雪氷熱利用
雪氷熱利用とは
雪氷熱利用とは北海道を中心に導入が進んでいる取り組みであり、冬の間に降った雪や凍らせた氷を保管することで、冷熱が必要となる時期に利用するものです。
背景
古くから世界中に、冬のあいだに作った氷を保管する氷室というものは存在していました。日本では奈良時代の文献にも出てきます。冷蔵庫などない時代から存在していた伝統的なエネルギーの効率利用といえます。
特に日本のような、冬は雪がたくさん降るのに夏は氷が必要なくらい暑いというような気候の国では重宝されていました。しかし氷は貴重なものであったため、身分の低い者はなかなか手に入れる機会がなかったようです。
温度差熱利用との違い
温度差熱利用は水源と気温などの温度差を、ヒートポンプを使って利用します。冬場に雪が降らない地域でも利用できる反面、ヒートポンプの設備が必要となります。
雪氷熱利用は冷熱をエネルギーとして取り出すのに必要な設備があまりありません。温度差熱利用は夏場も冬場も利用できる代わりに有効な温度差(気温と水温の差)が小さいです。
雪氷熱利用は夏場しか利用できない代わりに有効な温度差(気温と氷の温度の差)が大きいです。雪氷熱利用は温度差熱利用の一部ともいえます。
詳細
雪氷熱利用の主な方式として大きく分けて2つ、自然対流方式と強制対流方式があります。更に、自然対流方式は氷室型と雪室型、強制対流方式は冷水式と空気式にそれぞれわけることができます。
利用形態
①氷室、雪室
倉庫に雪や氷を貯蔵し、その冷熱で野菜などを貯蔵します。設備は氷室、雪室などの建物のみで行えます。
②雪冷房・冷蔵システム
雪や氷の冷熱を循環させて冷蔵、冷房に利用します。雪や氷が実際にある空間以外にも冷熱を送れますが、循環のためにシステムが必要となります。
③アイスシェルター
氷を冷熱源として冷房や冷蔵に利用します。
④人工凍土システム
貯蔵庫の周辺を人工的に凍土状態にし、その冷熱を農作物の長期低温貯蔵などに利用します。
メリット
- 氷や雪で冷却した空気は適度に水分を含んでおり、農作物の保存に適している
- 今まで処理に膨大な費用がかかっていた雪を積極的に利用することでデメリットをメリットに変えられる
- 寒冷地でしかできない事業のため、シンボル化、差別化を図ることができる
- 冷蔵なら農作物を乾燥させずに保存できる
- エアコンや冷蔵庫の代わりとなるため、CO2排出抑制、省エネに貢献できる
- 毎年雪は降るので石油のような資源の枯渇の心配がない
- 雪や氷は空気中の塵や塩分などの不純物を吸収しやすいのできれいな冷却風を送れる
デメリット
- 膨大な量の雪や氷を貯蔵する倉庫などに設備コストがかかってしまう
- 冷熱を取り出す施設とその冷熱を利用する設備間に距離があると、冷熱の運搬時に損失が発生してしまう
- 導入事例が少なく、他分野への応用も進んでいない
- 雪や氷を冷熱利用設備まで運搬する必要がある
- 暖冬や夏の猛暑などの気象条件によっては冷熱量が確保できないこともある
事例
この雪氷熱利用を用いて新潟県では「グリーンファーム雪中貯蔵施設」「越後雪くら館」といった食品、日本酒の貯蔵庫があります。また長野県山ノ内町では「暮し」「農業」「イベント・観光」などの分野で雪を利用するプロジェクトがあります。
今後の展望
設備の低コスト化と冷熱利用の効率化によってさらなる導入が期待されていますがエネルギーという観点だけでなく、豪雪地帯にシンボルをもたらすことも大きな影響とされています。
また、冬に雪が降らない地域に雪や氷を輸送し、雪を楽しんでもらうという試みも行われています。長野県山ノ内町では今後の雪の利用法として真夏に保存した雪を使い雪合戦イベントを開催する、真夏のホテルで雪を散らしてお迎えする、といった活用方法が実施されています。今後このようなイベントや、おもてなしの方法が増えていくことが期待されます。