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なぜ2026年夏の電力逼迫が警戒されたのか ―【第2回】 過去の逼迫事例とホルムズ海峡リスクに見る、日本の電力供給の脆弱性―

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なぜ2026年夏の電力逼迫が警戒されたのか ―【第2回】 過去の逼迫事例とホルムズ海峡リスクに見る、日本の電力供給の脆弱性―の写真

第1回では、2026年夏の電力需給が一時、東京エリアで予備率0.9%まで悪化する見通しとなり、追加対策によって3%を確保するに至った経緯を整理しました。しかし、振り返れば、電力供給がここまで逼迫したのは今回が初めてではありません。 2011年の使用制限令、2012年の数値目標付き節電、2022年の需給ひっ迫警報と、日本はこれまでにも同様の局面を経験してきました。第2回の今回は、これらの過去の逼迫事例とホルムズ海峡情勢を踏まえ、日本の電力供給が国内外のリスクとどのように結びついているのかを整理します。

繰り返されてきた電力逼迫の歴史

まず、過去の3つの逼迫局面を振り返ります。震災、原発停止、猛暑と、引き金は毎回異なりますが、共通するパターンも見えてきます。

2011年 東日本大震災と電力使用制限令

2011年3月の東日本大震災で東京電力・東北電力管内の多くの発電所が被災すると、政府は同年7月1日から両管内の契約電力500kW以上の大口需要家を対象に、電気事業法第27条に基づく「電力使用制限令」を発動しました。

前年比15%の使用最大電力削減を義務づける、強制力を伴う措置です。使用制限は1時間単位で判定され、違反した場合には100万円以下の罰金が科される可能性がありました。発動は1974年の石油危機以来、37年ぶり2回目のことです。

制限は、東京電力管内では当初9月22日までの予定でしたが、節電の定着などで需給に余裕が生まれたため、9月9日に前倒しで解除されています。

2012年 原発稼働ゼロがもたらした数値目標節電

2012年5月、国内で唯一稼働していた北海道電力泊発電所3号機が定期検査で停止し、42年ぶりに国内の原発稼働がゼロになりました。原発依存度の高かった関西を中心に夏の供給力不足が見込まれたため、政府は同月、関西電力管内に15%、九州電力管内に10%、北海道電力・四国電力管内に7%の数値目標付き節電を要請し、電力を融通する側の中部・北陸・中国電力管内にも5%の目標を課しました。

事態が変わったのは7月です。大飯発電所3号機(7月5日)、4号機(7月21日)が再稼働したことで供給力が積み増しされ、関西電力の節電目標は15%から10%に緩和されました。中部・北陸・中国電力の目標は撤廃され、四国電力も7%から5%に緩和されています。
再稼働がなければ、関西を中心に計画停電のリスクが強く意識される状況でした。

2022年 初の警報・注意報、7年ぶりの全国要請

2022年3月、福島県沖で発生した地震により複数の火力発電所が損傷し、3月21日から22日にかけて、経済産業省は制度開始以来初めてとなる「電力需給ひっ迫警報」を東京電力・東北電力管内に発令しました。夏に入ってからも状況は改善しませんでした。

東京都心では6月として観測史上初めて2日連続の猛暑日を記録し、6月26日には初の「電力需給ひっ迫注意報」が東京エリアに発令されています。政府は6月7日、7年ぶりとなる全国規模の節電要請を含む「2022年度の電力需給に関する総合対策」を決定し、JERAも姉崎火力発電所5号機(千葉県、出力60万kW、稼働から45年)の稼働を予定より前倒ししました。それでも7月時点の予備率は、東北・東京・中部で3.1%、その他の主要エリアでも3.8%と、安定供給に必要な3%をかろうじて上回る水準にとどまっていました。

図1 過去の電力逼迫事例の比較

なぜ乗り切れたのか、そこに潜む構造的な問題

3回とも、最終的には大規模停電を回避できました。ただし、その乗り切り方を見ると、共通する構図が浮かび上がります。

通常時には前面に出ない対策の総動員

2011年は大口需要家への強制的な使用制限、2012年は原発再稼働による供給力積み増し、2022年は稼働年数40年を超える老朽火力の前倒し稼働と、乗り切り方はそれぞれ異なります。しかし3つの事例を比べると、原因は異なっていても、供給力を確保するために通常時とは異なる対策が必要になった点は共通しています。

2022年に稼働を早めた姉崎火力5号機のように、稼働から40年以上が経過した老朽火力は、いつ計画外停止が起きてもおかしくない設備です。第1回で見た通り、こうした老朽火力の休廃止は今も続いており、2029年度にかけて新設が追いつかない状況が続く見通しです。

2026年との違い―国内要因に重なった地政学リスク

2011年の震災、2012年の原発停止、2022年3月の地震と、過去の逼迫を招いた要因はそれぞれ異なります。一方、2026年夏の需給逼迫が当初警戒された主な要因は、老朽火力の休廃止による供給力の減少と需要の増加でした。その後、2026年2月末から米国とイランの軍事的緊張が高まり、ホルムズ海峡情勢という新たなリスクが加わりました。

国内の需給要因に海外の地政学リスクが重なった点で、これまでとは性質の異なる局面といえます。

なぜ日本は海外情勢に電力供給を左右されるのか

そもそも、なぜ中東の情勢が日本の電力供給に関係するのでしょうか。その背景には、日本のエネルギー調達構造があります。

資源小国、火力頼みの電源構成

日本は資源に乏しい島国であり、発電に使う燃料のほぼ全量を輸入に頼っています。電源構成に占める火力発電の割合は、石炭が約3割、LNGが約3割で、火力全体では6割前後を占めます。再生可能エネルギー・水力が2割強、原子力は1割弱にとどまります。

図2 日本の電源構成(発電電力量ベース、資源エネルギー庁資料をもとに作成)

ホルムズ海峡とLNG輸入の関係

日本のLNG輸入のうち、ホルムズ海峡を経由するのはカタール(5.3%)とUAE(1.0%)を合わせた6.3%にとどまります。オマーン(4.5%)はホルムズ海峡の外側に液化基地があるため、中東全体の依存度は10.8%です。最大の輸入元はオーストラリアで39.7%、次いでマレーシア14.8%、ロシア8.9%と、原油に比べて調達先の多角化が進んでいます。

図3 日本のLNG輸入先の内訳(2025年実績、財務省貿易統計をもとに資源エネルギー庁作成)

日本の原油輸入の約9割が中東に依存しており、その大半がホルムズ海峡を通過します。ホルムズ海峡の緊張が高まった際、日本のエネルギー安全保障にとってより深刻な影響が懸念されるのは、LNGよりも原油だとされています。

依存度は限定的でも、価格には波及する

直接的な依存度が6.3%にとどまるとはいえ、影響が及ばないわけではありません。電力・ガス会社は、ホルムズ海峡経由のLNG輸入量1年分に相当する400万トン程度の在庫を保有しており、資源エネルギー庁は「短期的に安定供給に支障をきたす状況にはない」としています。

ただし、ホルムズ海峡が封鎖されれば、世界のLNG供給の2割を占めるカタール産ガスが市場から締め出され、日本が調達している豪州産・米国産LNGを、欧州や他のアジア諸国と奪い合う構図になります。実際に2026年3月には、アジアのLNGスポット価格(JKM)が2月27日の100万Btuあたり11.06ドルから3月9日には24.80ドルまで、10日ほどで約2.2倍に跳ね上がりました。

日本への輸入量が直接減らなくても、価格は大きく動くことを示した事例といえます。世界のLNG市場はつながっているため、日本が直接輸入していないカタール産LNGの供給不安も、豪州産や米国産を含む価格全体を押し上げる要因になります。多くの電気料金メニューでは、原油・LNG・石炭の輸入価格の変動が、燃料費調整制度を通じて一定の時間差を伴って料金に反映されます。

ホルムズ海峡の緊張は、日本への燃料供給を直ちに止めなくても、数か月後の電気料金という形で家計や企業に影響する可能性があります。

再び高まるホルムズ海峡の不確実性

ホルムズ海峡の情勢は、6月に一度は落ち着きを見せたものの、7月に入り再び緊張が高まっています。

6月17日の通航再開合意とその後

2026年2月末に始まった米国とイランの軍事衝突は、4月の停戦を経て、6月17日に覚書(MOU)が署名され、60日間の交渉枠組みと商業船舶の通航料無償化が合意されました。これを受け、一時は通航量が増加に転じ、原油価格も下落しました。

しかし、正常化には至りませんでした。6月下旬以降もイランによる商船への攻撃が散発し、7月11日には米軍がイランのミサイル基地などを空爆、翌12日未明にはイラン革命防衛隊がホルムズ海峡の「再封鎖」を宣言するなど、応酬が再燃しています。米国側は封鎖宣言を否定しており、7月13日時点で通航の先行きは不透明な状況です。

並行して動く外交協議

一方で、外交チャネルも動いています。7月11日にはイランとオマーンの外相がマスカットで会談し、通航料を徴収しない形で海峡を南北2つの航路に分けて管理する案や、両国と国際海事機関(IMO)による通航監視委員会の設置が協議されました。合意には至っていませんが、軍事的な応酬と外交協議が並行して進む、不安定な均衡が続いています。

6月の合意で設定された無償通航期間は8月中旬に期限を迎える予定であり、この時期にかけて、通航の枠組みをめぐる交渉が改めて焦点になるとみられます。

まとめ

2011年、2012年、2022年と、日本はその都度異なる方法で電力逼迫を乗り切ってきました。しかし、供給余力が小さくなると通常時とは異なる対策が必要になるという構造は、2026年も変わっていません。そして今回は、ホルムズ海峡という地政学リスクも加わっています。

LNGの直接的な依存度は限定的である一方、価格という形で数か月遅れて家計や企業に影響が及ぶ構造は変わりません。ホルムズ海峡では7月に入って軍事的な応酬が再燃しており、8月中旬の合意期限に向けて情勢は流動的です。こうした構造的なリスクは、一時的な情勢の変化だけで解消されるものではありません。

電力を安定して確保できる見通しであることと、リスクが去ったことは同じではない。第1回で確認したこの視点は、海外情勢についてもそのまま当てはまります。次回は、こうしたリスクを踏まえ、企業が電力リスクや電気料金の変動にどのように備えるべきかを整理します。

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