公取委実務から考える独占禁止法〔第2版〕
発売日:2022年10月5日
出版社:商事法務

本書の著者は、公正取引委員会の元委員であり、弁護士としても第一線で活躍している人物です。公取委の内側(法執行者)からの視点と、外側(実務家・弁護士)からの視点の双方を併せ持つ著者だからこそ書ける「血の通った実務書」として、高い評価を得てきた名著の改訂版となります。
実務現場に常備すべき公正取引の「羅針盤」
本書は、独占禁止法について、単に条文や制度を解説するだけではなく、「公正取引委員会は実際の案件をどのように見て、どのように判断しているのか」という実務的な視点から学ぶことができる一冊です。著者は公正取引委員会委員を務めた経験を持つ幕田英雄氏であり、行政実務を踏まえた解説が本書の大きな特徴となっています。
独占禁止法と聞くと、カルテルや談合など、一部の大企業や特殊な事件に関係する法律という印象を持つ方もいるかもしれません。しかし実際には、商品の価格設定や取引条件、競合企業との情報交換、取引先との関係、業界団体での活動、企業買収など、さまざまな企業活動と関係しています。
特に電力・エネルギー業界では、電力自由化によって多数の事業者が市場に参入し、料金プランやサービス、電源調達などをめぐる競争が行われています。発電事業者、小売電気事業者、需要家、代理店など、多くの事業者が取引関係を持つため、公正な競争環境を維持するという独占禁止法の考え方は、決して遠い存在ではありません。
実際に本書でも、電力やガス・石油等といった「エネルギー」をテーマとした事例などを数多く紹介しています。特に石油関連に関しては、海賊と呼ばれた男を読んでいると、リンクする部分があり面白味を感じる方もおられると思います。
また「差別対価」は、電力等のみならず、あらゆる業界にとって極めて重要な定義となります。地域や相手方により、不当に差別的な価格で取引を行うことであり、特定の競争者を市場から排除したり、他の事業者の事業活動を困難にさせたりして、公正な自由競争を阻害するおそれがある場合に問題となります。
この点に関連するものとして、非常に有名な事例の一つとしては、2023年の「旧一般電気事業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」ともリンクする部分があります。その他にも、例えば「原価割れ」になっていなくても、大きなシェアを持ち強大な競争力を有する事業者が、その力を背景にして行う場合など、不当な力の行使と認められる特段の事情があるときは違反が成立し得るとした裁判例なども本書では紹介されています。
本書では、独占禁止法の基本から、不当な取引制限、私的独占、不公正な取引方法、企業結合、知的財産権との関係など、幅広いテーマが取り上げられています。内容は専門的ではありますが、それぞれの制度について「どのような考え方で違法性が判断されるのか」が丁寧に説明されており、実際の事例を考える際のヒントを得られます。
本書を読むうえで特に参考になるのは、「この行為は禁止されています」と結論だけを覚えるのではなく、その背景にある競争への影響を考えることの重要性です。
企業活動では、一見すると同じような行為であっても、市場の状況や当事者の立場、取引先への影響などによって評価が変わる場合があります。そのため、独占禁止法を理解するには、個別のルールを暗記するだけでは十分ではありません。「その行為によって競争が妨げられるのか」「取引先の自由な判断が制限されるのか」といった視点が必要になります。
本書は、公取委が事案を判断する際に、どのような点に着目しているのかを知ることができるため、こうした考え方を身につけるうえで役立ちます。
一方で、法律に初めて触れる方にとっては、最初からすべてを理解しようとすると少し難しく感じるかもしれません。その場合は、冒頭の基礎的な部分を読んだ後、自分の仕事に関係するテーマから読み進める方法がおすすめです。
例えば、営業や事業企画に携わる方であれば取引条件や競合他社との関係について、経営に携わる方であれば企業結合や市場競争について、といった形で必要な部分から読むだけでも十分に活用できます。一度読んで終わる本というよりも、業務で気になる問題が生じた際に、該当する部分を読み返す実務書として使うのに適しています。
独占禁止法は、企業が自由に競争できる環境を守るための基本的なルールです。市場環境が変化し、新しいサービスやビジネスモデルが次々に生まれる現在、その考え方を理解しておく重要性はますます高まっています。
全体を通して、著者の「公取委実務を深く理解し、独禁法を使いこなしてほしい」という熱意が伝わってくる内容です。学術的な正確性を損なうことなく、徹底して実務家のニーズに応えるバランス感覚は秀逸と言えます。
本書は、法律の専門家だけでなく、経営者や営業担当者、企画担当者など、企業活動に関わる幅広い方にとって、「公正な競争とは何か」を改めて考えるきっかけとなる一冊です。特に、競争環境の変化が大きい電力・エネルギー業界に携わる方には、実務を考える際の参考書としておすすめしたい書籍です。
本ページの書評作成者

一般社団法人エネルギー情報センター
上智大学地球環境学研究科にて再エネ・電力について専攻、卒業後はRAUL株式会社に入社。エネルギーに係るITを中心としたコンサルティング業務に従事する。その後、エネルギー情報センター/主任研究員を兼任。情報発信のほか、エネルギー会社への事業サポート、また法人向けを中心としたエネルギー調達コスト削減・脱炭素化(RE100・CDP等)の支援業務を行う。新電力ネットの運営全般に係る統括責任者、また個人やご家庭の方への情報発信媒体として「プライスエナジー」の立ち上げを行い、コンテンツ管理を兼務。
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