掌(たなごころ)を空に

発行年月日:2021年4月14日
発行所:エネルギーフォーラム

執筆者:青木ゆうか

掌(たなごころ)を空にの写真

ミステリアスな「現代アート」×「エネルギー」小説。第7回「エネルギーフォーラム小説賞」受賞作です。東日本大震災から10年……原子力について、あまり関心のない大手電力会社の一社員だった主人公の女性が、震災を機に社会の不条理と自身の矛盾という壁にぶつかり、見方を変えてゆく物語となっています。

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青木ゆうか氏

神奈川県横浜市在住。法政大学大学院修了。エネルギー関連企業勤務。本書で第7回エネルギーフォーラム小説賞を受賞。

「エネルギー」と「現代アート」――。ともによく知らない分野だという人が多い。わかりやすいもの、答えが明確なものが好まれる現代において、とっつきにくく、答えがひとつとは限らないこれらを題材とすることで、先行きが見通せないコロナ渦の不確かさへの受容を促すきっかけになるかもしれない。

そんなことを緊急事態宣言の出る少し前に考え、一気に書き上げたのが本作である。わからないのではなく「わかろうとしない」、「関心を寄せない」ことが自身も含めて多くあるということに書きながら気付かされた。

主人公は東京出身、関東圏内で勤務する電力会社の女性、里美。原子力についてはあまり知識や関心のない一社員にすぎなかったが、震災を機に社会の不条理と自身の矛盾という壁にぶつかり、見方を変えてゆく。一方、異国の地で同様に葛藤を抱えた一人の男がいた。そして「エネルギー」と「現代アート」というかけ離れたテーマが交錯し、ある共通の目的で重なり合う。

震災から十年を迎えた福島が現在どのようになっているのか。検索すればすぐほしい答えが出てくる便利な世の中に、誰かの答えではなく、自ら足を運び考え、わからなさに向き合い続けながら納得のいく答えを探すことへの意義を見出すことができるのなら……。そうすれば、もっとエネルギーについての理解が社会に浸透する気がした。

いつだって希望がある。そんな未来を次世代につなぐためにも、小説という入口から少しでも多くの方にエネルギーの過去と将来を見つめる機会としていただけることを願っている。