お得感を引き出すマーケティング①~電力のセット販売は有効?~

2016年07月13日

スカイライトコンサルティング株式会社

ソーシャルイノベーション・ラボ リーダー 斉藤学

お得感を引き出すマーケティング①~電力のセット販売は有効?~の写真

前回はイントロダクションとして、本コラムの趣旨、お伝えしたいこと、今後の掲載内容をについてお話しました。今回は、「疑問2:セット販売は有効?」という疑問に対し、他の商品とセットで売る販売手法を機能させるため考えるべきことをお話します。(スカイライトコンサルティング株式会社 斉藤学)

イントロダクション

前回はイントロダクションとして、本コラムの趣旨、お伝えしたいこと、今後の掲載内容をについてお話しました。また、7つの疑問の最初として「安ければ本当に誰でもスイッチング(事業者の切り替えを)するのか?」という問題提起を行いました。そのうえで価格競争は恒久的なマーケティング戦略とはなりえず、価格競争のマイナススパイラルを避けるための戦略を綿密に検討することが重要であることを強調させて頂きました。

第2回以降ではその具体的な方策について掘り下げていきます。今回は、「疑問2:セット販売は有効?」という疑問に対し、他の商品とセットで売る販売手法を機能させるため考えるべきことをお話します。

そもそも電力自由化の目的のひとつに「消費者の多様なニーズに応える」ということがある以上「お得感」が利用者を自社サービスに引き込む重要な意思決定要素であることは間違いありません。現在、電力各社の広告・宣伝において訴求しているのもほとんどが「お得か否か」です。

その中で「お得感」を感じさせる基本的な手法の一つにセット販売があります。このセット販売、電気サービスのスイッチングにおいて本当に効果的なのでしょうか?具体的にどのような組み合わせが有効なのでしょうか?

疑問2:セット販売は有効?

2016年6月4日付の日本経済新聞記事「新電力に明暗 通信会社などは苦戦」によると、小売電力自由化から2カ月の状況として、ガスやガソリンなどとセット販売を行っているエネルギー大手では新規契約数を増やす一方で、携帯電話とセット販売を行っている通信会社では新規契約者数が低迷していると伝えられています。まだ序盤戦の状況であり、今後の動向を注意深く見据える必要はあるものの、この差はどうして生じたのかを考察することはセット販売の有効性を考える上で重要だと思います。

そもそもマーケティング手法としてのセット販売は、複数の製品やサービスを組み合わせて、個別に購買するよりも低い価格を設定することである「価格バンドリング」戦略に基づき行われること一般的です。身近な例としては、ハンバーガーのセットメニューがあげられます(ポテトなどのサイドメニューを個別に購入するよりもセットで購入するほうが全体の価格が安くなる)。この価格バンドリング戦略の有効性を高めるには、一緒に販売(バンドリング)する製品・サービス同士が「補完的」であるかどうかがポイントであると言われています。

補完的であるとは「ある製品・サービスの魅力を、別の製品・サービスが高め、両方の消費が増加する」といった相関関係にあるという意味です。たとえば、パンに対して、バターやジャムのような関係性です。最近では新しいパソコンを購入する際に、インターネット接続サービスやソフトウェアをセットにするなどの販売手法も補完的な価格バンドリング戦略の成功事例と言えます。

ポイント
  1. セット販売は「価格バンドリング」と呼ばれるマーケティング手法のひとつ
  2. 「価格バンドリング」では一緒に販売する製品・サービスが補完的なことが望ましい

筆者が通信会社に勤務していた1990年代後半頃は電話料金の相次ぐ値下げが続くなか、自社サービスの魅力を高め、通信収入を増やすため、まさに補完的な位置づけとしてインターネットサービスプロバイダー事業に新規参入した時代でした。その後固定電話から携帯電話に市場トレンドがシフトした現在でも、ケーブルテレビなど国内通信市場において様々な「価格バンドリング」戦略が展開されていることは皆さんもご承知のところかと思います。

補完関係においてどちらが主となるべきか?

では、電力消費と「補完的」な関係性にある製品・サービスにはどういったものがあるのでしょうか?電力消費の難しいところは一般的にそれ自体が主役ではなく、他の製品・サービスに対する脇役としての位置づけ(電気を使う製品・サービスの消費が増えると電力消費も増える)にあるというところでしょう。

2016年5月11日にクリエイティブジャパンが公表した「電力自由化に関するアンケート」の結果に興味深い調査結果があります。(運営するマーケティング資料のポータルサイト「資料JP」(https://siryou.jp/4567/)に掲載)。

この調査によると「電力会社の変更を行わなかった理由」第1位として55.4%が「各社の料金プランなどを調べるのも大変そうだったから」と回答しています(n=717)。第2位の「各社の料金プランなどを調べたが、よくわからず決めかねたから」(29.4%)を合わせると8割以上の方が「正直よくわからない」という状況のようです。これはあくまでひとつの調査結果に過ぎませんが、一般的な消費者の心情を端的に表している気がしませんか?

つまり電力のセット販売においては電力そのものお得感を訴求するよりも、電力消費と「補完的」な関係にある製品・サービスを主として「お得感」を訴求するほうが、一般消費者にとっても実はわかりやすい(選択しやすい)のではないか?というのが今回のポイントです。

ポイント
  1. 多くの消費者にとって自由化のメリットは「正直よくわからない」というのが現状
  2. セット販売では電力消費と「補完的」な関係にある製品・サービスを主として訴求すべき

個人向け電力市場における現状の取り組み

こうした動きは既に始まっています。たとえば、家電量販店との提携。家電製品を購入する際には少なからず消費電力が気になります。電気料金の見直しを消費者にリアルに考えさせる機会としては非常に有効でしょう。実際、中部電力はエディオン、東京電力はビックカメラ、ENEOSでんきは家電量販店ノジマと提携し、それぞれ店頭販売を開始しています。そして今後もこうした動きはさらに広がっていくと考えられます。

東京ガスをはじめとする大手ガス会社でも自社商材とのセット割引(セット販売)を積極的に展開し、自由化直後の実績としては勢いが感じられます。このセット販売の注目すべき点は、これまで一般家庭において「光熱費」と視点で代替的な商品であった電気とガスをバンドルしていることです。代替的な商品(代替材)とは、「一方の商品の価格が変化すれば、もう一方の商品の需要量がその変化と同じ方向に変化する」という関係にあるものです。身近な例としては朝ごはんにご飯かパンを食べる家庭において、お米の値段があがるとパンの消費量が増えるという関係などです。

市場特性を考慮した有効活用に関する提言

もちろん、販売が好調な理由としてガス会社の知名度と既存顧客数の多さ、そして個別訪問可能な販売力などがまずあるとは思います。ただ、光熱費全体と考えたときに「どうせどちらも使うなら」という消費者の心情と、複雑な計算が不要でわかりやすい「お得感」が、利用者に切り替えを促す効果は大きいと思われます。実際、欧米でも電力自由化後の市場において既存電力会社と競い合っているのは大手ガス会社というのが実情であることを考えると、利用者をスイッチングさせるには有効な手法であることは間違いありません。

ただ、このバンドリング戦略は結局、市場の拡大(電気またはガスの消費量が増える)につながるわけではなく、単なるゼロサムゲームの中での割引でしかないことを考えると、顧客獲得後の長期的な戦略としては、光熱費にプラスの影響を与える補完的な商品(空調機や給湯器、照明など。大きなものでは住宅)との価格バンドリングが有効であると考えるべきです。(この議論は第8回「重要なのはターゲット顧客の見極めと顧客生涯価値(LTV)の最大化」にてもう少し掘り下げてお話しします)

一方で、通信会社のセット販売。携帯電話との価格バンドルが主力ですが、携帯電話の場合通話料・通信料こそ気にすることは多いと思いますが、その電気代を気にする消費者はそれほど多くなないはずです(充電時間やバッテリー容量などは別ですが)。現状の低迷している状況はここに原因があるのではないかと思います。

ポイント
  1. 利用者の短期的なスイッチングには代替材のバンドリングにて訴求する方法もある
  2. 長期的な視点では「光熱費と補完関係にあるにプラスの影響を与える補完的な商品」を意識したセット販売を訴求すべき

今回のまとめ

「お得感を引き出すマーケティング①」としてセット販売について取り上げ、その有効活用にについて考察しました。セット販売では商品特性に合わせて、メインとなる商品と補完関係にある商品を組み合わせるが効果的であることをご理解いただけたでしょうか。

ポイント
  1. セット販売(価格バンドリング戦略)は競争環境にある市場で採用される古典的マーケティング手法の一つ
  2. 価格バンドリング戦略では一緒に販売する製品・サービスが補完的であることが重要
  3. 個人向け電力販売でも光熱費と補完関係にある商材をバンドルするほうがその効果性は高い

如何でしたか?

次回第3回は「お得感を引き出すマーケティング②」として「疑問3:ポイントサービスは有効?」という視点で、セット販売を有効に機能させるために考えるべき事項のお話をさせて頂きます。ご期待ください!

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執筆者情報

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ソーシャルイノベーション・ラボ リーダー 斉藤学

官公庁、大手民間企業を中心に社会変革に繋がる様々なプロジェクトに従事。専門はプロジェクトマネジメント、新規事業開発、ソーシャルマーケティング等。所属企業におけるコンサルティング業務の傍ら、非営利団体・大学等教育機関を対象としたプロボノ活動を展開中。一般社団法人PMI日本支部理事(教育国際化)、一般社団法人新興事業創出機構(JEBDA)理事、北海道大学非常勤講師、広島修道大学・広島市立大学非常勤講師、PMP(Project Management Professional)。

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