので、ご覧になられた方も多いだろう。映画では、2054年の世界が描かれている。自動運転の車、完全オートメーションの工場、瞳でのドアの開閉認証、人を乗せて空を飛ぶドローンなどのシーンが印象的だ。主人公は、犯罪予防局に勤務している。犯罪を未然に防ぐための組織だ。

様々なテクノロジーによって、未来に発生する殺人犯罪が予測され、犯行の発生前に犯罪予備群(犯罪を起こす予定だった人)を逮捕するのがミッションだ。私たちが迎える未来は、この映画に似ていく。人々は、「再現された世界」の未来の出来事を信用し、「現実世界」を変えていく。いつのまにか「現実世界」よりもインターネット上に「再現された世界」の方を重要視するようになる。「現実世界」で起こった結果から情報を集めて人が何か判断するだけでなく、「再現された世界」から機械が常に人の行動を予測し先周りする時代になる。私たちは、好むとも好まざるとも将来が予測される「予測の時代」を生きることになる。

情報が持つ3つの経済特性

情報の担い手に機械が加わり、質と量が変わるということは、もちろんビジネスにも大きな影響をもたらす。ビジネスモデルを変えるほどのインパクトがある。この変化に目を背けず、むしろチャンスと捉え、自社のビジネスに活かしていくことが大切だ。すでに、いち早くこの変化の兆しに気づいた企業は、これまで分散されていたIT部や事業開発部等の部署を統合し、デジタルを中心に据えた事業部を立ち上げ始めている。今まさに、デジタルを起点に全産業でビジネスモデルが再構築されるようなタイミングといえるだろう。

ビジネスチャンスを見定めていくには、まず「情報」についての理解を深める必要がある。そもそも情報は、「どのような特性があるのか?」「ビジネス面で活用していくにはどこに注意を払う必要があるのだろか?」

ここで、モノやサービスとは異なる「情報固有の特性」について確認してみよう。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏が1970年代に発表した著書「情報の経済論」、カール・シュピロ、ハル・ヴァリアンの両氏が1990年代後半に執筆した「情報経済の鉄則」がとても参考になる。野口氏は、インターネットやブロックチェーンのビジネス領域での可能性をいち早く予測した経済学者だ。1970年というパソコンもインターネットも存在しない時代に「情報の経済価値」について深く考察し、書籍にまとめている。

情報の特性として次の3つを紹介する。

①限界費用ゼロ(コストをかけずにいくらでも複製が可能)

情報の特性として、まず挙げられるのは、無尽蔵に「複製が可能」という点だ。例えば、行列ができるほど美味いラーメンの、秘伝のレシピの考案者がいたとしよう。彼は、ラーメン屋を開業したいAさんに対価をもらってレシピを教えた後に、複製した情報を使ってBさん、Cさん、Dさんからも同じように対価をもらいレシピを教えることができる。これに対して、モノやサービスは提供すると同時に消費される。もう一度、他の人に同じモノやサービスを提供する場合は、製造したりサービス提供に時間を使ったりしなくてはいけない。秘伝のレシピの完成までは、時間と労力が必要だが、一度出来上がった価値ある情報の複製は容易だ。複製にかかる費用は限りなくゼロに近い。

②不可逆性(一度伝えた情報は、忘れてもらうことが難しい)

2つ目の特性として、情報は、一度相手に提供すると以前の状況に戻すことができない「不可逆性」があげられる。先ほどの例でいえば、一度教えた秘伝のレシピを「忘れてください!」といっても難しい。洋服や自動車などのモノであれば返してもらえるし、散髪などのサービスであれば、いずれ髪がのびるので来店してくれる。しかし、情報は相手が記憶してしまうとドラえもんのタイムマシンでも使わない限りは、提供する前の状態に戻すことは非常に難しい。

③高い柔軟性(多様な商品設計が可能)

3つ目の特性は、情報の「高い柔軟性」だ。情報は、活用時にあらゆる形への変換が可能だ。先ほどのラーメンの例でいえば、秘伝のレシピは、レシピをAさん、Bさん、Cさんに販売することで、レシピ情報収益を何度も上げられる。レシピの提供の仕方も全部を提供することも一部を提供することもできる。それ以外にもレシピをベースに自らラーメン屋を開いてお金を稼ぐこともできるし、コンビニとコラボ商品をつくることも可能だ。情報の高い柔軟性を活用して、複数の形でのビジネスを行うことができる。

レシピを販売するか、ラーメン店を自ら開店するのか、はたまた両方をするかは、状況次第だが、情報自体の管理がとても大切になってくる。同じ情報を複数の人がもっている場合と自分ひとりで独占している場合では、そこから得られる経済的メリットが大きく変わる。ラーメンのレシピという情報を、自分だけのものにしておくか、たくさんの人に知らせるかによって、ラーメン屋の繁盛ぶりは変わる。柔軟性を考慮し最適な商品設計をすれば、非常に高い粗利率を出し続けることができる。

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