ナフサ不足の状況、例年の8割程度は確保できるが備蓄等は徐々に微減の見込み、量だけでなく代替輸入ナフサ品質の違いや目詰まりも課題に
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一般社団法人エネルギー情報センター

中東依存の強いナフサは代替輸入で例年の8割を確保するものの、在庫は漸減見通しです。供給量確保に加え、代替原料の品質差による製品バランスの歪みや過剰発注に伴う流通の目詰まりも課題となっており、今後は調達先の多角化など供給網の構造的な強化が求められます。
本記事では、日本の石油化学工業および広範な製造業の基盤となるナフサについて、現在の調達構造、中東情勢の変化による短期的・長期的な影響、そして今後の安定供給に向けた中長期的対策という観点から、大まかな動向をまとめます。
ナフサの需給構造と調達の現状
ナフサは、原油を精製して作られる石油製品の一種であり、これを分解することでエチレンやプロピレンといった基礎化学品が製造されます。これらはさらにプラスチックやゴム、電子部品、塗料などの中間製品・最終製品へと加工されるため、ナフサは日用品から最先端の半導体に至るまで、日本の多様なサプライチェーンの根幹を成す極めて重要な原材料です。
日本のナフサ供給は、その大部分を海外からの輸入に依存しています。2025年のデータによれば、国内におけるナフサの生産量が約1,310万キロリットルであったのに対し、輸入量は約2,039万キロリットルに上っており、国内需要の過半を輸入によって賄っている状況です(図1)。日本の有機化学工業において、原油およびナフサは原料として極めて重要な位置を占めており、その供給状況は業界全体の生産動向に直接的な影響を及ぼします。

図1 ナフサ供給の構造(年間) 出典:内閣府
輸入先を国別に見ると、中東諸国に対する依存度が非常に高いことが日本の大きな特徴であり、同時に弱点でもあります。2025年のナフサ輸入先は、アラブ首長国連邦(UAE)が29%、クウェートが21%、カタールが19%となっており、これら中東の3カ国だけで輸入全体の約68%を占めています。また、2024年の実績においても、輸入ナフサの中東依存度は73.6%と高い水準にありました。
国内全体のナフサ調達先(国産を含む)の構成で見ても、国産が約4割(39.4%)、中東からの輸入が約4割(44.6%)、その他地域からの輸入が約2割(16.0%)となっており、中東への依存が際立っています(図2)。さらに、国産ナフサを精製するための原料である原油についても、日本はその約90%〜93%をサウジアラビアやUAEなどの中東諸国から輸入しており、ホルムズ海峡への依存度も約93%に達しています。すなわち、輸入ナフサのみならず国産ナフサの根源も含め、日本の石化産業は中東地域の安定に極度に依存していると言えます。

図2 石油化学のサプライチェーン 出典:経済産業省
そして、エネルギー安全保障上の重大な課題として、原油には国家備蓄が約138日分(2024年4月時点)確保されている一方で、ナフサ自体には国家備蓄が存在しないという事実があります。このことは、海外からのナフサ供給が途絶した場合、国内の産業が危機に直面しやすくなることを意味しています。
なお、かつては、ナフサも他の石油製品(国家備蓄の原油のほか、民間備蓄のガソリンや灯油など)と同様に、1976年制定の「石油備蓄法」に基づいて全量の備蓄が義務付けられていました。しかし、以下の経緯で撤廃に至りました。
- 国際競争力の低下と業界の要望: 1970年代のオイルショック以降、日本の石油化学業界は国際価格よりも割高な国産ナフサの購入や、重い備蓄コストの負担によって国際競争力を大きく落としていました。そのため、業界側からナフサ輸入の自由化と備蓄義務の撤廃が強く求められました。
- 1982年の省議決定: この要望を受け、1982年(昭和57年)4月に当時の通商産業省(現・経済産業省)が「石油化学原料用ナフサ対策について」を省議決定しました。
- 段階的な撤廃: 国家備蓄(原油)の増強といった新しい備蓄体制への移行と並行する形で、ナフサの備蓄義務量は毎年5分の1ずつ段階的に軽減され、1993年度(平成5年度)から完全に義務対象から除外されることとなりました。
中東情勢の悪化に伴う供給危機とアジアへの影響
世界、特にアジアのオレフィン(エチレンやプロピレンなど)の需給を左右する中東産ナフサは、そのほぼ全量がアジア向けに輸出されています。そのため、日本、韓国、台湾といった原油やナフサの大半を中東に依存している北東アジア諸国は、ホルムズ海峡の実質的な封鎖などに伴う供給の急減や価格高騰の影響を極めて受けやすいという脆弱性を抱えています。対照的に、中国は原油の5割超を中東に依存しているものの、エチレンの原料としてはナフサ以外にも石炭、メタノール、エタンなどを多様に活用しており、リスクが比較的分散されています。
中東情勢の緊迫化に伴い、実際に3月の中東からのアジア向けナフサ供給量は前月比で約85%も減少するという事態が発生しました。このような急激な供給減と価格の高騰は、川下製品へのコスト転嫁の遅れと相まって、エチレンを生産するナフサクラッカー企業の深刻な採算悪化を招きました。その結果、北東アジアにおける稼働率は、2月の約80%から3月には60%へと急低下する事態となり、安定供給が危ぶまれる中で各社は稼働停止を避けるための綱渡りの操業を強いられています。
この危機に対し、隣国の韓国ではロシア産ナフサの輸入拡大や自国からのナフサ輸出の抑制、さらにはリサイクル材の活用などを検討し、中東以外の調達先の確保に奔走しています。一方、実は欧州市場においては異なる課題が生じており、これまでアジア向けに輸出されていた中国、インド、中東からの安価なナフサやバージンプラスチック、再生プラスチックの行き所がなく、欧州に流れ流入が増加したことで、域内の関連企業や産業が停滞に追い込まれるという事態が起きています(図3)。

図3 欧州におけるプラ事業を取巻く環境変化について 出典:農林水産省
サプライチェーンおよび川下産業への波及的影響
ナフサの供給不足がもたらす影響は、単に化学メーカーの減産にとどまらず、広範な産業に波及します。主に以下の2つの経路での影響が懸念されています。
第一に、石油化学サプライチェーンの供給混乱の長期化です。前述の通り、ナフサは自動車部品、日用品、医療物資、半導体などの電子部品に至るまで、極めて多様なサプライチェーンの基盤に組み込まれています。そのため、基礎化学品の供給減は誘導品の不足や資材・部材のコスト上昇を引き起こし、川下産業においてインフレ圧力や景気減速懸念として遅れて出現します。この影響は一度発生すると、サプライチェーン全体の修復に長い時間を要することが想定されます。
第二に、代替原料への変更に伴う「製品バランスの歪み」という問題です。中東からの調達が困難になった場合、米国産やマレーシア産などの「軽質ナフサ」へと原料を代替することが考えられます。
具体的には軽質ナフサを使用するとエチレンは得られるものの、ブタジエンや芳香族(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)といった副生留分が採れにくくなります。
これらの副生留分は、合成ゴムやポリスチレン、ナイロンといった重要な中間製品の原料となっているため、結果として特定の川下製品において予期せぬ供給逼迫を招く恐れがあります。
つまり、米国産やマレーシア産などの「軽質ナフサ」へ原料を代替した場合、ナフサの品質の違い(軽質か重質か)によって分解時に得られる製品の比率が変わり、「製品バランスの歪み」が生じます。中東からの供給不足を補うための代替調達が、別の製品の供給不足を引き起こすリスクに繋がるため、十分な警戒が必要とされています。
さらに、足元では原料としてのナフサ不足だけでなく、中東から直接輸入していた汎用樹脂など川下製品自体の供給も減少しています。これにより、一部の製造業では「国内のナフサクラッカー減産による供給減」と「輸入製品の供給減」という二重の打撃を受ける可能性があり、影響の深刻化に対して十分な警戒が必要です。
短期的な需給安定化に向けた日本の対応
このような危機的状況において、日本は官民を連携させ、化学品全体の安定供給に向けた緊急対応を進めています。ナフサには国家備蓄がありませんが、民間における運転在庫や川下製品の在庫を活用することで急場をしのぐ計画です。
具体的には、以下の要素を組み合わせて供給を維持しています。まず、ポリエチレン等の川中・川下製品の在庫を活用します。これだけでも国内需要の約2ヶ月分に相当します。
次に、中東以外(米国や南米など)からのナフサ輸入を加速させ、従来の約45万キロリットル/月から約90万キロリットル/月へと倍増させます。前述の通り、中東以外のナフサの量は約2割でしたが、倍増の約4割を確保できることとなります。
さらに、国内精製拠点において原油からの精製を継続し、約110万キロリットル/月相当のナフサ生産を維持します。例えば、鈴木農林水産大臣がマレーシアを往訪し、5月1日ナフサ及び原油の引き続きの安定供給についても確認等しています(図4)。
原油そのものについては、 6月については、現時点で約7割以上の調達に目処が立っており、特に米国からの調達は前年比で約8倍(5月調達分から倍増)に達する見込みです。調達先の地域も拡大しており、中東や米国に加えて、中南米(エクアドル、メキシコ等)、アジア太平洋(マレーシア等)、5月には中央アジア(アゼルバイジャン、カザフスタン等)、6月にはアフリカ(ナイジェリア等)へと広がっています。7月以降も、6月の水準を上回る代替調達の確保を目指しており、原油による国内製造のナフサの生産量は維持できるものと想定されます。

図4 マレーシアでの取り組み 出典:国土交通省
国内の原油由来ナフサについては約4割となっており、基本的には原油由来から精製されていいます。これによって、中東以外からのナフサの生成は、国内の4割と中東以外の4割の合算により、例年の8割を維持することが可能と想定されます(図5)。

原油からのナフサ得率、ナフサ輸入構成・製品得率 出典:内閣府
なお当面は、「川中の製品在庫の活用」や「川中の製品調達」によって、ナフサ不足への対策が進められる形となります(図6)。

図6 ナフサ由来の化学製品の需給見通し 出典:内閣府
ただし、例年の10割ではなく8割程度の供給能力のため、何も対策を講じなければ徐々に在庫が減っていく可能性が高いです。政府としては、中東以外からの輸入が135万KL/月に増やしていく方向もあり、そうした場合は2026年の年を超えても在庫がある形です。ただ徐々に目減りしていく未来があるので、抜本的な対策をしていく必要があります(図7)。

図7 ナフサ由来の化学製品の需給予測 出典:内閣府
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執筆者情報
一般社団法人エネルギー情報センター
上智大学地球環境学研究科にて再エネ・電力について専攻、卒業後はRAUL株式会社に入社。エネルギーに係るITを中心としたコンサルティング業務に従事する。その後、エネルギー情報センター/主任研究員を兼任。情報発信のほか、エネルギー会社への事業サポート、また法人向けを中心としたエネルギー調達コスト削減・脱炭素化(RE100・CDP等)の支援業務を行う。メディア関連では、低圧向け「電気プラン乗換.com」の立ち上げ・運営のほか、新電力ネットのコンテンツ管理を兼務。
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