太陽光発電と海水のみで作物を育てられる農場

執筆者:エネルギー情報センター 主任研究員 森正明

エネルギー情報センター http://eic-jp.org/

本連載は書籍『かんたん解説!! 1時間でわかる 太陽光発電ビジネス入門』(2018年5月発行)より、コラム記事を再構成して掲載しています。

土壌も、殺虫剤も、化石燃料も、地下水も利用しない農場がオーストラリアのPort Augustaで運営されています。この農場は「Sundrop Farm」と呼ばれ、太陽光発電と海水を活用することで、作物を育てるのに必要な環境を整える技術を利用しています。

化石燃料に頼らないので、エネルギー市場価格の影響も受けません。加えて、土壌も利用しないので、天候や干ばつの影響も少ない仕組みとなります。

農地の広さは20ヘクタールに及び、そこでは150人の雇用を生みながら遺伝子組み換えではない作物が生産されています。Colesというオーストラリアのスーパーマーケットチェーンと協力関係にあり、750ものアウトレットに直販しています。そうすることにより、仲介を解さず、低価格を実現しています。

2010年に試験版が初稼働

2010年、南オーストラリア州に試験版として初のSundrop Farmが稼動を開始しました。その地域では、新鮮な水が不足しており、かつ厳しい気候のため、従来の伝統的な農業には適しませんでした。

しかし、そうした環境であっても、海水と太陽光を利用したSundrop Farmの技術が、高品質な農産物を生み出していました。その後、2014年から太陽光を集約して発電するシステム等の着工が開始され、2016年10月に本格稼働を開始しました。

太陽光をミラーで集約して発電

Sundrop Farmが太陽光と海水だけで作物を作る仕組みについて見ていきたいと思います。まず、電力については2万3千枚のミラーから集めた光を115メートルの受信タワーに集約し、それを電気に変換しています。

その発電能力は、晴れた日には39メガワットもの電力を生み出すことが可能としています。電力は海水を脱塩して真水にする淡水化プラントに利用され、ここで作物の育成に必要な水が作られます。淡水化プロセスは、化学的処理を必要とせず、純粋な蒸留である淡水を生産します。

また、太陽熱を活用して温室を温めることが可能です。逆に、温室を冷やしたい場合は、淡水化していない海水が利用されます。この海水には、害虫を近づけない役割もあり、この機能が殺虫剤を利用しない農業の一助となっています。

従来のように土壌が使われておらず、ココナッツの殻を利用した水耕栽培が採用されています。栄養豊富なココナッツの殻により作物の成長を促し、かつ雑草の発生も抑えられます。

農作物を育てるのには水が大量に必要となりますが、それは前述の海水から作った淡水や、ときには屋根に貯まった雨も利用されています。水は複数回にわたり再利用され、廃棄物は最小限に抑えられます。

「Sundrop Farm」には、砂漠の広がっている地域など、気候条件などが厳しく、従来は農業に適していないとされてきた地域でも、さまざまな農作物を栽培できるポテンシャルがあります。実際に、そうした不毛の地域であれば、従来農法の5~30倍の高い収穫を期待できるとしています。

一方で、今回のオーストラリアの農場では初期投資として2億ドルが発生しており、これは従来の方法よりも割高となっています。しかし、再生可能エネルギーを活用しており化石燃料の購入費を削減できるので、長期的な目線でみると経済的にもメリットがあると期待されています。

FAOによると、世界の人口増加に伴い、2050年には2012年水準よりも50%多く食糧・飼料・バイオ燃料を増産する必要があると推計しています。そうした環境において、再生可能エネルギーを活用したクリーンな形で農地が拡大していくことが期待されます。

執筆者:エネルギー情報センター 主任研究員 森正明

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