排出量取引とカーボンクレジットのすべて
発売日:2023年10月17日
出版社:エネルギーフォーラム

排出量取引とカーボンクレジットは、脱炭素化・GXの実現を担うカーボンプライシングの要です。GXリーグの事務局、GX-ETSの設計に携わる野村総合研究所が国内外の政策制度や市場・プレーヤーの動向などを徹底解説します。
著者情報

野村総合研究所
サステナビリティ事業コンサルティング部 グループマネージャー
早稲田大学創造理工学研究科経営システム工学専攻修了後、野村総合研究所入社。英国ケンブリッジ大学経営学修士修了。主に脱炭素・エネルギー分野における政策制度立案、事業戦略策定、新規事業開発にかかわるコンルティング・実行支援に従事。近年は、グリーントランスフォーメーショングループのマネージャーとして、社会経済のグリーントランスフォーメーション実現にかかわるプロジェクトを多く手がけている。
解説/内容
本書は、野村総合研究所が官民のコンサルティング業務を通じて得た知見などを基に、排出量取引・カーボンクレジットに関する概況を整理したものであり、これを通じて読者の方々が当該領域に関する概況をつかみ、脱炭素・GXにかかわる取り組みを加速・推進していくための一助となることを目指すものである。
野村総合研究所は、官民のクライアントに対するコンサルティング業務を通じて、当該テーマにかかわる多くの案件に携わってきた。特に、経済産業省委託事業では、「GXリーグ」という取り組みにおける事務局業務を、その設立より担ってきている。GXリーグは、脱炭素に先進的に取り組む企業の集まりである。2022年2月に経済産業省よりGXリーグ基本構想が示されて以来、基本構想に賛同をする企業と共に、GXリーグ自体のあり方の検討、排出量取引に係るルール設計、脱炭素に向けた新たな市場創造のためのルール形成、企業間の対話・交流を促す活動などを行ってきた。
これらの活動を通じて野村総合研究所は、日本国内の排出量取引の制度、実務・運用の設計を最前線で支援してきたとともに、カーボンクレジットに関しても、その活用促進を目指すワーキンググループの活動支援や、企業間での情報交換会の運営などを行ってきた。これらの経験を活かし、本書では、排出量取引・カーボンクレジットに関する基本的な動向の整理から、その発展に向けた取り組みなどについて述べる。
まず、1章では、排出量取引・カーボンクレジットに関する政策制度における主な動きと、カーボンプライシング、排出量取引・カーボンクレジットの概要について述べる。次いで、2章では、排出量取引を取り上げ、グローバルでの排出量取引導入国の状況、国内における排出量取引導入に関する経緯と、その制度の詳細・特徴について紹介をする。3章では、カーボンクレジットに関して、その概要・分類を述べたうえで、海外と国内の動向を現状の市場環境や発展に向けた取り組みなどの視点から解説する。さらに、4章では、排出量取引・カーボンクレジット双方の流通にかかわる取引市場に着目し、取引市場の類型に関する整理とグローバル・国内の事例を紹介したうえで、今後の取引市場に関する見通しを述べる。最後に、5章では、排出量取引・カーボンクレジット市場の進展によって今後生じ得る事業機会に関する仮説を、具体的な事例を交えて紹介する。
排出量取引・カーボンクレジットは、脱炭素・GXを推進するうえで、非常に重要な制度・施策であり、多くの企業などの経営に大きな影響を与え得るものである。そのため、各企業などにおいてサステナビリティ(持続可能性)、ESG(環境・社会・ガバナンス)、環境領域にかかわる担当者はもちろんのこと、各企業の各事業において脱炭素・GXに関する取り組みを担うすべてのビジネスパーソンの方々が、その概要・潮流などについて基本的な理解をすることが望ましいと考える。そこで、本書が、このような脱炭素・GXに関する業務に携わる方々が排出量取引・カーボンクレジットに関する概況をつかむことに対して、少しでも貢献することができれば幸いである。
本書のコンセプトと構成/目次等
脱炭素化・GXの実現を担うカーボンプライシングの要!
GXリーグ、GX-ETSの設計に携わる野村総合研究所が国内外の政策制度や市場・プレーヤーの動向などを徹底解説
目次
- はじめに
- 1 排出量取引・カーボンクレジットの概要 1.1 排出量取引・カーボンクレジットにかかわる政策制度の動向
- 2 排出量取引 2.1 排出量取引のグローバル動向
- 3 カーボンクレジット 3.1 カーボンクレジットの基本
- 4 取引市場 4.1 排出量・カーボンクレジット取引市場の類型
- 5 排出量取引・カーボンクレジットにかかわる事業機会 5.1 関連プレーヤーと事業機会
- おわりに
- 脚注
- 著者紹介
1.1.1 2050年カーボンニュートラル宣言前の動向
1.1.2 2050年カーボンニュートラル宣言後の動向
1.2 カーボンプライシング
1.2.1 排出削減に向けた経済的手法
1.2.2 カーボンプライシングの概要
1.2.3 カーボンプライシング導入にかかわる動き
1.3 排出量取引とカーボンクレジットの概況
1.3.1 排出量取引とカーボンクレジットの違い
1.3.2 排出量取引の概要
1.3.3 カーボンクレジットの概要
コラム:カーボンクレジットと証書
2.1.1 排出量取引導入国の状況
2.1.2 欧州域内排出量取引制度:EU-ETS
2.2 排出量取引の国内動向
2.2.1 日本における排出量取引制度の全体像
2.2.2 GX-ETS 第1フェーズのルール詳細
2.2.3 GX-ETSの特徴(海外排出量取引制度との比較)
コラム:GXリーグ
3.1.1 カーボンクレジットの便益
3.1.2 カーボンクレジットの創出から利用までのプロセス
3.2 カーボンクレジットの分類
3.2.1 発行メカニズムによる分類
3.2.2 プロジェクトの種類による分類
3.2.3 発行メカニズム別の市場トレンドと市場拡大の要因
3.3 ボランタリーカーボンクレジットの普及拡大に向けた課題と対応策
3.3.1 ボランタリーカーボンクレジットの普及拡大に向けた課題
3.3.2 ボランタリーカーボンクレジットの普及拡大に向けた対応策
3.4 カーボンクレジットの国内動向
3.4.1 日本における主要なカーボンクレジット
3.4.2 日本におけるカーボンクレジット市場の今後
4.1.1 マーケットプレイス型取引市場
4.1.2 オークション型取引市場
4.1.3 取引所型取引市場
4.2 海外における取引市場
4.2.1 事例①:Xpansiv/CBL Markets
4.2.2 事例②:CIX(Climate Impact X)
4.2.3 事例③:ICE Endex
コラム:アジアにおけるカーボンクレジット取引所設立の動き
4.3 取引市場の国内動向
4.3.1 日本における取引市場の概況
4.3.2 東京証券取引所 カーボンクレジット市場実証とその後の動向
4.3.3 日本におけるカーボンクレジット・排出量(枠)取引市場の見通し
5.1.1 プロジェクト組成・排出量削減/除去吸収活動における事業機会例
5.1.2 ファイナンスにおける事業機会例
5.1.3 審査/検証における事業機会例
5.1.4 排出枠・カーボンクレジット制度の運用における事業機会例
5.1.5 取引市場/仲介における事業機会例
5.1.6 カーボンクレジットのオフセット製品・サービス提供における事業機会例
5.1.7 利用における事業機会例
著者メッセージ
国内における脱炭素に向けた議論や取り組みは、2020年10月の「2050年カーボンニュートラル宣言」を契機に大きく動き出した。そして、2022年のウクライナ侵攻などをきっかけにエネルギー安全保障問題が再認識されたことも受け、産業・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換させ、経済社会システム全体を変革させるGX(グリーントランスフォーメーション)の実現が強く求められるようになった。こうしたなか、近年、脱炭素・GXを実現するための要となるカーボンプライシング導入の動きが活性化してきている。2023年には、国内における排出量取引制度導入がGX推進法などにおいて定められ、その試行実施が開始された。また、カーボンクレジットについては、グローバルな市場拡大や国内での制度整備などを受けて、多くの企業がその創出や利用、取引に取り組み始めている。また、これらの流通を担う取引市場設立の動きも活発になっている。
このように、排出量取引・カーボンクレジットに関して、近年、さまざまな動きがみられる。これらは、各企業にとっては対応が必要な業務やコストになり得ると同時に、事業構造の転換や新たな事業立ち上げの機会にもなり得る重要事項である。しかしながら、こうした昨今の排出量取引・カーボンクレジット関連の動向に着目し、体系的な整理を行った書籍は、ほとんど存在していない状況であった。そこで、本書では、排出量取引・カーボンクレジットに関する昨今の政策制度、市場環境、各社による事業事例などを通して広く整理した。
筆者は、官民双方に対するコンサルティングサービスの提供を通じて、排出量取引・カーボンクレジット関連の制度・事業検討にかかわってきた。特に、経済産業省委託事業では、2022年2月の立ち上げ時よりGXリーグの事務局業務を担っており、本事業を通じて、排出量取引の制度、実務・運用の設計を最前線で支援してきたとともに、カーボンクレジットに関しても、その活用促進を目指すワーキンググループの活動支援や、企業間での情報交換会の運営などを行ってきた。
こうした経験から、国内における排出量取引がより実効性のある制度として機能し、国内におけるカーボンクレジット市場が健全に発展することで、社会の脱炭素・GX実現に寄与することを強く願っている。そして、そのために、本書が、読者の方々が排出量取引・カーボンクレジットに関する政策制度や市場・プレーヤーの動向などの理解を深め、事業を推進していくことに少しでも貢献ができれば望外の喜びである。