分散型エネルギーリソースビジネス大全

2022年12月28日
エネルギーフォーラム

野村総合研究所 佐藤仁人 前田一樹 濵野功大

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2050年カーボンニュートラル達成に向けて、再生可能エネルギーや蓄電池等の分散型エネルギーリソース(以下、DER)の更なる普及とその有効活用が求められており、今後、DERはエネルギー業界における中核的な役割を担うものといえます。本書では、DERを取り巻く状況を概観したうえで、DERに関わる制度・政策およびサービスの現状と見通しを整理・分析し、DER関連企業が目指すべき方向について提言を行いました。

著者情報

野村総合研究所 サステナビリティ事業コンサルティング部 グループマネージャー

佐藤仁人氏

主にエネルギー分野における政策制度立案、事業戦略策定、新規事業開発に関わるコンルティングに従事。近年は、社会経済のGX実現のために、エネルギー業界に限らない業務に携わる。

解説

DER関連分野は、さまざまな政策制度の影響を受け、種々のサービスがかかわりあっているため、全体像を把握することが非常に難しいという感想をよく耳にする。特に、当該分野への新規参入を考えている方や、新たに当該分野を担当することになった方がキャッチアップをする際には、何から学んでよいのか分からないという状況になりがちで、この状況は、DER関連市場のさらなる普及・拡大には問題だ。なぜなら、近年、DER関連サービスが電力小売などの他のエネルギーサービスやモビリティなどの非エネルギーサービスと一体的に提供されるようになってきており、DER関連市場の発展には、異業種も含めたさまざまなバックグラウンドを持つプレーヤーの主体的な参画が重要となっているためである(本書では、これを「DER関連サービス統合化の動き」として詳細に述べた)。

このような問題認識から、本書では、DERを取り巻く環境から関連する政策制度の現状・見通し、関連サービスの動向・トレンド、事業検討上のポイントに至るまで、DER関連ビジネスに関する全体像を示した。本書を読んでいただくことで、DER関連ビジネスを本格的に検討・推進していくための前提となるオーバービュー(概観)をつかんでいただけるのではないか。

本書の内容

「DER(Distributed Energy Resources)時代」を制するのは誰か?
再生可能エネルギー、蓄電池、EV(電気自動車)、DR(デマンド・リスポンス)――
多様なエネルギーマネジメントに対応する方策とは。

  1. はじめに
  2. 1 DERの拡大とその有効活用の重要性の高まり
  3. 1.1 DERの普及拡大
    1.1.1 DSRの拡大
    1.1.2 系統直付け設備の拡大
    1.2 自然変動再生可能エネルギーの拡大によって生じる電力システムへの影響
    1.2.1 出力制御の発生
    1.2.2 昼間の卸電力市場価格の低下
    1.2.3 調整力・慣性力などのニーズの増加
    1.2.4 電力系統に流れない電力の増加
    1.3 DERの有効活用の重要性の高まり
    1.3.1 DR/VPPの概要
    1.3.2 DR/VPPの効果
    1.3.3 DR/VPPのポテンシャル
    コラム:DRの効果 ~卸電力市場価格・電源調達コスト低減効果などの分析

  4. 2 DER導入・活用に関わる制度・政策の現状・見通し
  5. 2.1 DERの導入促進
    2.1.1 導入目標の設定
    2.1.2 導入インセンティブの付与
    2.1.3 導入環境の整備
    2.2 DERの活用促進
    2.2.1 活用インセンティブの付与
    2.2.2 活用環境の整備
    2.2.3 活用価値の顕在化
    コラム:変わり続けるDER関連制度・政策

  6. 3 DER関連サービス動向
  7. 3.1 DER関連サービスの全体像と提供価値
    3.2 DER関連サービス概要と事例
    3.2.1 蓄電池関連サービス
    3.2.2 EV充電マネジメント
    3.2.3 DR/VPP
    3.2.4 再生可能エネルギーアグリゲーション
    3.2.5 自己託送・PPA
    3.2.6 TPOサービス
    3.2.7 マイクログリッド
    コラム:将来のDER関連サービス:P2P電力取引

  8. 4 DER関連サービス統合化の動き
  9. 4.1 DER関連サービス統合化の視点
    4.1.1 エネルギーサービス内での統合
    4.1.2 非エネルギーサービスとの連携・統合
    4.2 各種サービスの結節点としての統合化の視点
    4.3 DER関連サービス統合化の方向性
    4.3.1 DER関連サービス統合化の目的
    4.3.2 結節点の強さから見る統合化の方向性
    コラム:セクターカップリング ~電力セクターと他セクターの融合

  10. 5 DER関連事業の難しさと関連企業の目指すべき方向
  11. 5.1 DER関連事業の難しさ
    5.1.1 DER関連事業の事業上の位置付けの定義
    5.1.2 事業モデルの転換の必要性
    5.1.3 「事業環境見通しの不透明性」と「顧客囲い込みの先行者利得」のジレンマ
    5.2 関連企業の取るべき動き・目指すべき方向
    5.2.1 DER関連サービスの稼ぎどころの明確化
    5.2.2 プレーヤー間の連携
    5.2.3 制度把握と働きかけ
    5.2.4 不透明性が残るなかでの意思決定・事業開発

  12. おわりに

著者インタビュー

筆者は、過去10数年来、官民双方に対するコンサルティングサービスの提供を通じて、分散型エネルギーリソース(DER)関連領域に携わってきた。例えば、経済産業省資源エネルギー庁の委託事業では、国内初の本格的な政府検討の場であった「ネガワット取引のガイドライン作成検討会」の設置当初から、直近の「次世代の分散型電力システムに関する検討会」に至るまでさまざまな形で政策制度の策定を支援してきた。この間、国内のDER関連市場は、関係各位の多大なる努力の成果により、大きく前進をしてきた。
しかし、昨今のエネルギー価格の高騰などの諸課題や、カーボンニュートラル達成に向けたエネルギーシステム転換の要請を勘案し、今後、DER関連市場が一つギアを上げて、さらなる普及・拡大を実現していくことが非常に重要だ。そこで、当該領域に長年、思いを持ってかかわってきた者の一人として、DER関連市場の発展に微力ながらも貢献することを願い、本書を執筆した。