UNEP

①UNEP(国際環境計画)の概要

1972年6月5日から16日までスウェーデンのストックホルムにて開催された「国連人間環境会議」。同会議にて採択された、「人間環境宣言」と「環境国際行動計画」を実施に移すための国際的な機関として、同年の国連総会決議に基づき設立されました。

本部はケニアの首ナイロビに置かれ、国際諸機関の環境に関する活動を総合的に調整管理し、国際協力を促進していくことを任務としています。

②背景

事の発端は「国連人間環境会議」の開催国であるスウェーデンにて、地球問題の一つである「酸性雨」がスウェーデン国内にて問題視されたことから始まります。同国は1940年代から淡水の酸性度のモニタリングを開始し、その結果から、1960年代にかけて酸性度が急激に上昇し、魚類や湖水に悪影響を及ぼしていることを確認。また、酸性雨の原因の多くがイギリスや中央ヨーロッパ産業による排出によるもので、スウェーデン国内が主な原因ではないことを確認しました。

ここから、スウェーデンやノルウェーなどの持続的なキャンペーン活動により、「酸性雨」が国際的な課題として取り上げられるようになり、「国連人間環境会議」にて、「大気中及び降水中の硫黄による環境への影響」として、酸性雨の実情を報告しました。ここから「酸性雨」に対する世界的関心を呼び起こしたと言われています。

③似ている概念と対比

「UNCED:環境と開発に関する国際連合会議」

1992年6月3日から6月14日の間でブラジルのリオ・デ・ジャネイロにて開催された、環境と開発をテーマとする国際会議の事です。一般的に「地球サミット」と称されることが多く、世界172か国の首脳らが参加し、持続可能な開発に向けた国際的協力について話し合われました。この国際協力関係についての構築を目的とした「環境と開発に関するリオデジャネイロ宣言」(通称:リオ宣言)と、その行動計画である「アジェンダ21」や「森林原則声明」が本会議で合意されました。

「WSSD:持続可能な開発に関する世界首脳会議」

2002年8月26日から9月4日まで南アフリカ共和国のヨハネスブルグで国際連合により開催された、各国の地球環境問題に対する取り組みを評価する会議のことです。ほぼすべての国際連合加盟国やNGOが参加し、「持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」、UNCEDより、より具体的な「実施計画」が採択されました。

④発端となる「人間環境宣言」と「環境国際行動計画」について

「人間環境宣言」についての概略

自然的・人為的に創造された環境を、人間の福祉・基本的人権・生存権を享受するのに重要であると定めました。

  1. 人口の害が増大することで、資源の破壊と枯渇、及び生活環境や労働環境における人間の肉体的・精神的・社会的健康に害を与えるため、政府は人間環境を保護し、改善させる義務がること。
  2. 開発途上国では、環境問題の大部分が低開発から生じ、開発の優先順位と環境の保全・改善の必要性を念頭に置き、環境問題へ配慮を行いつつ開発をしなければならないこと。
  3. 先進工業国は、工業化及び技術開発により環境問題が生じていることを理解し、開発発展途上国との格差を縮めるように努力しなければならないこと。
  4. 人口の自然増加が環境の保全に対し問題を提起しているため、科学技術の発達や労働の努力を通じて、人間環境を改善していかなければならないこと。
  5. 環境への影響に一層の思慮深い注意を払い、十分な知識と賢明な行動をもって、平和と世界的な経済社会発展の目標と並行して、環境と調和した人間環境へと向上させることを目標とした。
  6. 環境上の目標を達成するためには、個人から世界にかけて責任を持ち、分担することが、目標であり、地方自治体及び国の政府はその管轄の範囲内で大規模な環境政策とその実施に関して最大の責任を負うこと。
  7. 国連人間環境会議は、各国政府と国民に対し、人類とその子孫のため、人間環境保全と改善をめざし、共通の努力をすることを要請すること。

上記内容を宣言として、明記しています。

「環境国際行動計画」についての概略

「環境国際行動計画」は、国際的な行動を必要とする環境問題が何か、を網羅的に特定するものでした。「環境クオリティを維持するための住環境の計画と管理」「天然資源管理の環境的側面への配慮」「重大な越境汚染の特定と管理」「環境問題に関する教育,情報,社会,文化の各側面の開拓と強化」「発展と環境への配慮と融合」、5つの主な分野の中に、106個の優先課題が定められました。(企業環境法ハンドブログより 2012/11/20付)

⑤活動内容と実績

UNEPは、環境分野を対象に、国連活動・国際協力活動を行い、地球環境のモニタリングとその結果の公表、環境関係条約の作成準備や、環境上適正な技術に関する情報収集・配布やワークショップの開催や特定地域における環境監視システムの構築など、環境問題の改善の促進やその評価を行っています。

上記活動から、2005年の以下の分野において暫定的な実績額を示します(図1)。

UNEPの各分野における支出額

図1 UNEPの各分野における支出額 出典:UNEP 2005 ANNUAL REPORT

⑥関連した動き

設立以来、オゾン層保護のためのウィーン条約策定はじめ、UNSEDやWSSDにおける会議の基盤となっています。また、日本では1992年に開発途上国への環境技術移転を促進するための機関「IETC:国際環境技術センター」が大阪に設置されました。2007年には、UNEPと「WMO:世界気象機関」によって1988年に設立されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、ノーベル平和賞を受賞しました。

⑦今後の展望・可能性

現在のUNEPの活動は主に4つの分野に広がっています。

活動の一つは、二酸化炭素吸収源として効果的な場所として知られている、「ブルーカーボン生態系」(マングローブ、塩性湿地、海草)が、多くの陸上生態系よりも速いペースで、消失している問題に対してです。UNEPは他の機関と協力関係を持ち、「ブルーカーボン・イニシアティブ」の先頭に立ち、沿岸生態系サービスが沿岸域管理の工場のためのインセンティブを生み出すよう、促進をおこなっています。この活動により、国際社会による気候変動への緩和や、適応を支援することにも繋がるのです。

2つ目の活動として、世界全体の温室効果ガス排出量の10%程の原因(森林の再生による炭素貯留を考慮する。)となる森林の減少と劣化が引き起こされているタンザニアにおいて、地図作成を行っています。現在、タンザニアにおいて「REDD+」が発足し、森林に貯留される炭素に価格を付けることで、森林炭素貯留の保全・回復・持続可能な管理をするために努めており、その活動を進めていくために、タンザニアの炭素貯留・生物多様性の供給・土壌保護といった国内の森林関連の多くの利益について、空間分析とマッピングに協力しました。また、今後の「REDD+」の活動の実施にも協力していくことで、気候変動の緩和に貢献しつつ、1万を超える植物種を含む豊かな生物多様性を有しているタンザニアの森林価値も保護していくことに繋がっていくのです。

3つ目の活動として、野生生物の肉の加工や摂取により、野生生物から人間へエボラが感染することに対して、類人猿のモニタリングや疾病治療を行う活動に協力しています。 1976年に発見されて以来、アフリカの熱帯地域にて20回以上もエボラが人間を襲ってきました。このことに対して「大型類人猿保全計画(GRASP)」は、ウイルスに感染した類人猿の肉を扱う密猟者により、過去8回分のエボラの大流行が引き起こされたことを確認します。ここから、人間疾病伝播の予測のために、類人猿の個体群のモニタリングの基準を制定し、活動を行っています。

最後に、途上国が先進技術を利用するために、「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」の途上締約国には、「技術ニーズ評価(TNAs)」を通して、各国ごとの技術ニーズの評価を行っています。UNEPは36カ国において、気候変動に立ち向かう上で最も必要な技術の特定と、その技術の利用を妨げる市場と貿易の障壁の分析を支援しています。この活動により、各国の技術ニーズを明確に表明し、支援を行うことができ、技術移転をペースアップさせ、その妥当性を強化することに繋がるのです。

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