なぜ2026年夏の電力逼迫が警戒されたのか ―【第3回】夏の電力逼迫時代に企業はどう備えるべきか―
一般社団法人エネルギー情報センター

第2回では、2011年・2012年・2022年の電力逼迫事例とホルムズ海峡情勢を踏まえ、日本の電力供給が国内外のリスクと結びついていることを整理しました。 最終回となる今回は、企業がこうしたリスクにどのように備えられるのかを整理します。電力リスクは、供給不足だけでなく、燃料価格や卸電力市場の変動による価格リスク、停電による事業継続リスクにも及びます。以下では、電力コスト、需要管理、調達・契約、事業継続計画(BCP)の観点から、企業が取り得る対策を見ていきます。
電気料金という形で表れるコスト構造
電力逼迫や海外情勢の緊張は、多くの場合、企業にとってまず電気料金の変化として現れます。ここでは、電気料金を構成する要素のうち、企業が押さえておきたい2つの動きを見ていきます。
再エネ賦課金・容量拠出金など、制度によって積み上がるコスト
電気料金には、燃料費調整額とは別に、再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)という項目があります。経済産業省は2026年3月19日、2026年度の賦課金単価を1kWh当たり4.18円とすることを公表しました。2025年度の3.98円から上昇し、2012年度の制度開始以来、初めて4円台に達しています。

図1 再エネ賦課金単価の推移(年度、経済産業省資料をもとに作成)
月間の電力使用量が10万kWhの企業であれば、この0.2円の上昇だけで年間約24万円の追加負担になります。ホルムズ海峡のような突発的なリスクとは異なり、こうした費用は毎年少しずつ
積み上がっていく性質のものであり、電力コストを考えるうえでは、燃料費調整額と合わせて注視しておきたい項目です。
あわせて2024年度からは、将来の供給力を確保する容量市場の費用を、小売電気事業者などが負担する「容量拠出金」の徴収も始まっています。負担額は、小売電気事業者については夏季・冬季ピーク時の電力需要シェアなどをもとに、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が算定する仕組みです。需要家の電気料金への反映方法は小売電気事業者や契約によって異なるため、請求書や契約条件を確認しておく必要があります。
市場連動型プランという選択のリスク
電気料金プランの中には、卸電力取引所(JEPX)の市場価格に連動して単価が変動する「市場連動型プラン」があります。市場価格が低い局面では料金を抑えられる可能性がある一方、需給が逼迫した局面では価格が大きく上昇しやすいという特性があります。
実際に2021年から2022年にかけての卸電力市場価格の高騰時には、多くの新電力会社が調達コストの増加に耐えられず、撤退や倒産に追い込まれました。2024年3月時点で、小売電気事業者として登録された新電力のうち撤退・倒産・廃業に至った事業者は累計119社にのぼり、2022年3月時点の約7倍に増えています。高圧・特別高圧で電力供給を受けている需要家は、契約先の小売電気事業者が撤退した場合、一般送配電事業者から一時的に電力供給を受けられる「最終保障供給」という仕組みがありますが、通常より割高な料金設定になっている点には留意が必要です。
市場連動型プランを選ぶこと自体が誤りというわけではありません。ただし、電力コストの見通しが立てにくくなる分、複数拠点で固定型と市場連動型を分けることや、調達量の一部を固定価格化すること、契約先の事業基盤を確認しておくことが、実務上の備えになります。
こうした価格変動には「時間差」がある点も押さえておきたいポイントです。第2回で見たように、ホルムズ海峡情勢のような海外の地政学リスクは、まず原油やLNGのスポット価格に反映され、その後、物流コストや原材料費に波及し、電力・ガス料金という形で企業の請求書に表れるまでには数か月を要します。原油高のニュースを見た時点では、まだ電気料金には影響していないケースが多く、この時間差を理解しておくことが、価格リスクへの実務的な備えの出発点になります。
需要側から電力リスクに備える仕組み
電力が逼迫する局面では、供給を増やすだけでなく、需要を抑える取り組みも、需給バランスを保つ手段として位置づけられています。企業が需要側から取り組める主な対策を見ていきます。
最大需要電力を抑える
多くの企業向け電気料金では、使用した電力量そのものだけでなく、一定時間内における使用電力の最大値(最大需要電力)が、基本料金の水準に影響します。夏の午後に空調・製造設備・冷凍冷蔵設備などが同時に稼働すると、この最大需要電力が跳ね上がりやすくなります。
年間の使用電力量そのものを大きく減らせなくても、設備の稼働時間をずらして最大需要電力を抑えることで、基本料金の負担を軽減できる余地があります。デマンド監視装置で最大需要電力を可視化し、設定値を超えそうな場合に優先度の低い設備を自動停止する、といった運用も一つの手段です。ただし、労働環境や製品品質、安全性を損なわない範囲で、停止できる設備とできない設備を見極める必要があります。
デマンドレスポンス(DR)という選択肢
デマンドレスポンス(DR)とは、電力会社からの要請に応じて需要家が使用量を調整する仕組みです。使用量を減らす「下げDR」と、再生可能エネルギーの余剰が生じる時間帯などに使用量を増やす「上げDR」があります。下げDRによって削減された需要は「ネガワット」と呼ばれ、一定の要件を満たせば、発電設備による供給力と同様に、需給バランスを調整する手段として活用されます。
需要家が需給調整市場へ参加するには、計測・制御や応動時間などの要件を満たす必要があります。そのため、多くの企業では、需要家側の設備をまとめて制御する「アグリゲーター」と呼ばれる事業者を通じた参加が現実的な選択肢になります。契約している大手電力会社が、法人向けにDRサービスを提供しているケースもあります。DRへの参加は、電力逼迫時の社会的な貢献であると同時に、削減量や契約内容に応じた対価を得られる場合もあります。
需給調整市場は、一般社団法人電力需給調整力取引所(EPRX)が運営しており、応動時間の速さに応じて一次調整力から三次調整力まで複数の商品区分が設けられています。蓄電池や自家発電設備を持つ企業ほど、参加できる商品の幅が広がる傾向にあります。実際に、アグリゲーターのエナリスは2027年度の容量市場(発動指令電源)に向けて、蓄電池や自家発電機の制御に加え、生産ラインの稼働時間シフトによるDR対応でも参加できる企業の募集を行っており、小規模な削減量からの参加も想定されています。

図2 デマンドレスポンス対応の流れ(株式会社エナリスのプレスリリースをもとに作成)
設備投資の判断にあたっては、BCPとしての価値だけでなく、こうした市場参加による収益の可能性もあわせて検討する余地があります。
太陽光・蓄電池による自家消費とBCP
自社の屋根や敷地に太陽光発電設備を設置し、発電した電力をその場で使う「自家消費」も、需要側からの備えの一つです。自家消費した分の電力には、先述の再エネ賦課金がかからないため、コスト面でのメリットもあります。
蓄電池を組み合わせれば、平常時は電力コストの平準化に活用しつつ、災害や需給逼迫による停電時には非常用電源として機能させることができます。BCPの観点から、生産ラインやデータセンターなど停電の影響が大きい設備を優先的にバックアップする形で導入する企業もあります。
停電時に維持すべき業務を明確にする
停電への備えでは、非常用電源を導入するだけでなく、どの設備をどの程度の時間維持する必要があるのかを明確にすることが重要です。生産設備、冷凍・冷蔵設備、サーバー、通信機器などを、停止できない設備・一定時間以内に復旧すべき設備・一時的に停止できる設備に分け、必要な電力と継続時間を確認しておきます。
非常用発電機や蓄電池についても、定期的な起動試験、燃料の保管量、停電時の切り替え手順、担当者の連絡体制まで含めて点検しておく必要があります。設備を導入していることと、非常時に実際に使用できることは同じではありません。

図3 電力リスクに対する企業の備えの整理
契約・調達の見直し
コストと需要の両面での備えに加え、そもそもの電力調達契約を見直すことも、中長期的なリスク対応の選択肢になります。
PPAによる調達価格の安定化
PPA(電力購入契約)は、発電事業者が設置・運営する発電設備から、需要家が長期契約で電力を購入する仕組みです。オンサイト型では需要家の敷地内に太陽光発電設備を設置し、オフサイト型では離れた発電所から送配電網を通じて電力の供給を受けます。需要家は発電設備の初期投資や維持管理を負う必要がなく、10〜20年程度の長期にわたって、PPAによる調達分の電力単価を固定できます。
化石燃料の価格変動と切り離された価格体系であるため、ホルムズ海峡情勢のような地政学リスクによる燃料価格の変動が、契約範囲内の電力コストには直接及びにくいという特徴があります。ただし、契約期間が長期にわたる分、事業計画や設備更新のタイミングとの整合性を事前に検討しておく必要があります。
オンサイト型は自家消費扱いとなるため再エネ賦課金がかからない一方、設置できる容量は敷地面積に左右されます。オフサイト型は容量の制約が小さい分、託送料金など送配電にかかる費用が別途発生する点が異なります。
導入は大手企業を中心に広がっています。例えばセブン‐イレブン・ジャパンは、2025年2月末時点で6事業者と提携し、オフサイトPPAにより約1,500店舗へ再エネ電力を供給しています。2026年2月には、東北電力などとの間で太陽光・風力を組み合わせた25年間のオフサイトPPAを新たに締結し、東北6県と新潟県の約1,800店舗に年間約59GWhを供給する計画を発表しました。20年を超える長期契約によって電力調達の一部を固定化する動きは、脱炭素と価格安定の両面から進んでいます。

図4 セブン‐イレブンへの電力供給の全体像(オフサイト型コーポレートPPAサービス、各社プレスリリースをもとに作成)
電力契約の見直しポイント
既存の電力契約についても、定期的な見直しが備えの一環になります。市場連動型か固定単価型かという料金体系の選択に加え、契約先の小売電気事業者の事業基盤、複数年契約の是非、DRやPPAとの組み合わせなど、検討できる要素は複数あります。
何から始めるべきか迷う場合は、まず自社の電力使用の実態を把握することが出発点になります。契約している小売電気事業者から30分単位の使用量データを取り寄せ、最大需要電力がいつ発生しているのかを確認する。そのうえで、設備の稼働状況と照らし合わせることで、どの設備がピーク需要に影響しているのかを把握できます。この作業だけでも、デマンド管理・DR・蓄電池のどれが自社に合うのか、検討の優先順位が見えてきます。
なお、データセンターや半導体工場など、AI関連の投資が電力需要を押し上げている側面は第1回で触れた通りですが、こうしたデジタル技術は、DRの自動制御やエネルギーマネジメントシステム(EMS)を通じて、企業自身の省エネ・効率化にも活用できます。需要を増やす要因であると同時に、需要を最適化する手段にもなり得る点は、あわせて押さえておきたい視点です。
まとめ
2026年夏の電力逼迫は、老朽火力の休廃止という国内の構造要因に、ホルムズ海峡という地政学リスクが重なって警戒されたものでした。供給側の余裕が短期間で大きく増えるとは考えにくく、同様の局面は今後も繰り返し訪れる可能性があります。
企業にできることは、リスクをゼロにすることではなく、価格・供給・需要の各面から影響を分散させ、備えておくことです。再エネ賦課金や容量拠出金、市場連動リスクといったコスト構造を把握し、DRや自家消費で需要側から関与し、PPAや契約見直しで調達を多様化する。電力は単なる経費ではなく、調達・財務・設備・BCPを横断する経営資源であり、こうした備えの積み重ねが、電力逼迫を経営リスクとして管理する土台になります。
第1回で見た「予備率3%確保でも安心できない理由」、第2回で見た「過去の逼迫事例とホルムズ海峡リスク」、そして今回取り上げた企業の備えは、いずれも一つの方向を示しています。電力を「使うもの」ではなく、「管理する経営資源」として捉える視点が、これからの企業にはますます重要になります。
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