電気事業法
背景
電気事業法は、創業期(明治10年代)から現行体制発足(昭和26年)までの70年間あまりの間に、事業体制と市場構造が多様に変遷してきました。その中で過当競争によるサービスの低下、供給責任の曖昧さによる惰性的な電力不足等を経験し、現行体制発足(昭和26年)にあたっては、発送配電一貫経営の民間会社が自主性と責任をもって、各地域における安定供給を担う体制が採用されました。
9電力体制発足以来、戦後成長を「安定供給」で下支えた電気事業は、増え続ける需要に安定して電気を供給していくため、供給設備の構築と電源の多様化に力を傾注してきました。
1970年代以降、欧米諸国においてはレーガノミクス、サッチャーリズムなども行政改革、規制緩和による経済活性化に向けた動きが潮流なりました。1980年代以降は、電力民営化、規制緩和論議も活性化してきました。
わが国においても、昭和50年代後半、経済の安定成長への移行、行・財政運営の改善などの課題が顕在化しました。平成5年11月に、総合エネルギー調査会 基本政策小委員会報告により電力供給体制の柔軟化の方向が提示されました。平成6年~平成7年には、電気事業審査議会需給部会 基本問題検討小委員会/保安問題検討小委員会により平成7年12月に約31年ぶりの電気事業法の改正が施行されました。
電力会社などの電気事業の適正・合理的な運営に関する規定を定めることにより電気使用者の利益保護を図るとともに、電気工作物の保全確保による公共の安全確保、環境保全を目的として制定された法律です。
電気工作物の保全に関しては、設置者の自己責任原則に基づく自主保全を原則としており、「一般用電気工作」と「事業用電気工作」に区別することができます。また、下図のように電気事業法の規定では、設置者の自主保全に関する事項、国による自主保全の保安事項及び国が直接的に関与する事項に区別することができます。
電気事業法における事業用電気工作物の保安規制 出典:日本電気技術者協会
これらの保安確保の体制を確保するために重要となってくるものが、技術基準です。電気事業法では、事業用電気工作物を設置する者は、その工作物を技術基準に適合するよう維持しなければならないと定めており(法第39条 事業用電気工作物の維持)、技術基準違反であれば、国は事業用電気工作物の処理、改造、使用の一時停止などの命令ができます。(第40条 技術基準適合命令)電気事業法が適用される電気工作物は、次のように定義されています。
①発電のために設置する機械、器具、ダム、水路、貯水池、電線路、その他
②変電、送電,配電のために設置する機械、電線路、その他
③電気使用のために設置する機械、器具、電線路,その他
これらの電気工作物の保全を確保するために7つの技術基準が定められています。
①電気設備に関する技術基準を定める省令
②発電用水力設備に関する技術基準を定める省令
③発電用火力設備に関する技術基準を定める省令
④発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令
⑤発電用風力設備に関する技術基準を定める省令
⑥発電用核燃料物質に関する技術基準を定める省令
⑦電気工作物の溶接に関する技術基準を定める省令
技術基準について
技術基準は、電気工作物の設置者は遵守しなければいけない強制基準であり、技術基準の適合命令など、行政行為のよりどころとなる基準でもあります。しかし、設備が達成すべき性能や目標が明確に規定された基準ではなく、定性的に規定した基準であるため、具体的ではありません。
典型的な例として電気設備に関する技術基準を定める省令第4条が挙げられます。「電気設備は、感電、火災その他人体に危害を及ぼし、又は物件に損害を与えるおそれがないように施設しなければならない。」このように、技術基準を明確にしていないため、電気設備が技術基準に適合しているという技術的根拠を常に明確にする必要があると言えます。
言い換えれば、この規定を満たしていると判断される技術的根拠を有すれば、どういった設備であっても構わないという柔軟性を持った言い方をすることもできます。
こういった内容の技術基準であるため、その要求を満たす具体的な判断基準が必要となります。そこで制定されたのが、「水力、火力、風力及び電気設備の技術基準の解釈」です。
技術基準の解釈について
電気設備の技術基準の解釈には、次の前文が記載されています。
この電気設備の技術基準の解釈は,当該設備に関する技術基準を定める省令に定める技術的要件を満たすべき技術的内容をできる限り具体的に示したものである。なお,当該省令に定める技術的要件を満たすべき技術的内容は,この解釈に限定されるものではなく,当該省令に照らして十分な保安水準の確保が達成できる技術的根拠があれば当該省令に適合するものと判断するものである。(水力,火力及び風力の技術基準の解釈にも同様に記載。)
このように、技術基準の解釈は十分な技術的根拠があれば、技術基準気に適合しているものとして施工が可能であることを意味します。
技術基準の解釈の意義
具体的な規定ではあるが、省令という位置づけではないため、柔軟な運用が可能となっています。その特徴として、次の事項が挙げられます。
- 技術基準とは異なり、行政庁の所管部署において改正が可能であるため、迅速な改正が可能である。
- 国際規格、民間規格など、他の規格の引用が可能である。
行政手続法の審査基準と技術基準の解釈の関係技術基準の解釈は、行政手続法とそれに基づく電気事業法の審査基準と密接なかかわりを持っています。
行政手続法
行政手続法は、行政における許認可等の行政行為を行う際の透明性、迅速性などを義 務付けた法律で、以下の事項に関し、行政庁又は行政機関が経るべき手続き等を定めています。(申請に対する処分、不利益処分、行政指導、処分等の求め、届出、意見 公募手続き)
電気事業法の審査基準
「電気事業法に基づく経済産業大臣の処分に係わる審査基準等について」という名称で、行政手続法に基づく審査の基準、処分の基準、標準審査期間を定めています。これらの条文に基づき行政処分を行うことができます。
- 第40条(事業用電気工作物への技術基準適合命令に関する規定)
- 第48条(事業用電気工作物の設置・変更の届け出に関する工事計画の変更命令などに関する規定)
- 第56条(一般用電気工作物への技術適合命令に関する規定)
審査基準等と技術基準の解釈
技術基準の解釈は、技術基準の技術適要求を満たす具体的な要因の一例として提示されていますが、電気事業法においては、不利益処分を行う際の行政庁の判断の基準という位置づけを有しています。つまり、技術基準に適合するものとして審査基準等の中で指定されているという関係になります。