2029年から始まる給湯器の全面デマンドレスポンス化、エネファームの最新動向
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一般社団法人エネルギー情報センター

電力需給を安定させるデマンドレスポンス(DR)の重要性が高まる中、2029年に給湯器の全面DR化が始まります。本記事では、エネファーム等の給湯器が電力網を支える仕組みと、利用者の利便性・経済的メリットを両立させる業界の取り組みや今後の展望について解説します。
はじめに:エネルギー柔軟性とDRreadyの重要性
国際エネルギー機関(IEA)の予測によれば、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、変動性再生可能エネルギーの導入拡大に伴う「短期的な柔軟性」の需要は、2022年比で4倍以上に増大するとされています。この柔軟性は、需要抑制、バッテリー、そしてデマンドレスポンス(DR)といった多様な手段で確保する必要があります。
デマンドレスポンスには「上げDR」と「下げDR」があり、上げDR(電力需要を増やす)は 太陽光発電の余剰などにより系統の電力が余っている際に行われます。一方で 下げDR(電力需要を減らす)は、夕方など系統の電力が逼迫している際に行われます。これらにより、日本全体の電力バランスが安定することとなります。
こうした背景から、資源エネルギー庁は「DRready勉強会」を設置しました。その基本方針は、家庭用機器の「機器本来の用途(利便性)とDRの共存」にあります。家庭用給湯器は、エコキュート(電気)、エネファーム(ガス)、ハイブリッド給湯器(電気+ガス)が主になりますが(図1)、デマンドレスポンスの特性上、「エコキュート(ヒートポンプ給湯機)」との相性は非常に高いものとなります。

図1 高効率給湯器の類型 出典:経済産業省
順当に進めば今後、日本の電力需給バランスのレジリエンス強化や経済性の観点から、エコキュートの進展が進んでいくものと考えられます。ただし、都市ガス需要に占める家庭部門の市場規模は30~40%程度(ご参考)となり、ガス業界にとっては大きな市場が消失することとなります。
そうした中、ガス業界は「エネファーム」を単なるガス給湯器ではなく、電力網を支える「分散型エネルギーリソース」として推進するため、独自の取組と努力を行っています。本ページでは、エネファームに焦点を当て、2029年から始まる給湯器の全面デマンドレスポンス化への対応を整理していきます。
家庭用燃料電池(エネファーム)の基本特性とDR活用の方向性
エネファームの本来の用途は、需要家への「給湯」および「電力」の安定供給です。DRの導入において最も重要な視点は、「需要家が普段通り生活している中で、意識せずとも自動的にDRが実行される」というユーザー体験の維持です。この自動化がなされない限り、DRの広範な普及は困難であるという認識が専門家の間でも共有されています。
そのためDR制御は、サービサーからの指令に基づき、機器側(またはメーカーサーバー)が需要家の生活パターンや貯湯状態を考慮して、自律的に運転計画を策定・変更する「機器主体」の制御パターンを基本としています。それらの点を踏まえ、下記のようなメリットをエネファームは打ち出せるとしています。
エネファームの基礎知識:PEFCとSOFCの特性とDRへの適性
エネファームをDRに活用する上でまず理解すべきは、搭載されている燃料電池の形式(PEFCとSOFC)による特性の違いです。この違いが、DRの対応方法に直接影響を与えます。
PEFC(固体高分子形)は運転温度が70〜90℃と低く、家庭のお湯の使用量に合わせて発電を行う「ON-OFF運転」が基本です。発電効率よりも熱回収効率に重点を置いており、一般的に100L程度の貯湯タンクを持ちます。タンクが満タンになると無駄を省くために発電を停止するため、DR(特に発電を増やす下げDR)の際には「貯湯タンクの空き容量がない時間帯がある」という点が制約となることがあります(図2)。

図2 PEFCの機器仕様 出典:経済産業省
一方でSOFC(固体酸化物形)は運転温度が700〜800℃と高く、発電効率が熱回収効率を上回るため、家庭の電力需要に合わせて24時間連続で発電を行う「電主熱従運転」が基本です。貯湯タンクは25Lと小型が多いですが、お湯が満タンになってもラジエーターで放熱しながら発電を継続できます。これまでSOFC型はDRに不向きとされてきましたが、実際の所はタイミングを問わず柔軟にDR指令に応じやすいという強みがあります(図3)。

図3 SOFCの機器仕様 出典:経済産業省
これまでは、DR活用ではPEFCが中心であり、SOFCは対応が難しいと国の委員会等では整理されていました。またエネファームでは上げDRが活用の中心となり、下げDRでのDR対応、特にSOFCの活用が難しいとされていました。しかし、3月の経済産業省による勉強会においては、いずれの形式のエネファームであってもDRへの参加や社会への寄与が可能との意見が示されました。
大枠としては、運転パターンを4つに整理し、何れのパターンにおいても、エネファームのコージェネレーションシステムとしての本来用途を損なわない形でDRが可能となります(図4)。どのような状況であっても上げ下げDRが対応できる訳ではないですが、一定程度をカバーできる工夫が施されています。なお、SOFCの太陽光優先モードは‘26年モデルから搭載する新機能となります。併設の太陽光発電で余剰電力発生時にSOFCの発電出力を抑制するもので、ハードやソフト側の技術革新によってDR対応の幅が今後も広がっていく可能性があります。

図4 DR指令前の運転パターン別の整理 出典:経済産業省
エネファームがDRに寄与する3つの仕組み
ガス業界は「エネファーム(家庭用燃料電池)」を単なるガス給湯器ではなく、電力網を支える「分散型エネルギーリソース」として推進するため、以下のような独自の取組と努力を行っています。現状の主な論点は下記の3点となります。
1. 「発電できる」強みを活かした逆潮流への対応と役割拡大
電力を消費(時間シフト)するエコキュートに対し、エネファームの最大の強みは「自ら発電する」点にあります。ガス業界は、系統の電力が余った際に発電を抑える「下げDR」だけでなく、電力が逼迫した際に発電を増やして系統を助ける「上げDR」の技術要件の整理を進めています。
特に、家庭で使い切れない電力を系統に流す「逆潮流」を活用するため、都市ガス系小売事業者が自らDRサービサーとなってその電力を買い取るなど、エネファームを社会の「小さな発電所」として機能させる枠組み作りを主導しています。
しかし、これには制度上の課題も伴います。 逆潮流した電力を誰が買い取るのか(コスト負担)、また一般送配電事業者への接続申し込みなどの手続きが必要となります。ただ対策の事例も出てきており例えば、環境省の脱炭素先行地域事業で岡崎市と進めている取組では、地域新電力のバランシンググループで再エネ余剰が発生するため、ローカルエリア内での調整力としてエネファームを活用し、地域新電力がDRサービサーとして逆潮流分を買取る運用にトライする事例も出てきています。
2. 顧客の経済的メリット(光熱費削減)を守るインセンティブ設計
エネファームをDRで外部制御することによる、一般のユーザー(需要家)への影響はどうでしょうか。最大の懸念は「利便性やレジリエンスが損なわれないか」という点ですが、これについては全く影響がないと整理されています。
- お湯切れの心配なし: DRによって発電を止めたり時間をずらしたりしても、バックアップ熱源機が稼働するため、お湯が足りなくなることはありません
- レジリエンス機能の維持: 停電時でも自立発電して電気とお湯を供給する機能は、DRに参加していてもそのまま維持されます
一方で影響が出る可能性があるのが「光熱費」です。エネファームは本来、各家庭の使用パターンを学習し「最も光熱費が安くなる(省エネになる)」ように自動運転しています。DR指令によってこの最適な計画を曲げるため、光熱費の削減効果が薄れる可能性があります。
そのため業界団体は、「お客様の便益(光熱費削減)を犠牲にすることを前提とはしない」とし、機器の能力の「使い切れない余剰分」を調整力として活用することで、DR協力に対するインセンティブ(追加の経済的メリット)を需要家に還元する仕組みづくりが不可欠であると訴えています。今後、このあたりの制度設計がどうなるかによって、ガス業界の市場規模は大きく変わってくるものと想定されます。
3. 利便性とレジリエンス(災害への強さ)の完全担保
DRに参加することによる顧客の不利益や不安を払拭するための努力も徹底しています。DR指令によってエネファームの発電を停止・抑制した場合でも、内蔵されたバックアップ熱源機が稼働するため、お湯切れなどの生活への支障は一切発生しない仕様として整理しています(図5)。
さらに、ガス供給が続く限り停電時でも自立発電して電気とお湯を供給できる「レジリエンス機能」は、DR参加時であっても全く影響を受けず維持されることを明言し、災害時の安心感をアピールしています。
このようにガス業界は、単に通信機能を追加するだけでなく、自ら逆潮流の受け皿となり、顧客が損をしない経済ルールの整備に尽力することで、DRready時代においてもエネファームが選ばれ続けるための競争力強化を図っています。エネファームは、高い省エネ性とレジリエンス機能を備えた需要側リソースとして、系統の安定化とユーザーの利益を両立させる重要な役割が期待されています。

図5 DRによる本来用途への影響 出典:経済産業省
DRによる経済メリット
ガスおよび電気料金の設定等によりますが、現状の電力およびガス市場においては、ガス給湯器からエコキュートに切り替えを行うと、初期費用が発生しますが、光熱費を削減できるケースが多いです。そのためエコキュートが徐々に普及しておりガス業界は厳しい状況とも言えますが、DRのインセンティブ設計によって、給湯に係る費用が今後変わっていきます。
ただしDR協力に対するインセンティブ設計は、特定の金額が一律に決まっているわけではなく、アグリゲーター(DRサービサー)や小売電気事業者を通じて需要家(消費者)に経済的メリットを還元する仕組みとして整理されています。具体的なインセンティブの仕組みや考え方は以下の通りです。
1. 需要家が得られるインセンティブ(メリット還元)の種類
電気料金の直接的な削減: 時間帯別料金(TOU)やリアルタイムプラインシング(RTP)の安い時間帯に機器を稼働させることによる電気代の削減や、自家消費の最大化による従量料金の削減、ピークカットによる基本料金上昇の回避などが挙げられます。
電力市場等からの収益還元: アグリゲーターが需要家の機器を制御し、需給調整市場や容量市場、経済DR(小売電気事業者の調達費用削減)などで得た収益を、需要家に対して「メリット還元」として支払う形が想定されています。
多様な契約・報酬形態: アグリゲーターとの契約形態によって、DRの実現時に報酬を支払う「非コミット型リベート」、事前の削減コミットに対して報酬を支払う「コミット型リベート」、あるいは設備の制御権を譲渡することに対して報酬を支払うモデルなどが存在します。
2. インセンティブ付与のための「貢献度」の算定
インセンティブ(対価)を支払うためには、需要家がどれだけDRに貢献したかを測る必要があります。例えばエネファームの場合、定額付与とするか等についても議論されていますが、基本的にはDRサービサー側が需要家の受電点メーターなどの実績から「通常通り運転した場合の予測(ベースライン)」を作成し、実績との差分を「DR貢献度」として算定する運用が想定されています。需要抑制量に基づいて対価が支払われる場合は、ガイドラインを参考にアグリゲーターと需要家間で協議してベースラインを定めることとされています。
3. 業界の基本方針(既存の便益を損なわない追加価値の提供)
機器(特にエネファームなど)をDRによって外部から制御することで、本来の省エネ(光熱費削減)効果が変わってしまう可能性があるため、DR協力に対するインセンティブを付与する仕組みづくりが重要であると認識されています。
これについて業界団体(燃料電池実用化推進協議会)は、「お客様の便益(光熱費を下げること)を犠牲にすることを前提とするものではない」と明言しています。あくまで既存の省エネ価値を大前提とした上で、機器の使い切れない余剰分を調整力として活用し、需要家へ「追加的な価値」としてインセンティブを創出・提供することを目指して制度の検討が進められています。
今後のスケジュールと普及への展望
2029年度のDRready対応機器の市場導入に向けた直近のスケジュールは以下の通りです。
1. 規格・基準の整備とユースケースの具現化(2026年度〜2027年度) 市場導入に向け、まずは機器の通信や制御に関する規格化が最優先で進められています。
ユースケースの整理: サーバーやゲートウェイを使ったDRのユースケース整理と対応方法の具現化を進めます。また、 2027年3月にはJRA規格(日本冷凍空調工業会標準規格)を制定する予定です。併せて、認証・試験基準の整備: DRに対応するためのAIF認証や試験基準の整備や、「セキュリティ要件適合評価及びラベリング制度(JC-STAR)」への対応(★1や★2の要件整備)が進められます。
2. 規格整備の完了目標(2027年度中)
DRready機器の発売を少しでも前倒しできるよう、上記のような各規格や基準の整備を2027年度中には完了させる方針で調整が進められています。
3. メーカーによる機器開発と市場導入(〜2029年度)
策定された規格やセキュリティ要件に基づき、各メーカーが並行して機器の開発を進めます。各社で開発スケジュールは異なりますが、2029年度にはDR対応機器を市場へ本格導入(発売)することを目標としています(図6)。これによって、2029年から給湯器の全面デマンドレスポンス化が始まることと想定されます。

図6 今後のスケジュール 出典:経済産業省
まとめ
給湯器のDRready化は、単に「家庭の給湯・発電機を遠隔操作する」という枠を超え、数百万台規模の分散型リソースを束ねて巨大な仮想発電所(VPP)を構築する国家プロジェクトの一部です。経済産業省の勉強会で整理されたユースケースや通信・制御要件をもとに、2026年度中には詳細な規格が策定され、2029年度にはDR対応エネファームが本格的に市場へ導入される予定です。
光熱費削減という本来の価値に、「社会インフラを支えて対価を得る」という新しい価値が加わることで、エコキュートやエネファームなどの高効率給湯器は次世代のエネルギー社会においてさらに重要な役割を担うことになるでしょう。また、新たなビジネス市場の創造にも繋がり、エネルギー業界への大きなイノベーションが起きることも期待できます。
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一般社団法人エネルギー情報センター
上智大学地球環境学研究科にて再エネ・電力について専攻、卒業後はRAUL株式会社に入社。エネルギーに係るITを中心としたコンサルティング業務に従事する。その後、エネルギー情報センター/主任研究員を兼任。情報発信のほか、エネルギー会社への事業サポート、また法人向けを中心としたエネルギー調達コスト削減・脱炭素化(RE100・CDP等)の支援業務を行う。メディア関連では、低圧向け「電気プラン乗換.com」の立ち上げ・運営のほか、新電力ネットのコンテンツ管理を兼務。
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