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ナフサ不足がもたらす産業・エネルギーへの影響【第3回】ナフサ不足時代に企業はどう備えるべきか ―エネルギー転換時代の調達戦略―

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ナフサ不足がもたらす産業・エネルギーへの影響【第3回】ナフサ不足時代に企業はどう備えるべきか ―エネルギー転換時代の調達戦略―の写真

第1回ではナフサ不足が起きている背景を、第2回では建設・食品・物流など産業への波及を整理しました。最終回となる今回は、企業がこの供給リスクにどう向き合い、何を備えればよいのかを、調達戦略・代替原料・サプライチェーン管理・政策動向の観点から見ていきます。 東京商工リサーチが2026年6月に実施した調査では、回答企業の85.0%が「調達量・価格のいずれか、または両方に支障がある」と答えています。供給環境の改善を待つだけでは対応が難しくなっており、企業には調達戦略を改めて点検する視点が求められています。

連調達戦略の再構築 分散と長期契約の見直し

供給リスクに直面した企業がまず取り組むのは、調達先の分散と在庫戦略の見直しです。中東以外からの代替調達がどこまで進み、どんな課題が残っているのかを整理します。

代替調達は進んだが、コストは残る

中東以外からの調達は着実に進んでいます。経済産業省の公表資料によれば、米国・アルジェリア・ペルーなど中東以外からのナフサ輸入量は、中東情勢緊迫化前の月45万キロリットルから、4月には90万キロリットル、5月には135万キロリットル超まで拡大する見通しです。

【図1】政府が示す化学製品の供給確保のイメージ
出典:経済産業省「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保及び重要物資の安定的な供給確保の対応状況」令和8年4月30日

中東以外からの輸入量は、平時(月45万キロリットル)の約3倍規模まで拡大しており、供給量の確保に向けた対応は進んでいます(経済産業省「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保及び重要物資の安定的な供給確保の対応状況」令和8年4月30日)。

ただし、代替調達には構造的なコスト負担が伴います。米国からは太平洋横断、アフリカからは喜望峰経由となるため輸送距離が長く、戦争保険料の上乗せも続いています。三菱ケミカルグループの筑本学社長は2026年5月13日の決算説明会で、中東以外からの輸入拡大によりナフサ調達の多様化を進めていると説明したうえで、価格高騰を踏まえ「顧客の理解を得ながら適切な価格転嫁を進めている」と述べています(三菱ケミカルグループ決算説明会、2026年5月13日)。量の確保と価格の安定は、必ずしも同時には実現しないという点を踏まえた調達計画が必要です。このため、調達先の多様化と同時に、その分のコスト上昇分をどう吸収するかをあらかじめ調達計画に織り込んでおく必要があります。

在庫の積み増しという防衛策とその限界

東京商工リサーチの調査では、調達不安を背景に在庫を積み増した企業は製造業の40.4%に達し、中小企業が大企業を上回るペースで在庫確保に動いていることがわかりました。先行きの不透明感から、各社が防衛的に在庫を積む動きが広がっています。

一方で、在庫の積み増しは運転資金の増加とキャッシュフロー圧迫という代償を伴います。第2回で触れたとおり、価格交渉力の弱い中小企業ほどこの負担が重くなりやすく、在庫戦略は「積めば安心」という単純な話ではありません。発注量を前年同月比同量に保つよう経済産業省が要請しているように、過剰発注が業界全体の目詰まりを助長する側面もあり、個社の防衛と業界全体の安定供給は時にトレードオフの関係になります。

代替原料の可能性 バイオナフサとケミカルリサイクル

中東依存そのものを下げる中長期的な選択肢として、バイオナフサやケミカルリサイクルへの投資が進んでいます。技術の現状と、どこまで供給リスクの緩和に役立つのかを見ていきます。

ENEOS・三菱ケミカルの廃プラ油化

ナフサ依存を構造的に下げる動きとして、ケミカルリサイクルが進んでいます。ENEOSと三菱ケミカルは茨城県神栖市の三菱ケミカル茨城事業所で、英Mura Technology社の超臨界水技術を用いたプラスチック油化設備を2025年7月に竣工させました。使用済みプラスチックを高温高圧の水で分解して油に戻し、両社の石油精製装置やナフサクラッカーの原料として再投入する仕組みで、処理能力は年間2万トン、商業ベースでは国内最大規模とされています(ENEOS・三菱ケミカル共同発表、2025年7月3日)。

【図2】プラスチック油化事業のサプライチェーン概念図
出典:ENEOS株式会社・三菱ケミカル株式会社「ENEOSと三菱ケミカル、プラスチック油化の開始に向けてケミカルリサイクル設備を竣工」2025年7月3日

図2のように、回収した使用済みプラスチックは油化設備でリサイクル生成油へと転換され、石油精製装置やナフサクラッカーの原料として再利用されます。この設備が生産する量は国内のナフサ需要全体(月間約280万キロリットル)と比べればごくわずかですが、サーキュラーエコノミーの実証モデルとして、今後の拡張余地を示す事例といえます。

旭化成のバイオエタノール由来エチレン

旭化成・三井化学・三菱ケミカルによる西日本エチレン設備の統合JVも、ナフサ依存を下げる動きの一つです(投資規模やスケジュールの詳細は第1回で詳述)。旭化成の触媒反応技術「Revolefin」を活用したバイオエタノール由来のグリーン基礎化学品製造は、業界再編と脱炭素を同時に進める事例として位置づけられます。

代替原料はいつ「使える規模」になるか

バイオナフサ・ケミカルリサイクルともに技術自体は実証段階を超えていますが、商業生産の規模はまだ限定的です。ENEOS・三菱ケミカルの油化設備が年間2万トン、旭化成のグリーン基礎化学品が2034年度目標であることを踏まえると、これらが今回のような急性的な供給制約への即効薬にはならないのが実情です。代替原料だけで供給リスクを補うことは現時点では難しく、短期の調達戦略と並行して、中長期の投資判断として検討するのが現実的です。

サプライチェーンの可視化 BCPの再点検

今回の供給制約は、従来型のBCPが想定していなかった事態を浮き彫りにしました。自社のサプライチェーンをどう見直せばよいのか、具体的な視点を整理します。

「代替調達先」が同じ制約を受けるという誤算

第2回で指摘したとおり、BCPとして代替調達先を確保していても、原料が川上のナフサ段階から絞られている場合、代替先も同じ制約を受けてしまうケースが今回明らかになりました。住宅設備大手の受注停止や、物流業界のストレッチフィルム不足は、特定企業の調達網の問題ではなく、業界全体が同じ上流リスクを共有していたことを示しています。

BCPを再点検する際は、「調達先を複数持っているか」だけでなく、「その複数の調達先が同じ原料リスクを共有していないか」を確認する視点が必要です。原料の出自(中東産か、中東外か、リサイクル原料か)まで遡って把握している企業は、今回のような事態でも対応の選択肢を持てたといえます。

自社のサプライチェーン上の立ち位置を知る

ナフサのサプライチェーンは、川上(原油精製・石油化学メーカー)、川中(商社・卸)、川下(中小製造業・最終加工業)の三層に分かれ、それぞれ見える景色が異なります。川上からは「日本全体として必要な量は確保している」という説明が事実である一方、川中では大口・長期契約への優先配分が、川下では発注量に応じた供給制限が同時に起きています。経済産業省も2026年4月の公表資料で、川下製品の在庫が約2カ月分にとどまる構造を認めています。

自社がこの三層構造のどこに位置し、上流のどの段階で目詰まりが起きると影響を受けるのかを把握することが、説明力のある調達計画とリスク対応の出発点になります。調達先を複数持つだけではBCPにならない、という点は今回の供給制約から見えてきた重要な教訓の一つです。

今後の展望 GXと政策動向

中東情勢は、本シリーズの執筆中にも大きく動いています。政策面の動きと国際情勢の両方から、今後の見通しを整理します。

特定重要物資指定の検討

化学原料としてのナフサを特定重要物資に指定し、安全保障の観点から管理する枠組みの検討が始まっています。政府は2026年3月24日に中東情勢に関する関係閣僚会議を立ち上げ、6月2日までに第9回を開催するハイペースで対応を進めています。5月25日には高市総理が3兆円規模の補正予算編成を表明し、中東情勢等対応予備費の創設や電気・ガス料金支援などが決定しました。制度面の整備にはなお時間を要する見通しですが、ナフサが燃料とは別枠で安全保障上の重要物資として扱われる方向性は固まりつつあります。

ホルムズ海峡の開放と、なお残る不確実性

2026年6月下旬時点で、状況は大きく動いています。6月17日、トランプ米大統領とイランのペゼシュキアン大統領が戦闘終結に向けた覚書に署名しました。トランプ大統領はSNSで合意成立を表明し、米国側は海上封鎖解除やホルムズ海峡での商船航行の正常化を進める方針を示しています。ホルムズ海峡は30日以内に封鎖解除へ向かう見通しです。

ただし、この覚書をもって調達リスクが直ちに解消されるわけではありません。核問題については署名後の協議が別途必要とされ、イラン側はレバノンでの停戦違反を理由にホルムズ海峡の再封鎖を主張する場面もありました。無料航行期間が過ぎた後の通航条件についても、イランと米国の主張には隔たりが残っています。第1回で触れたとおり、「停戦成立」と「物流正常化」は別の時間軸で動くものであり、保険市場の正常化や航路の再設定にはなお時間を要する見通しです。

GX推進と原料競合は今後も続く

GX推進による「燃料は減っても原料は残る」というねじれは、中東情勢が落ち着いた後も構造的な課題として残ります。SAFやバイオ燃料との原料競合、製油所のガソリンシフトによるナフサ収率の低下といった要因は、ホルムズ海峡の通航が正常化しても解消されるわけではありません。今回の経験を一時的な危機対応で終わらせず、中長期の原料戦略に組み込む企業が増えるかどうかが、今後の産業競争力を左右する分岐点になりそうです。

まとめ

全3回を通じて見てきたように、今回のナフサ不足は一時的な供給トラブルではなく、中東情勢という地政学リスクと、製油所再編・GX推進という構造変化が重なって生じた出来事です。「在庫はある」と「届く」は違うという第1回の視点は、調達戦略・代替原料・BCPのいずれにおいても共通する教訓でした。

ホルムズ海峡の封鎖解除に向けた覚書署名により、状況は改善に向かう可能性が出てきましたが、核問題をめぐる協議や通航条件の細部はなお不確定です。代替調達やケミカルリサイクルといった対応も、コストの上昇や規模の限界を伴います。今回のような事態にその都度対応するのではなく、短期の調達と長期の原料戦略を分けたうえで、不確実性を前提に、調達・投資・BCPを継続的に見直していく姿勢が、今後の企業にはより重要になると考えられます。

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  3. ナフサ不足がもたらす産業・エネルギーへの影響【第2回】ナフサ不足はどこまで広がるのか ―建設・物流・産業への波及影響―
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