電力・ガス自由化の真実

発行年月日:2017年5月26日
発行所:エネルギーフォーラム

著者:野村宗訓、草薙真一

電力・ガス自由化の真実の写真

本書は、資源小国で地理的に孤立している日本が、電力・ガスの自由化によって何を狙っているのか、そして自由化の進め方からどんな弊害が生じるのかを、国際比較や制度設計の検証を通して明らかにしています。

著者インタビュー

著者情報

野村宗訓の顔写真

関西学院大学大学院経済学部教授、国際公共経済学会会長

野村宗訓氏

1958年兵庫県生まれ。1986年に関西学院大学大学院経済学研究科博士課程修了。同大経済学部教授、国際公共経済学会会長、現職。

草薙真一の顔写真

兵庫県立大学経済学部長兼経済学研究科長、国際公共経済学会理事

草薙真一氏

1966年愛媛県生まれ。1996年に慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得。兵庫県立大学経済学部長兼経済学研究科長、国際公共経済学会理事、現職。

昨春の電力小売全面自由化に加え、今春からガス自由化も開始され、多数の新規参入者が現れたことは画期的といえる。それに伴い、セットメニューで割安感が強調されるなど、派手な広告宣伝が目に付くようになった。確かに利用者が供給先を変更する「スイッチング」が可能になったのだが、必ずしも料金が下がり続けるわけではない。

利用者がどの会社と契約すれば、実際に「お得」なのかは簡単に判断できない面もある。多くの人がスマホの更新時に、メニュー選択で悩んできた経験があるだろう。その通信サービスに加え、電力・ガスの契約や電子マネー、商業施設の特典も付与され、複雑になりすぎている。結果的に、顧客囲い込み戦略が激化しているが、適正な取引の確保も強く望まれる。

自由化による競争圧力の意義も認められるが、依然として安定供給をどのように達成するかが政策に盛り込まれなければ、供給不足により産業活動と日常生活が危機に晒されてしまう。本書では、電力・ガス市場の特性や自由化の政策効果を検証し、自由化後も設備投資や利用者保護の視点が不可欠である点を明らかにしようとした。

わが国が「エネルギー資源小国」であることを、国民は再認識する必要がある。さらに東日本大震災以降、原発再稼働のための調査活動や除染・廃炉に伴うコスト負担について、理解を深めることも重要だろう。単純に企業間の競争が料金低下につながるという神話が成り立たない点について、本書を通じて丁寧に解説したつもりである。