エネルギーと環境問題の疑問55

発行年月日:2018年6月5日
発行所:成山堂書店

執筆者:刑部真弘

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本書は、エネルギーに関する基礎知識から再生可能エネルギー利用の実状や効率の良い電気の作り方、使い方、また地球温暖化という環境問題とエネルギーとの関わりまで、55の疑問にQ&A式で答える一冊です。

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東京海洋大学

大学院教授 刑部真弘氏

東京商船大学助教授、教授、東京海洋大学副学長を経て現在、同大学院教授。2016年より、一般社団法人ボイラ協会会長も務める。専門はエネルギー工学。再生可能エネルギー利用のスマート構想の普及やブルーカーボンの啓蒙活動に取り組む。

エネルギーや環境に関することで、一般の方々が意外だと思うことは結構多いと思います。一方で、多くの方々が、潤沢にエネルギーを消費した快適な生活を享受しているのも事実です。この40年で日本人の肉摂取量は4倍、家庭の電気使用量は2倍と豊かになりました。

例えば1970年における家庭のエアコンの普及率は7%しかありませんでしたが、2011年には90%に増え、2017年現在も91%程度となっています。この我々が使うエネルギーに伴って排出される二酸化炭素の3分の1ほどを吸収してくれている海は、急速に酸性化し稚魚や珊瑚等の成育への影響が懸念されています。

その点で、二酸化炭素をほぼ出さない再生可能エネルギーが大いに期待されていますが、発電出力が不安定なものが多いのです。そのため、私たちの都合に合わせて使えるようにするには蓄電池が不可欠です。

ただ、蓄電池が高価であるため採算の合わない状態が続いていましたが、最近街でよく見かけるようになってきた電気自動車(EV)の蓄電池をつなげば、再生可能エネルギーをうまく利用できる可能性が急速に高まってきました。

近い将来、自動運転もできる人工知能(AI)搭載の電気自動車(EV)に、例えば明朝9:00までに90%充電しておくように命令しておくと、その間に電気の売買で儲けているかもしれません。再生可能エネルギーが豊富で安い時間帯に充電し、高い時間帯に売って利益を出すのです。

そして指定の9時に出かけようと車に乗ると、命令通りの充電率90%になっている時代が来るでしょう。先日、英国のボイラー関連企業から勤務先の大学に求人がきました。グローバル化した企業は、多国籍の技術者を採用するようになっています。

また、エネルギー改革も、外断熱住宅、太陽光発電や電気自動車を市民が買うことによって進んでいます。社員や市民の力が試される時代になり、ますます教育が大事になりました。エネルギーについての正しい知識が、高度エネルギー社会である現代を生きる人々に必要かつ重要であることは明らかです。エネルギーを使っている人の協力なくしては、次のエネルギー利用社会は成立しないのです。