精神論抜きの地球温暖化対策――パリ協定とその後

発行年月日:2016年10月27日
発行所:エネルギーフォーラム

執筆者:有馬純

精神論抜きの地球温暖化対策――パリ協定とその後の写真

「数値目標やスローガンでは、地球温暖化問題は解決しない。パリ協定の批准が遅れた日本は、いま何を為すべきか?」 本書は、そうした疑問を解決する糸口が随所に散りばめられた一冊です。

著者インタビュー

著者情報

有馬純の顔写真

東京大学公共政策大学院教授

有馬純氏

1959年生まれ。1982年、東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。国際エネルギー機関(IEA)国別審査課長などを経て、2015年8月より東京大学公共政策大学院教授、現職

Q1.本書を書いたきっかけは?

私は、京都議定書の詳細ルールの策定や、ポスト2013年枠組みの交渉に参加しました。そのときの経験を『地球温暖化交渉の真実―武器なき経済戦争』(2015年、中央公論新社)にまとめました。2015年12月のCOP21で「パリ協定」が合意され、地球温暖化防止の国際枠組みは新しいフェーズに入りました。

また、今後は地球温暖化防止のための国内対策に関する議論も活発化するものと思われます。そうしたなかで、パリ協定の概要と課題、今後の国内対策をめぐる論点を提示したいと考え、本書を執筆しました。

Q2.本書で特に伝えたいことは?

パリ協定は、京都議定書と異なり、すべての国が削減努力に参加する枠組みであり、歴史的な意義があります。米中の率先批准により、パリ協定が当初の見通しを大幅に前倒しして11月早々に発効することは慶賀すべきことです。しかし、パリ協定の発効と、パリ協定に盛り込まれた長期目標の達成は別物です。

パリ協定に盛り込まれた1.5~2℃安定化は国際交渉を通じて達成できるものではなく、革新的技術の開発が不可欠です。また、国内対策を考えるに当たっては、エネルギー安全保障や経済成長、地球温暖化防止のバランスをとらなければ長続きしません。日本の中長期の温室効果ガス削減を真面目に考えるのであれば、原発の再稼働のみならず、新増設についてきちんと議論していくことが重要です。

Q3.今後の地球温暖化対策について

まずは26%目標の前提となっているエネルギーミックスの実現に最大限の努力をすること、即ち、原発の再稼働、運転期間の延長を着実に進めることです。エネルギーミックスは、3つのEのバランスに腐心してつくられたものであり、26%目標先にありきではありません。また、長期戦略の成否は、原発の新増設と革新的技術開発が握ることになるでしょう。そうした議論を経ずに数値目標ばかりが先走りするのは京都議定書以来、地球温暖化をめぐる議論を呪縛してきた通弊だと思います。

炭素価格についての議論も今後活発化するでしょうが、国際統一的な炭素価格が存在しない以上、各国における人為的な炭素価格の導入については、国際競争力や経済への影響に十分配慮した検討が必要だと思います。